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3Dプリンタに見る、リバースイノベーションの衝撃

一時はブームで終わった3Dプリンタ

クリス・アンダーセンの書籍、”Makers”を契機として、3Dプリンタや〇〇Fab.と呼ばれるようなマイクロファクトリーがメディアで大々的に扱われることになったのは今から約10年前です。

その後、3Dプリンタ等を活用して治具や金型を製作したり、部品を短納期で製作したり、
といった動きが受託加工の業界である種ブーム的に起こりましたが、現在はかなり沈静化してきていると感じます。
※なお現在は3Dプリンタに留まらない、材料の付加的工法をAdditive Manufacturing(AM)と総称しますが、  本稿では簡便化のために3Dプリンタと以下で呼称します。

3Dプリンタが前回のブームから普及しなかった理由はいくつかありますが、
最も大きな理由が「価格」でした。
機種の価格、および材料の価格です。

そのため3Dプリンタは高付加価値な製品(治具、金型等)や
複雑形状・機能性部品(航空機部品等)の領域での使用に留まっていました。
一般的な機械や設備の部品加工用途で検討するには、既存の加工法と比べてコストが高くなりすぎたのです。

「導入したけれどもなかなか稼働しない」といった会社も多かったですが、 既存の(主として)切削加工と比べるとデメリットが多く見え、 また3Dプリンタに向いた仕事が普通の受託加工の会社には少なかったという事情もありました。

 

2極化する3Dプリンタメーカー

3Dプリンタ業界は明らかに2極化が進行しています。 ハイエンド領域では欧米メーカーが鎬を削り、 ローエンド ~ ミドルハイ、つまり普及機の領域までは中国メーカーが台頭するという状況です。

ハイエンドの領域では、たとえば金や白金といった貴金属、タングステン合金やチタン合金、セラミックス、ガラスといった特殊材料に対応し、かつ高速加工、高精度加工が可能な機種が次々と登場しています。

とはいえこれらの加工領域は航空機産業や防衛産業等の比較的クローズな業界や試作用途を除けば、 既存加工法の領域を大きく浸食してくる可能性は現段階では低いと考えられます。

これから大きく動くと考えられるのは、中国メーカーが台頭しているような領域です。
先進国の製品を参考にして新興国で企画・開発された製品(リバースエンジニアリング)が、 先進国からすると異常に見えるほどの機能と低価格で、先進国に導入され、既存メーカーを代替・駆逐していくことを、ビジャイ・ゴビンダラジャンが書籍「リバース・イノベーション」にて言及しました。
まさしく3Dプリンタの業界ではいまこの動きが起こっています。

3Dシステムズ社やストラタシス社といった代表的プレーヤーの製品を参考に、
同等機能を持った機種をはるかに低価格で製造販売する、中国メーカーの動きはまさに衝撃的です。
工場内の生産設備として3Dプリンタを捉えた場合、
おそらく初めて本格的、かつ大規模に普及する中国メーカー製の設備になる可能性があります。

工作機械等のシリアスかつ伝統的な生産設備であれば、
こういった動きはそこまで大きな影響を与えなかったでしょう。

しかし3Dプリンタは工作機械と比較すると部品点数は大幅に少なく、機械に物理的な負荷も大きく掛かりません。
必然的に構成部品のコスト、および組立コストは低く出来ますし、制御系の課題をクリアできれば加工精度も安定します。

 

日本国内で起こりつつある加工のパラダイムシフト

現在は家電量販店やネット通販で、数万円から3Dプリンタを購入できるようになっています。

「DIY用途の玩具みたいなものでは?」という感想を昨年ぐらいまで私は抱いていましたが、
最近安価な3Dプリンタメーカーの方とお話をする機械があり、そのスペックに驚きました。

手の平サイズで、ABS部品を±0.1程度で製作できる3Dプリンタは、 現在メーカーを選ばなければ10万円、20万円台から手に入れることが可能になっています。
また600×600×1000mmサイズのABS部品は±0.05程度の精度であれば、300万円程度の3Dプリンタで製作できます。
このサイズになると材料歩留まりを考えると切削よりもコストを30%以上削減できる余地があります(形状によりますが)。

実際に話を伺ったメーカーでは、一部受託加工も行っており大手メーカーの試作部門や生産技術から部品製作の依頼が発生していると言います。
「コスト、納期の両方で切削加工メーカーよりも安い」からだと言います。

また金属材料についても欧米のBASF等が大々的に材料供給を始めており、
信頼できる組成のSUS316等の3Dプリンタ用途の素材も大幅に価格が下がっています。

100万円以下で、±0.05程度で金属材料に対応する3Dプリンタも中国メーカーから複数販売されるようになっています。
ここまで来ると「既存工法の代替」としての3Dプリンタがかなり現実性を帯びます。
ハイブリッド工法を含め、10年近く受託加工の業界で加工に関する情報に接していましたが、
本格的に3Dプリンタが加工法の選択肢に入ってきたと感じています。

後は、敢えて課題を挙げると、使用する側が「中国製(あるいはインド製)の機械」を割り切れるかどうか、 顧客側に3Dプリンタという工法を受け入れて貰えるか、という点になるかと思います。
ただ上記はいずれも「慣れ」で解消される類のものと思います。

10年後にはこれまで3Dプリンタなど考えたこともないような会社が
3Dプリンタを当たり前に使っている、ということが十分に起こり得ると感じています。

 

隠された3Dプリンタの価値

最後に補足的な話となりますが、3Dプリンタは当然3次元データを前提にして加工プログラムを製作していきます。

先日ある試作に強い機械加工会社の経営者の方とお話ししましたが、
「個人差はあるが、いま若手の設計者やエンジニアが「社外で試作加工を頼む先」として真っ先に考えるのが、 プロトラブズや最近ではmeviyといったWEB系サービス中心になりつつある。機械加工会社という選択肢は明らかに減っていると感じる」とのことでした。

恐らく、この背景にあるのは「3Dデータ前提で、気軽に依頼できる先はないかな」という若手の設計者やエンジニアの初動の選択肢の変化にあります。
今後は、「2次元図面しか受けられません」といった会社は、開発や設計の担当者からどんどん敬遠される流れが来ることは避けられないでしょう。

その点3Dプリンタを扱うとなると3Dデータに習熟しなければなりませんから、3Dデータ化が必然的に進みます。 設計や開発といった担当者と同じデータを扱いながら話ができることになり、顧客側の手間も大きく下がることになります。

3Dプリンタを単なる1つの設備と考えるのではなく、社内のデジタル化のひとつの契機として捉えて頂くと、より大きな効果を社内、および顧客価値の面で産むことにつながってくるでしょう。

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