昨年はデジタルシフト、AI、自動化、生産性、働き方改革といった話がニュースや雑誌・書籍で取り上げられた年でした。
私のメルマガでは、特にデジタル化をテーマとして連載形式でお伝えしていきたいと思います。
今回は第一回目として世の中の大きなデジタル技術の流れと実際について書きたいと思います。
【AI】シンギュラリティは来ない。だが・・・
おそらく多くの皆様が一番関心があり、かつ、実態がよくわからないものは AI についてではないでしょうか。
大手企業が AI を導入したという話題は2017年の後半から非常によく聞こえるようになりました。製造業でも物流生産管理に AI を導入するなど導入が進んでいます。
シンギュラリティとは、未来を予測する学問である未来学の用語ですが、「人工知能の知性が人間を凌駕し、社会の中心に人工知能が位置する」という時点のことを指します。マザーコンピュータが社会を統制するようなSFの世界が近いかもしれません。
近年のAIブームを見ていると、近いうちに本当にそうなるのかも、と思ってしまう雰囲気もありますが、ロボット工学・人工知能・数学・統計学といった各分野の研究者の意見では、「現在の人工知能の技術ではシンギュラリティは起こり得ない」ということが定説のようです。
ただし、AI自体の研究はここ10年で飛躍的に進んでいます。
例えば AI に大学試験を解かせるというプロジェクトがありますが、センター試験をAIに解かせる実験では偏差値57といった結果を出すようになっています。この偏差値の領域には、関東ではマーチ、関西では関関同立といった大学がまでもが位置します。
また東大の二次試験を解かせてみたケースでは、問題によっては9割以上の得点を得た教科もあるようです。「能力的にAIは大学入試に合格できるレベルに達した」と言ってもいい状況です。
これまで人間しか解けなかった、難解・複雑・高度な問題を解く人工知能の能力は一般的な人間を超える領域に(部分的にでも)入ってきたと言えるでしょう。
ただし上記の実際は100人を超える第一線の研究者達が取り組んだ結果であり、超最先端の領域の事象であるといえます。実際に日本企業の大手企業で使われているAIは、人の代わりに何が得体のしれない知性が働いているわけではありません。
例えば銀行のコールセンターへのAIの活用では、オペレーターと顧客の会話を音声認識し、過去の膨大な会話記録と照合、もっとも状況に近い内容のマニュアル対応をオペレータの画面に表示させるといった使い方がなされています。
製造業での活用においても、過去の物流や生産管理、購買情報等をベースとした、最適と考えられる判断を、AIが人間の代わりに統計的に行っているというのが実情でしょう。AIについては、まだエクセルマクロや生産管理システムの効率化の文脈にある使い勝手という認識でよさそうです。
【RPA】 パソコンの定型作業を自動化する
RPAのイメージは AI よりももっと簡単です。例えば、「パソコン内で特定の書類をフォルダから B フォルダを移す」「決められた文書から情報を抜き出し、ひな形へコピーペーストして新しい文書を作って担当者へメールをする」「週に1回、社内のデータベースから特定情報を抜き出して、週報として関係者に連絡メールを入れる」こういった決められた作業の自動化が可能であり、実際に導入したご関係先もいくつかいらっしゃいます。
注意点は、パソコン作業のプロセスの自動化はできるものの、効率化は成されていないいないという点です。A→B→Cという作業工程があったとして、その作業工程は無くなりません。この作業工程に費やす人的資源を代替できるという点がメリットであり、また注意点でもあります。
大企業ならば完全な定型の仕事を続けるオペレータが存在し、人員削減につながるものの、中小製造企業の場合は完全な定型作業は、多くても1日1~2時間程度が多いようです。
順序としては、まず社内のシステム関係の無駄を無くし、A→B→Cという工程を、A→Cにどうにかして短縮できないかという検討が大事です。
RPAを導入検討することは有益だと思いますが、同時並行あるいはその前に、社員のITリテラシーを高めることの方が会社全体では有効でしょう。
エクセルでVBAで簡単なプログラムを社員が使えるだけで定型業務は大きく減らせます。普段NCプログラムを使っている人であれば、すんなり理解できることかと思います。講師役はパソコン教室等でもいいですし、馴染みのシステム会社にちょっと依頼して話して頂くだけでも良い機会となります。
設備投資も重要ですが、人的資源に対する教育投資も事務系には大きな効果を発揮します。
【デジタルシフト】本格化する中堅・中小企業のデジタルシフト
デジタルシフトは昨年から頻出キーワードとなりました。
経営をデジタル化し、効率化を実現しながら新しいビジネスチャンスを生んで行こうと言う取り組みです。
おおよそこういった部分の背景には大手コンサルティング会社やシステム会社のの仕事づくりという側面も多分にあることが多いのですが(Windows7のサポート問題等を切っ掛けとした大規模システム更新等)、今後の事例としてデジタルに対応できない企業は軒並み業績が厳しくなることは明白な事実だと思います。
実際アメリカで発表された上場企業を分析したレポートにおいては、デジタルシフトができている会社とそうでない会社には、統計上で明確な営業利益率の差異が生まれています。それも1~2パーセントといった差ではなく、5~10% 以上という差です。
今後は大手企業だけでなく、中堅~中小企業のデジタルシフトが進みます。
例えばオラクルは中堅~中小企業向けのデジタルシフトチームを作るなど、基幹系システムを手掛けるITベンダーは次のターゲットを大企業からその下の層に移し始めています。
デジタルシフト全般で言うと、製造業には適用できる範囲が他業界より少ないとされます。 生産設備等、コントロールする対象が多く、またアナログな部分も多い。また業界どの企業でも当てはまるパッケージをソフト会社も作りにくいといった様々な要因があります。
しかし一方で業界全体がデジタル化については遅れているため、部分的にでも先駆ければ圧倒的な一番となれる余地があります。
今後労働時間は制限され、よい条件でも人は採用しにくく、また人がどんどん転職しやすい環境になっていくことは時流として避けられません。属人的な組織からステップアップし、「自社なりのデジタルシフト」で強く、収益性の高い組織を作っていくことはいずれの会社にも必要なことだと思います。