今、工作機械業界は活況が続いています。その要因は“ものづくり補助金”に代表される製造業への補助金です。この“ものづくり補助金”は予算総額4000億円もの規模であり、アベノミクスの目玉施策の1つです。
ちなみに、工作機械全体の市場規模が約1兆円。うち内需が4割ですから国内市場は4000億円。つまり市場規模と同等の補助金を、工作機械業界に投入している訳です。バブルにならないはずがありません。もちろん“ものづくり補助金”の対象は工作機械だけではなく、あらゆる生産財が対象になります。そう考えても、4000億円もの補助金がいかに生産財市場にとって大きなものかがわかります。
また、気がかりなのは中小企業の設備投資だけでなく、大企業の設備投資も補助金頼みの面が実は強い、ということです。
例えば私のコンサルティング先のA社(兵庫県)ですが、某大手電機メーカーからライン増設にからむ案件を大量に受注しました。この事業所では車載用リチウムイオン電池を生産しているのですが、A社ではこの某大手電機メーカーが忙しくなったものと喜んでいました。ところがA社の専務がこの某大手電機メーカーの事業部長と飲みに行ったところ「あの設備投資は補助金がらみだよ」と言われました。また、今後設備投資の予定があるソーラーパネルを生産している別の事業所も補助金によるものといいます。てっきり景気がよくなったものだと思っていたA社の専務は、危機感をつのらせました。
また別の私のコンサルティング先B社(三重県)では、某大手ベアリングメーカーから数億円の試験装置を受注、この3月に納入しました。風力発電用のベアリングへの耐久試験装置だそうですが、これも補助金によるものです。
さらに機械加工業C社では、某大手電機メーカー関連会社(生産技術部門)から大量の仕事を受注していますが、この関連会社は大赤字だといいます。「赤字だ、赤字だという割に、仕事はいっぱい出てくるんですよね」とC社の社長は言われていますが、これも明らかに補助金がらみの設備投資に関係する仕事なのでしょう。
中小企業の“ものづくり補助金”による設備投資はわかり易いですが、大手企業の補助金による設備投資は、よほど相手先の担当者に食い込めていないとわかりません。事実、前述A社の専務も、客先の事業部長と飲みに行って情報交換をするまでは、てっきり市況が回復したものと思い込んでいました。
そう考えると、怖いのは来年以降の反動です。補助金は「需要の先食い」に過ぎないからです。過去の例を見ると、最近では家電エコポイントが挙げられます。
家電エコポイントの終了と地デジ移行を前に、2010年11月のテレビ販売台数は駆け込み需要で前年対比505.3%にもふくらみました。ところが2011年3月末に家電エコポイントが終了すると液晶バブルが弾け、パナソニックも尼崎の液晶工場を停止するに至りました。「満つれば欠ける」という言葉がありますが、バブルはいつか弾けますし、バブルの渦中にいても、自らがバブルの渦中にいるものとは中々気がつかないものです。
こうした現状の中、我々が今行うべきことは「新規開拓」です。その目的は「特定顧客・特定業種への依存から脱却」することです。
特に我々中小の部品加工業が狙っていくべき業界は医療機器業界です。現在の医療機器業界は自動車市場と比較しても1/10程度の規模ですが、今後間違いなく成長することは議論の余地がありません。また年間5%以上の成長を確実に続けている業界です。さらにハイ・プレシジョンな業界だけに、医療機器業界を狙うプロセスで結果的に質の高いお客様とご縁ができるケースも多々あります。
どんな業界でも不況期に強い会社は新規開拓に強い会社です。また中小企業、特に部品加工業は付き合うお客によって自社の業績が決まります。ぜひ今こそ全力で新規開拓に取り組んでいただきたいと思います。
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