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「なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略」(PHP新書 冨山 和彦 著)と、いう本があります。

同書は2020年以降の日本を占う上で、非常に参考になる1冊だと思います。

 

同書の著者は政府の再生ファンドの責任者を務めた人物で、JALの再生や地方の大手バス会社等の再生を手がけた有名な人物です。

 

著者の冨山氏によると、今や従来の「大手企業/中小企業」という企業のくくりは適切ではなく、むしろ「GなのかLなのか」というくくりで考える必要がある、と、いいます。

 

ここで、Gとはグローバルという意味であり、主に輸出に携わりグローバルなビジネスと関りのある会社のこと。

それに対してLとはローカルという意味であり、世界市場とはほぼ関係の無いローカルなビジネスを手掛けている会社のことを指しています。

 

話が一瞬飛びますが、「乗数効果」という言葉が有ります。

 

「年収は住むところで決まる 雇用とイノベーションの都市経済学」の著者で、カリフォルニア大学バークレー校のエンリコ・モレッティ教授によると、

輸出が可能なハイテク産業の雇用が1名増えると、サービス産業の雇用が2~3名増える と 言われています。

これが「乗数効果」です。

 

一般に製造業の付加価値が上がると GDPに占める製造業の割合は低下し、その分、サービス業の割合が上昇する現象がおきます。

日本はGDPの2割が製造業で、6割がサービス業により構成されていますが、これも前述の乗数効果 により説明できます。

安倍政権がアベノミクスで輸出を促進している理由も、この乗数効果を見込んでのことです。

 

ところが冨山氏によると、今やこの「乗数効果」が発生しにくい状態になっており、Gだけが潤い、Lにその恩恵が及んでいない、という見方をしています。

 

さらに同氏は、国内の「ゾンビ企業」について言及しています。

 

ゾンビ企業とは、既に経営が事実上成り立っていないのに、公的補助にぶら下がって経営している会社のことを、こう呼んでいます。

実際、中小企業に対しての公的保証制度による融資額を見ると先進国諸国は、

 

・ドイツ  1850億円

・イギリス 4600億円

・アメリカ 1兆5800億円

 

なのに対し、日本は何と12兆円に迫る勢いになっています。

 

日本の法人は6割以上が赤字、と言われていますが、冨山氏は前述の「ゾンビ企業」が企業全体の4割に及ぶ、と見ているそうです。

 

この様に、従来は中小企業に手厚い保護を加えながら何とか雇用を守る施策を国としては続けてきていたわけです。

しかし同氏は、今後は「企業の穏やかな退出と集約」が不可避だと断じています。

 

実際、来年4月からスタートする中小企業向けの働き方改革が実施に施行されると、ふるい落とされる零細・中小企業がかなりの数、でてくることでしょう。

 

その中で、先に述べた通り「大企業だから有利」「零細・中小企業だから不利」という構図には既になっておらず、

GはGなりの、LはLなりの適切な企業運営ができているかどうかで決まる、というのが同氏の見方です。

 

同氏によると、Gの会社がやるべきことは「高収益化」であり、

Lの会社がやるべきことは「生産性の向上」である、と、述べています。

 

私がこの中で注目しているのは、L(ローカル)の中でG(グローバル)を手掛けている会社です。

 

例えば地方都市の地域密着型の機械工具商社です。

 

こうした会社は一見するとLの様に見えますが、実態は地元のグローバル企業の事業所と取引をしており、

例えば米中貿易戦争や韓国への半導体材料輸出の問題が業績に影響を与えたりするわけです。

あるいはエリア限定でビジネスを展開する、部品加工業やセットメーカーなども、Lの中でGを手掛けている会社であると言えます。

 

冨山氏はこうしたケースを、「零細・中小企業でGを手掛ける会社」と定義しており、

「零細・中小企業でGを手掛ける会社」が成功する為には次の2つのうち、どちらかを満たす必要があると述べています。

それは、

 

1)世界レベルで通用する独自技術を持つ

2)大企業のパートナーとして重宝される存在になる

 

ということです。

 

ちなみに、船井総合研究所のファクトリービジネス研究会では、上記1)の会社のことを「スペック訴求の強みを持つ会社」と呼んでおり、

上記2)の会社のことを「価値訴求の強みを持つ会社」と呼んでいます。

 

冨山氏はカネボウやJAL等の大手企業のコンサルティングを専門としている人物で、

我々、船井総合研究所のファクトリービジネス研究会は零細・中小企業のコンサルティングを専門領域としているわけですが、

この様に視点が合致しているのは興味深いことだと思います。

 

この、前述の「Lの中のGを狙う」という視点の中で、現在の米中貿易戦争や、対韓国への半導体材料輸出問題をものともせず、

ガンガン設備投資を行っている業界がCASEの関連業界です。

CASEとは、

 

C:コネクテッド つながる

A:自動運転

S:シェアリング

E:電気自動車

 

の略語であり、一言で言えば次世代自動車業界のことです。

例えば今や、大手自動車部品メーカーは、自らシリコンウエハーを調達し、それを加工してパワー半導体など車載用の半導体の内製をスタートしています。

また従来は外部から調達していた電池なども内製を始めています。

 

そうすると当然のことながら設備投資が必要なわけで、私が先日お伺いした従業員150名規模のセットメーカーの場合も前述の業界で使用する自動機を手掛けているわけなのですが、

現時点で2年分の受注残を抱えている、と言われていました。

 

実際、同じ半導体業界でも、車載向けの半導体に関連の仕事は全く減っていません。

 

逆に愛知県エリアでも、前述のCASEとは関係が無い旧来型の内燃機関の主要部品を手掛けている様な会社は、

大手企業であっても仕事が減少しており、一部には定時の稼働もままならない会社もでてきています。

 

前述のLとGの話同様、従来の大手企業か中小企業か、という議論があまり意味をなさなくなってきたのと同様、

従来の自動車業界かIT業界か、といった従来型の産業区分もあまり意味をなさなくなっている様に見えます。

 

いずれにせよ、今、ガンガン伸びている業界はCASEの関連業界です。

 

Lにせよ、Gにせよ、中小企業の業績は取引先で決まります。

伸びている業界、お金持ちの業界を攻めることが、中小企業経営で最も大切なことだと筆者は考えています。

 

 

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