今、製造業はどこも好調ですが、どの会社にも共通した1つの大きな悩みがあります。
それは「離職」の問題です。
特に新卒の入社3~4年目の社員の「離職」。
これが各社で大きな問題になっています。
先日も、私のある関係先で入社4年目の若手社員が辞めました。
その会社では全社員の誕生日に社長自ら手書きのバースデーカードを贈っています。
そして毎月1回、その月の社員の誕生日を祝う会を催しているのですが、
その会が開催された金曜日のあくる週の月曜日、その若手社員から「社長、ちょっとお話が・・・」と。
聞くと「辞めさせてほしい」と。
あの誕生日会での“これからも頑張ります!”のコメントは何だったんだ、と、
その社長は嘆いていましたが、こうした類の話が増えています。
そしてある中堅の機械工具卸では、今年に入って10人前後の社員が辞めた、と言っていました。
生産財業界は活況であることもあり、若手でちょっとできる担当者になると取引先から引っ張られたり、
最近ではヘッドハンティング会社が一本釣りをしています。
こうした状況がいつまでも続くとは私は思っていませんが、今、経営側として対処することがあるならば、
私は「ビジネスモデルへの投資」が大切だと思っています。
社員の給料を上げる、あるいは社員の教育云々の前に、ビジネスモデルへの投資です。
先日、「年輪経営」で有名な、伊那食品工業の塚越会長のご講演を聞く機会がありました。
同社は「社員を大切にする経営」を実践して、
48年間連続増収増益という金字塔を打ち立て、
現在は500名を超える従業員を抱える超優良企業として知られています。
では、同社の増収増益の源泉、競争力の根源は「社員を大切にする経営」なのでしょうか?
違います。
同社の競争力の根源は、世界中から安定して同社の主力商品である“寒天”の原料である海草の安定調達体制にあります。
塚越会長は若いころ、モロッコから韓国、南米チリに至るまで、世界中の国を走り回り、
当時市況商品で相場商品だった海草をいかに安定的に調達するか、ということに全力を注がれたそうです。
こうした他社に無い「競争力の源泉」言い換えれば「ビジネスモデル」があってこそ、
「社員を大切にする経営」も可能になるのです。
また、本当の意味での社員教育も必要です。
本当の意味での教育とは、サバイバル(=生き残り)教育ではないでしょうか。
例えば地域密着企業に勤めていた中小企業の社員が大企業に転職して、
本当に幸せになれるでしょうか?
私が知る限り、それは極めて難しいです。
なぜなら大企業には中小企業にない転勤があります。
超頭の良い人も多いですから激烈な競争もあります。
会社方針でその事業から撤退する、となると、今まで勤めていた職場や工場がいともたやすく消滅します。
さらに、大企業は組織で動きますから、1人1人は善良な人だったとしても、
顔の見えない大組織となるとそれは冷徹になります。
もともと大企業に勤めていて、そうした大きな組織の中での立ち回り方を知っている人物なら大企業でも通用します。
しかし、今まで中小企業のある種の温情の中で生きてきた人には中長期的に絶対無理です。
大きな組織の中での立ち回り方がわからないので、
10年20年といった長いスパンでの生き残りはまず不可能です。
こうした親が子供に教えるかの様な、きちんとした世の中の真実を教えてあげる必要もあると思います。
ですから雇用面において、あるいは採用面において、中小企業が大企業に比べて不利だと私は全く思いません。
なぜなら命をかけて大企業で激烈な戦いに勝ち残ってやろう、戦い続けてやろう、
と思っている人の方が明らかに少数派だからです。
多くの人はほどほどに、安定的な人生を求めています。
中小企業の経営者はそこに注目をするべきでしょう。
話を戻すと、世の中で「社員を大切にする会社」で有名な会社というのは例外なく、
強力なビジネスモデルを築きあげています。
さらに、離職に苦しみながらも「攻め」の採用を続けている会社というのは、
辞めた人よりも優秀な人材がその後入社してきて、結果的にはその会社のレベルは上がっています。
自社のビジネスモデルを高めるための投資、あるいは攻めの採用を続けるための投資こそ、
今、必要なことではないでしょうか。
そして大事なことは、繰り返しになりますが、
現在の様な状況がいつまでも絶対に続くはずがない、ということなのです
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