この数週間、次世代自動車に関するニュースが世界を矢継ぎ早に流れました。例えば、
・フランス政府は2040年までにガソリン車およびディーゼル車の販売を禁止する。
・ボルボは2019年から全車種をEV/HV/PHV/MHVに切り替え。ガソリン車のみの販売を停止する。
・イギリス政府も2040年からガソリン車とディーゼル車の新規 販売を禁止する。
と、いったニュースです。
10年ほど前のドキュメンタリー映画で「誰が電気自動車を殺したか?」という作品があります。
電気自動車ブームは今回が2回目です。1回目は1990年代半ばのカリフォルニア州でした。
1990年、カリフォルニア州のZEV(Zero-Emission Vehicle regulations)規制をうけ、GMは電気自動車で初めての量産車となるEV-1の販売をスタートしました。
「いよいよ電気自動車の時代が到来か!」ということで、トヨタも当時のRAV4をベースにしたEVを北米市場に投入、ホンダもEVの新モデルを発表しました。
ところがEV-1は650台生産されたところで、急に「充電電線から発火する危険性がある」とされ、全車リコールされてスクラップにされました。
その後、「EVは寒冷地では充電効率が50%も低下し、人命にかかわる」というネガティブニュースが流され、EV熱は一気に冷めてトヨタも電気自動車の現地生産から撤退。
ちなみにトヨタがEVに出遅れたのは、この時の経験でEVを見切ったから、とも言われています。
ドキュメンタリー映画「誰が電気自動車を殺したか?」では、この背景には国際石油資本と結託したビッグ3の既存勢力があり、こうした巨大資本がアメリカ政府に強力なロビー活動をしかけ、電気自動車つぶしを行った、と結論づけています。
石油はアメリカにとっての巨大利権です。
アメリカの通貨、ドルは別名「ペトロダラー(=意訳すれば石油のドル)」とも呼ばれます。理由はドルをもっていかないと、OPECは石油を売ってくれないからです。
つまり金本位制の廃止されたドルショック以降、アメリカドルの価値の裏付けは「ドルがなければ石油を入手できない」ということです。
余談ですが、イギリスもEUに加盟していますが(間もなく脱退しますが・・・)、通貨はポンドのままです。
スウェーデンやデンマークもEUに加盟していますが、通貨はいずれも自国クローネのままです。
その理由は、イギリスもスウェーデンもデンマークも北海油田という資源権益をもっているからです。
通貨とは根本的に明確な価値の裏付けがあるものだということです。
ドルに話を戻すと、そもそもイラク戦争の原因は、イラクがユーロでも石油を売る、と言い出したからだというのが一つの見方です。
イランもアメリカを中心に経済制裁が加えられ続けていますが、イランもユーロで石油を売っています。
ちなみにロシアも世界二位の原油生産国ですが、ロシアは自国通貨ルーブルではなく、ドルで石油を輸出しています。
その理由は小麦を輸入に頼るロシアにとって、小麦を輸入するためのドルが必要だからです。
この様にドルは石油のドルであり、石油を燃料として使うガソリン車は国際石油資本にとってもアメリカにとっても、大きな利権だったわけです。
ではなぜ、今回、こうしたEV化の流れが欧州を中心に急遽進展しているのか?
一言で言えば、アメリカの影響力が世界的に低下している、ということでしょう。
また誰もが予測できなかった電池の技術革新もその背景にあります 。
例えば半導体の世界にはムーアの法則と呼ばれる経験則があります。
これは、半導体の実装密度は2年間で2倍になり、コストは2年間で半分になる、というものです。
こうした技術革新のことを指数関数的イノベーションといいますが、指数関数というのは、ある段階で爆発的に増加を重ねていきます。
そしてこのムーアの法則が、半導体だけでなく電池や太陽光発電セルにも適用できるのだそうです。
その結果、電池の性能も20年前の1990年代半ばでは想像もできないレベルに現在は到達している、ということなのです。
現在は世界的に指導者不在の状態で「G0の時代」と言われています。それから現在のイノベーションを支える「ムーアの法則」の電池への適用、この2つの要因が現在のEV・HV・PHV・MHV(=マイルドハイブリッド)・FCV(=燃料電池車)など、次世代自動車への流れとなっているのです。
ちなみに水素ステーションなど、多大なインフラが必要とされるFCVは、バスやトラックなどパワーが必要な商用車での活用が想定されている、といいます。
実際、現在でもタクシーの燃料はLNGであり、大型ディーゼルトラックには尿素ステーションで尿素を供給する必要があります。
商用車と一般車のインフラは区別して考える必要があるのです。
こうした中で、実際に市場でも変化が見られます。
例えばオートマチックトランスミッションのトップメーカー、アイシンAWは先期決算が売上高1兆4311億円、営業利益は1230億円と、120%もの増益となっています。
今やアイシンAWの売上の60%は、トヨタグループ以外の売上であり、メイン顧客の1社は欧州のフォルクスワーゲンなどです。
同社には欧州を始めとする世界中のカーメーカーから、つくりきれないほどのオートマチックトランスミッションの引合いがきている、といいます。
この動きをどう見るのかによって、今後の判断が変わると思います。
内燃機関メインの自動車にとって、オートマチックトランスミッションはエンジンよりも単価が高い重要部品です。
従ってエンジンと同じくらい開発にコストと工数がかかります。
さらにEVが主流になった時に、真っ先に要らなくなるのがオートマチックトランスミッションです。
今後、EVが主流の世の中になるのに、これから無くなるかもしれないオートマチックトランスミッションを自社で開発する必要があるのか?あるいはそこに、経営資源を投入することそのものがリスクになるのではないか?
こうした判断で、フォルクスワーゲンなど欧州のカーメーカーがオートマチックトランスミッションの自社開発を見合わせている可能性もあります。
そう考えると現在の活況は、5年後あるいは10年後の大きなリスクになる可能性があります。あるいはそれは3年後かもしれません。
いずれにせよ、世の中が大きく変化しようとしています。
言うまでもなく自動車産業の裾野は非常に広く、製造業マーケットの6割近くは自動車産業とその関連産業が占めています。
それは現在の内燃機関主流の時代も、これからの次世代自動車の時代も変わりません。
ただし、そのプレイヤーの中身は大きく入れ替わることでしょう。
従って、これから新たにこの次世代自動車産業に参入を図りたいサプライヤーにとっては、これからしばらくは大きなチャンス到来となるでしょう。
逆に、従来型の内燃機関自動車産業に携わっている既存サプライヤーにとっては、この大変革の時代にいかに対応していくかが事業継続の大きな分かれ目になるでしょう。
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一般企業様 30,000円 (税込 32,400円)/ 一名様
会員企業様 24,000円 (税込 25,920円)/ 一名様
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