老舗の流儀 虎屋とエルメス(新潮社 黒川光博・齋藤峰明 著)という本があります。
同書を読むと「企業をいかに永続させるか」のヒントを、数多く学ぶことができます。特に部品加工業などの製造業には学ぶべきポイントが多々あります。
まずエルメスは、「ピンチをチャンス」にして世界的企業に成長しました。
エルメスはもともと1837年に創業した馬具工房でした。
ところが、自動車の普及を目の当たりにした孫で三代目のエミール・エルメスが多角化を決意し、バッグや腕時計、装身具や服飾品などのデザインから販売まで手掛ける様になったのが、現在のエルメスです。
多くのブランド企業が大企業資本の傘下に入る中、エルメスは同族経営で知られ、現在は創業者一族の六代目が同社を率いています。
そして実はエルメス本社の副社長は長年日本人で、齋藤峰明氏という人物でした。同氏があるインタビューの中で「エルメスの神髄はものづくりにある。もしライバル企業を挙げるとすれば、日本の老舗和菓子屋『虎屋』である」と語ったそうです。
このインタビューがきっかけとなり、虎屋十七代目の当主、黒川光博氏との対談の内容が同著なのです。
両社に共通していることは、「売るためのマーケティング」は行っていない、ということです。ではどの様にして新しい商品を世の中に送り出しているのでしょうか?
エルメスの場合は年に二回、大きな展示会を行っています。その展示会では職人が作った新商品が20万点ほど並べられるそうです。そしてそれを徹底的に吟味して、そのうち実際に店頭に並ぶのはほんの二割程度、だといいます。
虎屋の場合は「味は変えないのですか」とよく聞かれるそうですが、「味は変わるものだ」との信念のもと、「おいしいものって何だ?」という基準を常に追い続けているといいます。
また今から10年ほど前、エルメストートと呼ばれた、シンプルで手頃な価格のトートバッグが、日本でも大流行しました。
これはもともと、南仏のヴァカンス地で使われることを想定したもので、ホテルからビーチまで、タオルを入れてもっていくための商品だったそうです。
ところが日本ではタウン用として爆発的に売れてしまい、「初めてエルメスのバッグを持つことができた」というお客も多かったそうです。
本来とは異なる使い方で広がりすぎ、誤解を生んでいることを問題視した同社では、熟慮した結果、五年目に発売中止に踏み切ったそうです。
虎屋でもキャンディーの様な羊羹など、新商品は数多く投入しているそうですが、これらの大半は「期間限定」であり、「定番商品」にはほとんどがなり得ないそうです。
新しい技術をものにするためには「期間限定」への取組みは大事だけども、「定番商品」にするには徹底的な吟味が必要、ということなのです。
この様に、「売るためのマーケティング」ではなく、「商品開発のためのマーケティング」に命をかけているのが両社であり、その結果、両社は老舗企業として現在でも繁栄を続けているのです。
そして、我々 部品加工業は「自社商品」というものを持っていません。良く言えば「受託型製造業」、悪く言えば「下請け」です。
では、部品加工業はどんな「自社商品」を開発したら良いのか?
例えば自社の加工技術を応用して、置物などのインテリアや雑貨などの「BtoC商品(=一般消費者向け商品)」を自社商品として開発しているケースが散見されますが、私は部品加工業にとって「BtoC商品」というのは「期間限定」にすぎず、「定番商品」にはなり得ないと考えています。
では部品加工業にとっての「定番商品」とは何か?
それは「BtoB商品(=法人向け商品)」です。
新規事業で気をつけなければならないことの鉄則は、BtoB企業がBtoC事業を手掛けても、大半が失敗する、ということです。
例えば建材問屋や工事会社といったBtoB企業が、リフォームなどのBtoC事業に手をだしても、ほとんどがうまくいきません。
またスーパーや量販店を相手にしていた食品会社が、一般消費者相手のレストランやショップを開いても、ほとんどがまず赤字事業です。
このあたりの話は、拙著「法人営業のズバリソリューション(ダイヤモンド社)」に詳しく書いていますので、そちらをご覧いただきたいと思いますが、要するに部品加工業の様なBtoB企業が自社商品をつくるならば、きちんとBtoB企業を対象とした商品をつくらなければならない、ということです。
そうした具体的な話やノウハウ・参入に必要な「商品開発のためのマーケティング」のステップについて詳細にお伝えするのが、2017年8月4日(金)に開催する、「金属加工業メーカー事業立ち上げセミナー」なのです。
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前述の通り、「定番商品」をつくるのは普段の事業活動だけでは不可能です。
エルメスは20万点の展示会を年に二回開催していますし、虎屋はその為にTORAYAカフェを展開したり、期間限定商品に敢えて取組んだりしています。
今回の「金属加工業メーカー事業立ち上げセミナー」では、そうした部品加工業にとっての「定番商品」のつくり方についてお伝えしたいと思っています。
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