製造業の中で、驚異的な成長を遂げている会社があります。
その会社の2010年度の売上は1362億円で、営業利益率は40.9%でした。
そしてその8年後。その会社の2018年度の売上は何と5268億円、さらに営業利益率は55.6%と、売上を5倍近くに伸ばしながら、さらに利益率を増やしているという驚異の成長企業であるといえます。
その会社はどこか?
その会社の名前は、キーエンスです。
キーエンスは我々の業界内では高収益企業として知られていますが、一般の人は何をやっている会社なのかほとんど知らないので、メディアに目立って登場することはありません。
ところが地味な生産財業界の中で、派手なネット企業凌駕する勢いで成長を遂げ、かつ利益を生み出しているのです。
キーエンスの強みは商社に頼らない、強力な直販体制にあります。キーエンスの営業はハードなことで知られ、その昔は入社した営業マンの大半が、すぐに辞めてしまう会社だと言われていました。
しかし、今は違います。
今、キーエンスが力を入れているのは「デジタル・マーケティング」です。
例えばソリューションサイト。
ソリューションサイトというのは、「集客」を目的としたマーケティング用のサイトのことです。
例えばキーエンスが運営している「画像処理.COM」というサイトは、グーグルに「画像処理」と入力するとトップ表示されます。この「画像処理.COM」をみると、特にキーエンスの製品の売り込みをしているわけでなく、初心者でも画像処理のメカニズムが簡単にわかる様な、技術情報を知ることができるサイトです。
こうした「画像処理.COM」みたいなサイトのことを、ソリューションサイトといいます。
では、キーエンスは、こうしたソリューションサイトをいくつ運営しているでしょうか?
答えは、何と37種類ものソリューションサイトを運営しています。
いかに同社がデジタル・マーケティングに力を入れているかがわかります。
同社がソリューションサイトを37種類も運営し、デジタル・マーケティングに力を入れる最大の目的は「市場ニーズ」の獲得にあります。
もちろん、自社の製品をサイト通して引合いを取る、という目的もありますが、今の時代の製造業のデジタル・マーケティングの最大の目的は、売れる製品開発につながる「市場ニーズ」です。
売れる製品開発につながる「市場ニーズ」獲得にデジタル・マーケティングが有効なのは、キーエンスの様なハイテクな業界だけではありません。
逆に、明らかにこれから技術革新が見込まれない様な成熟業界の方が、実はデジタル・マーケティングが効果的だといわれています。
例えば産業用紙袋・ポリ袋業界。
同業界のメーカーであるシコー株式会社(本社:大阪市)では、自社の会社案内を目的とするコーポレートサイトの他に、産業用紙袋・ポリ袋のソリューションサイト、さらに同分野の総合カタログサイトを運営しています。
その結果、当初はほぼ0件であったネットからの問い合わせが、現在では年間120件を超える問合せが入る様になっています。
さらに同社では、こうした「市場ニーズ」から包装のトレンドを捉え、製品開発に反映しています。
例えば昨今、人手不足の問題から、物流業界においても荷物を一度にできるだけ多く輸送したい、というニーズがでてきています。
具体的に従来であれば5段積みだった紙袋を、これからは8段で輸送したい、といったニーズがでてきます。そうすると従来は問題にならなかった問題がでてきます。積む段数が少ない時は問題になりませんでしたが、それが増えてくると紙袋の中に入っている空気が原因で積んだ紙袋がかたむき、荷崩れの原因になってしまうのです。
そこで「水が入っては困るけども、空気だけ抜ける紙袋がほしい」といったニーズが出てくるのです。
まさにゴアテックスの様な素材の紙袋が求められているわけですが、従来の素材よりはコストがかかりますが、そうした素材も世の中にあります。
つまり紙袋であっても、従来の単なる価格競争の世界から、イニシャルコストが上がっても物流効率が上がるのでトータルに見ればコストダウン、といったソリューション提案の余地が生まれてくるわけです。
この様に製造業はデジタル・マーケティングを導入することで、従来の属人営業では不可能なレベルの市場ニーズを獲得することができます。
キーエンスがデジタル・マーケティングに注力していることは先に述べた通りですが、産業用紙袋・ポリ袋といった超成熟業界であっても、デジタル・マーケティングは有効なのです。
ちなみに、キーエンスは製品開発とマーケティング・営業のみに特化したファブレス企業であり、メーカーでありながら自ら生産工場は持っていません。
工場や生産設備への投資は莫大な費用がかかり、そこに多大なリスクが生じますが、デジタル・マーケティングへの投資というのは たかが知れています。
それよりも今の時代は、「知っているか」「知らないか」の差がとても大きな時代なのです。
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