今、あらゆる業界の中で、最も注目すべき会社は、FAメーカーのキーエンスだと私は思います。
なぜなら、ここ数年の施策で同社は驚くほどの生産性アップを実現しているからです。
同社の2019年3月末決算と9年前の2010年とを比較すると下記の様になります。
<キーエンスの2010年3月末決算>
売上 1362億円 営業利益率 40.9%
<キーエンスの2019年3月末決算>
売上 5871億円 営業利益率 54.1%
ここ9年間で売上は4.3倍、営業利益率は13.2ポイントも向上しています。
先日の日経新聞でも、同社の平均年収が2000万円を超えたと大きく報道されていました。
しかし、同社がここ9年間で、なぜ驚くほどの成長を遂げ、生産性を高めることに成功していたのかは、一行も書かれていませんでした。
実はキーエンスが実践した成功哲学は、キーエンスの様な大企業でなくとも、数多くの営業マンを抱えた大組織でなくとも実践できる、シンプルなルールです。
そして、このシンプルなルールは、仮に従業員10名くらいの小企業であっても、経営者のやる気さえあれば実践可能なルールなのです。
そのルールは次の2つです。
1.取扱商品の単価を上げる
2.営業が売り込む前に、デジタルで売り込む
たったこれだけ。やる気があればどんな会社でも取り組めるはずです。
もっと正確に言えば、普通にやっていて自社の取扱商品の単価を上げることは困難かもしれません。
だから 2. の 営業が売り込む前にデジタルで売り込む というステップが必要なのです。
キーエンスに話を戻します。
10年前の同社のメイン商品は
・センサー
・レーザーマーカー
・画像処理
といった商品でした。センサーだと平均単価はせいぜい数万円、レーザーマーカーや画像処理にでも150~200万円といったところでしょう。
ところが、現在、キーエンスのメイン商品には
・画像測定器
が加わっています。
画像測定器は三次元測定機とならび、測定プロセスのメイン設備です。画像測定器の平均単価は800万円前後です。
しかも、画像測定器を売るのに、レーザーマーカーを売る何倍も手間がかかるかというとそんなことはありません。画像測定器はレーザーマーカーの4倍の平均単価ですが、画像測定器を売る手間もレーザーマーカーを売る手間も、ほとんど変わりません。
手間がほとんど変わらず、かつ、4倍の単価の商品が売れれば、当然のごとく驚くほどの生産性向上につながります。
ただし、画像測定器の分野では、ミツトヨあるいはニコン、オリンパスといった先行企業がリードしています。「画像測定器」と言われると、誰もがミツトヨのクイックビジョン、あるいはニコンやオリンパスの商品を頭に思い浮かべることでしょう。
そこでキーエンスが力を入れたのがデジタルです。
例えば「ゼロからわかる幾何公差」というWebサイトがあります。
また「ここが知りたい!形状測定」、さらに「粗さ入門.COM」「測定器ナビ」
「寸法測定“超”時短事典」「ココが知りたい!形状測定」といったWebサイトがあります。
これらは全て、キーエンスが運営するソリューションサイトです。
例えば自社のある製品のある部分の幾何公差を測定しようとする場合、従来手がけたことが無い製品であれば、測定方法をネットで検索することは今の時代、十分にあり得る話です。
その時、目の前に「ゼロからわかる幾何公差」というサイトが検索されれば、誰もがクリックしてそのサイトを見ることでしょう。もちろんこのサイトは、キーエンスの画像測定器のサイトにリンクされています。すると誰もがこう思います。
「なるほど、画像測定器といえばミツトヨだけかと思っていたけど、キーエンスもやっていたんだ」
「しかもデモ機も簡単に貸し出してくれるみたいだし、いちど試してみるか」
と。
現在は「マルチデバイス」の時代です。マルチデバイスとは、1人の人が外出先ではスマホで検索して、自宅や勤務先ではパソコンで検索する、つまり複数の端末(マルチデバイス)を使いこなして情報を収集する時代になりました。
例えばスマホに「近くの居酒屋」「近くのラーメン屋」と検索すると、文字通り近くのラーメン屋や居酒屋が表示されます。これが「マルチデバイス」の時代です。
しかも、この「マルチデバイス」の時代になってから、まだたったの10年ほどしか経過していません。
アメリカでアイフォンが初めて発売されたのが2007年、日本で本格的にスマホが普及し始めたのは2010年ぐらいのことです。
マルチデバイスの時代になった結果、ユーザーの購買行動は大きく変わりました。
つまり、従来は営業マンに頼っていた情報収集を自ら行う様になり、その結果、営業マンと会ったときには商談プロセスの約6割が終了している、というのです。
従って今の時代、商品が良い悪いという問題以前に、デジタルに取り組んでいるか否かが死活問題になっている、ということなのです。
ちなみにミツトヨの業績は2014年12月末決算 1128億円に対し、2018年12月末決算は1291億円です(日本経済新聞による)。両社では企業方針が全く違いますからどちらが良い悪いという議論ではありませんが、1つ明確なことは、ミツトヨのシェアをキーエンスが大きく奪っている、ということです。ミツトヨの方が測定業界の絶対王者であるにも関わらず、です。
同じことが零細・中小企業主体の機械工具商社にもいえます。
大阪府岸和田市に本社のある機械工具商社 株式会社藤浪 は、従業員は11名と会社こそ小規模ではありますが、前述の2つのルール、
1.取扱商品の単価を上げる
2.営業が売り込む前に、デジタルで売り込む
に取組んだ結果、ここ3年間ほどで従業員の数はそのまま、売上はなんと1.5倍もの成長を実現することができています。
同社の場合は、従来の物販主体の客先から高単価な「工事」案件の仕事を獲得することで、前述の取扱商品の単価を上げることに成功しています。
また、機械工具商社には「新規開拓」あるいは「深耕開拓」において、1つの鉄則ともいえる業績アップのための成功法則があります。
その業績アップのための成功法則とは、
・まずは「部品加工」を受注して、客先と関係性をつくる
・関係性をつくったら高単価な「工事」を受注して業績を上げる
というものです。この様に書くと、
「加工は手間がかかる割に儲からない・・・」
「ウチは技術が無いし、専任者もいないから無理・・・」
「そもそもコストで本業の加工屋に勝てないでしょう・・・」
と、思われるかもしれません。が、これらは全て誤解です。
確かに「部品加工」だけで儲けるのは、それなりのノウハウが必要です。ただし「部品加工」を「工事」につなげるための入口商品と規定すれば、状況は大きく変わります。
加工も、工事も、商社が取組むにあたって技術を有する専任者は不要です。前述の藤浪様も専任者などいません。
逆に、技術志向の高い職人の場合、営業志向の高い自社の営業マンと人間関係がうまくいかず、早々に辞めてしまう例が多々あります。私は機械工具商社が加工や工事に取組むにあたり、必要なことは専任者ではなく、デジタルであると確信しています。
ちなみに藤浪様の場合も、部品加工のソリューションサイト「南大阪部品加工.COM」を運営しており、大きな成果をあげています。
その概要につきましては、下記セミナーにて、同社の仲井取締役様にプレゼンしていただきました。
↓↓↓
https://lpsec.funaisoken.co.jp/factory-business/046654_lp/#_ga=2.175188263.404735525.1558878453-125209114.1503927706
藤浪様に限らず、現在 高収益・高成長を両立されている機械工具商社には、その規模には関わらず、ある一定の普遍的なルールがあります。そうしたことを本経営セミナーではお伝えしました。
こうした最新事例を、今後もこうしたセミナー等で継続的に皆様に発信していきたいと考えています。
製造業・工場経営の最新ノウハウ資料を見る