米中貿易戦争の影響もあり、生産財業界の業績は急減速している様です。
エリアや取引先の内容によりますが、半導体業界の比率が高い会社だと累計で昨年対比2〜3割減、
受注残も半年前と比較すると3〜5割減というケースも多い様です。
米中関係は悪化の一途をたどっています。
<>あまり大きくは報道されていませんが、今年3月末にアメリカ政府では「Committee on the Present Danger: China(CPDC)」、直訳をすると「現在の危機に関する委員会:中国」が立ち上げられました。>
この「現在の危機に関する委員会」は、かつて米ソが冷戦を繰り広げていた際、
1979年12月のソ連によるアフガニスタン侵攻がきっかけで設置されたものです。
その後、アメリカのレーガン政権は一貫してソ連への強硬政策を継続。1989年にはソ連が崩壊して東西連戦が終結しました。
今回のCPDもこの時と同じ趣旨のものであり、しかもCPDC、「現在の危機に関する委員会:中国」と、
中国を名指しで委員会の名前にしているのがポイントです。
過去の歴史の経緯から考えると、アメリカが今や共産党支配の中国を容認していない、ということがよく理解できます。
従って、現在の米中問題はかなり長引く、と考えておかねばならないでしょう。
実際、アメリカ外交の経緯をみていると、全て中国への布石に見えます。
例えば北朝鮮。
北朝鮮はもともと中国の保護下にあるといってもよい国家で、核兵器を持つ危険な国家にブレーキをかけられるのは中国である、と。
それが中国のプレゼンスでした。
しかし今やアメリカは北朝鮮と交渉のパイプを有しています。中国は北朝鮮カードを切れないわけです。
さらにイラン。
イランはかつてのテヘラン米国大使館人質事件以降、アメリカの宿敵ともいえる存在でした。
実際、タンカー攻撃や拿捕でヒートアップしたかの様に見えましたが、現在は一転、イランとアメリカは事実上の和平交渉に入る動きが見られています。
これも見方によれば、アメリカとしては中国問題に集中をしたい、という意図の様にも見えます。
ちなみに5Gですが、5Gにおいて最も特許を保有し、技術的に優れている会社は中国のファーウェイだと言われています。
5Gは巨大な利権です。日本国内だけでも46兆円もの関連市場が生まれる、と言われています。
なぜそれほど大きな関連市場が生まれるのか?
実は5Gは通信速度が100倍にもなる、遅延が非常に少ないなどのメリットがありますが、
電波の波長が短く干渉しやすいことから500〜1000m程度しか電波が飛ばない、というデメリットもあります。
その結果、都市部では200mおきに基地局を設置しなければならない、とも言われています。
5G、5Gと騒いでいますが中々5Gが始まらない理由の1つは、膨大なインフラ投資が必要だからです。
言い換えれば、基地局のメーカーとして選定されれば膨大な利益を手にすることができます。
5Gの膨大な利権のことを考えると、アメリカがファーウェイを名指しで圧力をかけていることへの別の意図も理解できるかと思います。
ちなみに余談ですが、5Gになるとスマートフォンのつくり方も大きく変わる、と言われています。
例えば現在のアイフォンの筐体はアルミ製です。
ところが5Gは前述の通り電波の波長が短いため、電波がアルミを通らないそうです。
電子レンジにアルミを入れると火花が出ますが、これと同じ理屈でアルミが電波の通過を遮るために電波に高い負荷が生じるのです。
従って、5G対応のスマートフォンはアルミ製筐体ではなく、5Gの電波を遮らない特殊な樹脂で筐体をつくる必要があります。
従って、現在まではアイフォン向けにファナックのロボドリルや、ブラザー工業のタッピングセンタが飛ぶように売れてきたわけですが、
5G対応機種になるとパタっと売上が止まることが予想されます。
ファナックはロボドリル以外にも、ロボショットという射出成型機をつくっているので影響は少ないかもしれません。
ところがブラザー工業は工作機械としてはタッピングセンタしか製造していませんから、少なからず業績に影響を受けるはずです。
技術が変わると製造方法が変わるため、とくに製造を支えている生産財業界に身を置く者としてはアンテナを高くして情報を押さえておく必要があります。
実際、前述の様にスマートフォン向けの半導体は大きな影響を受けていますが、いわゆる車載用途の半導体はガンガンに伸びています。
では車載が全て良いのかというとそうではなく、CASE関連ビジネスを行っているデンソーやケーヒン、愛知製鋼が膨大な設備投資を行っているのに対し、アイシン精機など旧来型の車載部品サプライヤーは大幅な減産など苦戦を強いられています。
この様に、デジタル技術革新を背景に時流が激しく動くことが前提となった現在、注目を集めている1冊の書籍があります。
それが「両利きの経営 〜「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く〜」(東洋経済新報社)です。
著者はスタンフォード大経営大学院教授のチャールズ・A・オライリー氏と、ハーバードビジネススクール教授のマイケル・L・タッシュマン氏による共著です。
同書によると「選択と集中」により、経営資源を何か1つに集中させる経営は今や古い、と。
実際、かつて選択と集中を唱えたアメリカのGE社は時流の変化に対応できず2兆円を超える赤字に転落、
液晶テレビとソーラーパネルに経営資源を集中したシャープも、その後経営危機に陥り自力再建を断念して外資の傘下に入りました。
つまるところ、技術革新やデジタルシフトに代表される時流の変化が激しく大きすぎることから、特定事業に依存することのリスクがかつてないほど高まっている、ということなのです。
同書の主張する「両利きの経営」とは、具体的に次の2つを両立させる経営のことです。
・知の探索(=既存の認知の範囲を超えてイノベーションを追求)
・知の進化(=既存事業の深掘り・ブラッシュアップ)
成功事例として同書では富士フィルム、ネットフリックス、IBM、アマゾン等を挙げていますが、
両利きの経営ができず破綻した事例として、コダック、ブロックバスター(全米No1のビデオレンタル)、シアーズ、ポラロイド等を挙げています。
富士フィルムは非常にわかりやすい事例です。
またネットフリックスについて言うと、同社はもともとDVDの宅配レンタル事業でスタートしました。
その後、動画ストリーミングサービスに参入しますが、DVD宅配レンタルと、動画ストリーミング事業は
明らかにカニバリゼーション(共食い)を起こす事業です。
にもかかわらず同社はそれを推進し、現在は動画ストリーミング事業に加え、コンテンツ制作事業が同社の基盤となっています。
同書によると、両利きになるためには次の4つの要素が必要だと言います。
1)探索と深化が必要であることを正当化する戦略的意図
2)ベンチャーの育成にトップが関与し、保護する
3)ベンチャーを深化型組織から距離をおく
4)ベンチャーも進化型組織も共通のビジョン・価値観・文化をつくる
上記1)については自社の事業をどう定義するのか、いわゆるコンセプト(戦略概念)が重要です。
例えばアマゾンは今や通販で稼いでおらず、利益の4割以上をクラウド事業で稼いでいます。
アマゾンは「物販ではなく、顧客の意思決定を代行する」ことがコンセプトだと言います。
同社のブックレビューにはじまり、フルフィルメント代行サービスやプライム事業、前述のクラウド事業、
さらに毎年二桁成長を遂げていると言われる広告事業もこうしたコンセプトに基づき、横展開されているわけです。
ネットフリックスも「DVD宅配会社」という定義ではなく、コンセプトは「デジタルメディア企業」です。
ですからDVD宅配サービスから、動画ストリーミングサービスに躊躇なく移行できたわけです。
そして興味深いことは、必要な4つの要素のうち戦略的要素は1)だけであり、あとの2)〜4)はトップのリーダーシップに関わる話です。
実際、富士フィルムにあってコダックになかったのはリーダーシップであり、シアーズがウォルマートに抜き去られた理由も、前者が典型的な官僚組織だったの対して、後者は創業者が率いるビジョナリーな組織であったことが要因です。
またネットフリックスも創業者率いるリーダーシップ主導の組織だったのに対し、
その時のブロックバスターはシアーズと同様の官僚組織になってしまっていたわけなのです。
ちなみに、同書では取り上げられていませんが、京セラや日本電産も両利き経営の代表的な会社であるといえます。
京セラは、もともとブラウン管のセラミック部品を生産する会社でした。売上の大半がブラウン管であり、それに危機感を持った創業者の稲森氏が単身渡米、
IBMから電子部品の仕事を受注してから両利きの経営が始まります。
同社はセラミックに関わることなら何でも事業を手がけ、工具事業や複合機事業までM&Aにより事業を拡大していますが、
これらのキーコンポーネンツがセラミック製であったことに起因します。
また日本電産はもともと、ハードディスクドライブの駆動装置で飛躍した会社です。
しかし今や、パソコンにはハードディスクドライブなどついていません。同社の永守氏はハードディスクドライブがいずれ無くなることを見越し、両利きの経営を進めます。
「モーション・コントロール」をコンセプトに車載モーターの分野を攻め、さらにロボット用の精密減速機で新商品の数々を市場に投入し、次々に主要ドメインをシフトし続けています。
いずれも、強力なリーダーシップ、あるいは強烈なカルチャーにより推進されている組織です。
実際、同書では両利きの経営の成功事例としてIBMを、うまくいかなかった事例としてシスコと対比しています。
IBMでは新しいベンチャーの人員配置を慎重に行い、会社全体で新しいベンチャーの年間件数は、できれは3〜4件、
最大でも10〜12件と制限を設けているのに対し、シスコでは30〜40案もあり、マネジメントの注意と資源を奪う結果になった、としています。
スパン・オブ・コントロール(=管理の限界)の原則でいえば、人間が直観で判断できる数は3つまで、
本当の意味で監督ができる限界は10〜12まで、という組織論の基本がありますが、IBMはそれに忠実であったことがわかります。
そして、この「両利きの経営」を具体的にどの様に進めていけば良いのか?
それを、実際に「両利きの経営」を実践されているJOHNAN株式会社 代表取締役社長兼CEO 山本 光世 氏 を特別ゲスト講師として企画したのが、
下記の『製造業「新規事業・新商品」経営カンファレンス』です。
また、本カンファレンスでは「超高収益商品開発ガイド〜粗利80%実現7つのステップ〜」他、
多数の著書もある、超高収益企業であるキーエンスの元商品開発担当、
現 コンセプト・シナジー株式会社 代表取締役 高杉 康成 氏 も特別ゲスト講師にお招きしています。
この、お二人もの豪華ゲストをお招きしての企画が下記企画です。
ぜひ、「両利きの経営」を考えていただく上でも、ご一読の上、ご参加をご検討いただければと思います。
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<経営者の皆様へ セミナーのお知らせ>
製造業「新規事業・新商品」経営カンファレンス
<日時・場所>
2019年10月4日 金曜日
【東京会場】船井総合研究所 五反田オフィス
同カンファレンスにお越しいただきたいのは、次の様な経営者の方です。
・自社の強みを活かして、自社の成長につながるイノベーションを生み出したい。
・今の市場だけでは先の成長が見込めない。新市場の開拓が急務である。
・現在は完全な下請け構造であり、低収益に甘んじている。もっと高収益化を図りたい。
・忙しいけど儲かっていない。改めて自社のビジネスモデルを見直したい。
・来るべき大不況に備えて今から準備をしておきたい。
↓↓↓製造業「新規事業・新商品」経営カンファレンスの詳細・お申込み(別ページにジャンプします)
https://lpsec.funaisoken.co.jp/factory-business/048947_lp/
本カンファレンスの主な内容は下記の通りです。
<開催 13時〜16時30分>
第1講座
AI・デジタル時代の「新たな高収益事業」のつくり方
JOHNAN株式会社 代表取締役社長兼CEO 山本 光世 氏
第2講座
元キーエンス開発担当が語る「高収益商品」のつくり方
コンセプト・シナジー株式会社 代表取締役 高杉 康成 氏
第3講座
人を増やさず利益を増やすデジタルマーケティング導入の進め方
船井総合研究所 ものづくりグループ 上席コンサルタント 片山 和也・小池 桃太郎
第4講座
今、勢いのある製造業「社長」が取り組んでいること
船井総合研究所 執行役員 ものづくり・エネルギー支援部 部長 上席コンサルタント 菊池 功
もちろん、本カンファレンスでは私、片山も講師として登壇いたします。
セミナー会場で皆様とお会いできますことを、心より楽しみにしております。
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