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中小企業の「イノベーション」と「ブランディング」

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ドイツ企業を視察していてマーケティング面で優れていると感じるのはブランディングの志向です。

それは中小製造業であっても変わりません。

ブランドとは、元来 自社の工芸品が他の工房のものと横並びになったときに識別できるよう刻印を刻んだということを発祥としているようです。現在ではブランドは「ある財・サービスを他の同列品と区別するための概念」と定義されます。

つまりほぼ同等の品質、スペックの製品を、同じサービスで提供するA、B、Cという3つの会社があったとして、顧客のほとんどが「A社が良い」と言うならば、A社はブランディングされているということになります。

言い換えれば、ブランディングとはいかに「ごひいき」を作るか、ということでもあります。

 

ブランドというと煌びやかなショーケース・店舗に陳列される製品が連想されますが、決してそれのみを指すのではなく、あらゆる製品(車やコーヒーショップ、果ては駄菓子に至るまで)に適用される概念です。

日本車を例に挙げてみると、トヨタ、スバル、マツダに抱くイメージはそれぞれ大きく異なります。
それは実際に製造しているものそのものを今見なくとも、頭の中に浮かぶイメージであります。

ではこれを製造業の自社に置き換えるとどうなるのか、という点においてドイツ企業は意識的な会社が多いと言えます。

顧客にどういう印象を残すのか、どういった価値を提供するのか、よしんば製品自体での差別化が困難だとすると、その上でどうやって自社を選んでもらうのか、こういった点を従業員数十名程度の中小企業でも考え抜いている、と言えます。

たとえば実際にドイツで視察した中小企業ではスペースがなく倉庫でのプレゼンテーションとなりましたが、垂れ幕を貼り、地元のレストランで日本人向けの味の洒落たケータリングを用意し、役員が趣味で作っているという上質なワインを振舞っていただきました。また全社員が入れ替わりではありますが1回はプレゼンテーションの場に顔を出す等の気配りもありました。

製品のことは記憶に強く残らなくとも、会社のことは強く記憶に残ります。製品のQCD以外の点で「この会社はなんかいいね」と思ってもらうことはとても重要なことであると思います。

「うちの製品は使ってもらえば、気に入ってもらえる」「試してもらえば、使い続けてもらえるはず」といった考えは、QCDに考えが寄り過ぎています。差別化、ブランディングとは「使ってもらう」前に「この製品はいい」「この会社はすごい」というイメージを顧客の頭の中に作る活動だからです。

 

とはいえ、製造業である以上、よい製品を作ることが重要であることは疑いありません。
しかしこの「よい製品」という点が何を指すのかということはよくよく考えることが必要です。

「よい製品を作るためにはイノベーション(技術革新)が必要」、「新しい設備や技術が必要」 これらは間違っていませんが、必ずしも正しくないケースがあります。

イノベーションを過去達成した企業として、多くの方の頭に浮かぶのは、ソニーであったりアップル、あるいはビジネス書をよく読まれる方であればサウスウェスト航空や3Mといった会社が浮かぶかもしれません。

ここで注意が必要なのは、イノベーションにも種類があるという点です。
それは「バリューイノベーション」と「技術イノベーション」という2つの軸です。

「顧客にどういった新しい価値を提供するのか」という視点と「いかに新しい技術領域を開拓するのか」という視点と言い換えても構いません。先の企業はすべて「バリューイノベーション」で成功した会社です。

一般にアップルはイノベーティブな企業と言う印象がありますが、パソコン業界に少し詳しい方であればご承知の通り、アップルという会社は成熟した技術しか採用しない、という点は有名な話です。

過去、スティーブ・ジョブズは「アップルとはどのような会社か」と聞かれて、「テクノロジーとリベラルアーツの交差点に立っている会社」と応えたと言われます(リベラルアーツの翻訳は難しいですが、「広義のデザイン」と捉えることが多いようです)。

つまり、アップルは「テクノロジー」で最先端を走るのではなく、「テクノロジー × デザイン」で勝負する会社であるということです。それぞれの領域でトップにはなれなくとも(敢えてならないという側面もある)、異なる領域を組み合わせることでイノベーションを起こせるという好例です。

逆に「世界最先端」とか「世界初」とかの技術に拘りすぎると、成功していない会社が圧倒的に多くなります。

パソコンを発明した会社、電球を最初に発明した人、カセットテープを発明した企業、これらはほとんど知られていませんが、それの量産や小型化で成功した企業や人は誰もが知っています。

大企業を例に挙げましたが、「技術の組み合わせ」となると中小企業にも勝ち目が出てきます。
大手企業がやらないような領域であっても、5億円、10億円、100億円の売上を作ることは可能だからです。

そこでの差別化の早い方法は「組み合わせ」にあります。
「機械加工」で日本一にはなれなくとも、「機械加工 × ○○」では日本一になれるかもしれない、「筐体製作 × 設計」という軸であれば競争力があるかもしれない、こういった視点が重要です。

既存技術の掛け算であっても、世の中に新しい顧客価値を生むことができる、そして自社の差別化、ブランディングを図ることができると思います。

ぜひ自社ができる「バリューイノベーション」と「ブランディング」を考えていただければと思います。

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