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中小製造企業の、業務の価値とボトルネック

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「AIが発達したり、設備の自動化が進むことで、人間はより付加価値の高い仕事に取り組める」

とは一昨年あたりからよく聞かれるようになった主張ですが、「付加価値の高い仕事」とは何なのか、明確に主張しているケースは少ないように思います。

 

具体的な方策として挙げられるのは、高々が事務作業をRPA(ロボティックプロセスオートメーション)で自動化し、対人営業の時間増に充てる、生産性アップの取り組みための時間を作る、残業を無くす、といった話でしょう。

もちろん限られた時間でより多くのアウトプットを出す、すなわち単位時間あたりの生産性を上げるということは製造業に限らず常に前進が必要なテーマであります。ただし、自動化、省力化という言葉に着目しすぎると大きな流れを見失う恐れがあります。いま本質的な視点が必要なのは、業務改善ではなくビジネスプロセス自体の改善にあると思われるからです。

1990年代の前半にベストセラーになった本に「リエンジニアリング革命」という本があります。過去に私も読みましたがこの本が述べていることは、「会社の各部門の仕事はある特定業務を遂行する、と見るのではなく、ビジネスプロセスを遂行すると捉えるべきである」という主張です。今となっては当たり前に聞こえる考え方ですが、20世紀の経営学の重鎮ピーター・ドラッカーも繰り返し取り上げているほど、重要と捉えられた概念です。

 

たとえば先般話題になった「公文書」は、ワープロの登場以前は庶務課等にて手書きで清書が行われていました。

しかし庶務課における「業務改善」の視点では「庶務課は原稿を受け取り、清書を行う」という工程自体は無くなりません。しかし「公文書を作成する」というビジネスプロセスで捉えると、「そもそもワープロ・パソコンがあるなら清書業務自体が不要である」という視点が出てきます。この考え方が当時、世の中でうけた結果もあり、SAPやオラクルといったさまざまなベンダーが全社の業務を統合する基幹システムを提供する、という流れが加速しました。

 

「業務」と「ビジネスプロセス」の対比は表現が難しいですが、あえて言葉にするならば、「業務はただ遂行するもの」で、「ビジネスプロセスは『付加価値』を生むもの」と言えるでしょう。

「付加価値」は最大化を目指し続けなければいけません。

 

先日ご訪問した首都圏のある板金加工会社では、ブランク作業(いわゆる板金材料に対する切断、抜き加工)に対する自動化、省力化の投資は必要最小限でしか行わない、と言われていました。

 

板金加工における自動化の最たるものは、前工程にあたるこのブランク作業です。材料の自動供給装置を設け、複合機により夜間の間も機械を無人で動かすことで生産性が上げる、という説明がよくされます。次いで、次工程にあたる曲げ加工をロボットで自動化する、というのが板金加工業界でよく見られる設備投資の方向です。

 

次にその会社の社長と話になったのは「律速」の話です。律速とは、化学における用語で、化学反応の全体のスピードを制約する部分のスピードのことです。英語ではボトルネックと表現され、「ザ・ゴール」等で取り上げられ、ビジネスの世界でも使われるようになりました。

 

これは個人的な見解ですが、上記のブランク工程の自動化設備を導入している会社で、常時この設備が動き続けている会社をほとんど見たことがありません。金型の交換が不要で多品種を同時に処理できる、等のメリットはそれぞれあるようですが、少なくとも加工スピードという点では、ブランク加工はボトルネックではあり得ないようです。ボトルネックは別の工程にあるのです。オーバースペックのものを余力がある工程に投入しても、生産性はわずかしか上がりません。むしろBS(バランスシート)まで考えると、投資ですらなく浪費かもしれません。

 

先の会社は従業員10人程度ですが、精密筐体に強みがあり、「① 製造の前工程の設計力の強化」「② 筐体製作の重要な工程である溶接(ボトルネックかつ競争力の要点)への経営資源投入」「③ 金属以外の、樹脂成形(筐体用途)の技術開発」に意欲的に取り組んでします。

 

ここで少し話が逸れますが、オランダで企業の購買担当者を対象に、新人担当+熟練したプロの判断力とコンピュータのアルゴリズムのいずれが強力なのか、というテストが過去行われました。テストは予算や納期の遵守、関係者の満足度といった観点で測られ、その結果は、「新人担当と熟練したプロで成績に大きな違いはない」「人間よりもアルゴリズムの方が明確にスコアがよい」というものでした。この1例を取り上げて「製造業の購買が自動化される」「今後購買交渉が厳しくなる」といったことを言うつもりはありません。

 

しかし「人間は判断を誤ることもあるが、コンピューターは数値と判断を原則間違えることはない」という視点で見るならば、数値的にQCDにおいて厳しく評価される時代がいずれ来ることは疑いないように思います。

それは自社の強み、勝負するフィールドが明確でない企業にとっては厳しい環境でしょうが、自社の得意な領域が明確になっている企業は、顧客や業界、作るべき商品の見極めがより行いやすくなるでしょう。

 

マーケティング上では今後、受託型の製造企業であっても、自分たちが作る製品を世の中一般の製品軸で語ることが重要になります。技術軸(たとえば微細加工など)を追求することもある程度必要ですが、マーケットすなわち世の中でどれほど求められているのかを量るには「製品(たとえばスピンドル部品、ボルト、筐体、カバー等々)」で考える方がより重要です。同じ製品カテゴリに入るものは、必然必要な設備・技術に共通点が多くなり、経営資源の投入が図りやすく、結果として生産性の向上も得られやすいからです。

 

ビジネスプロセスという観点から言えば、特定の製品群における自社のビジネスプロセスが深化・高度化するということと言えるでしょう。言葉が分かりにくいので言い換えれば、工場に同じ材料を投入して、同じような製品を作るとしても、より少ない人的資源、時間、コストでものづくりができるように、工場全体が進化するということです。

しからば、自社の工場(+ビジネスプロセス)は、どんな製品を作ることに最適化されているのか、強みがあるのか、という点の理解が重要ですがそれは世の中のマーケットを知らなければ正しく評価できません。

 

経営においては、この自社のビジネスプロセスのボトルネックを解消し全社の生産性を上げることと、市場における競争力を高めることがとても重要です。マーケティングとは、「変化する市場に対応するという意味で、Marketingと書く」とも言われることがあり、決しておろそかにしていいテーマではありません。

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