船井総研が主催しているファクトリービジネス研究会 部品加工業経営部会の1月・3月のテーマが、この「町工場が普通の設備で差別化を図る方法」でした。
1月は東京・大阪会場にて入曽精密の斎藤社長様、名古屋会場にてナカヤマ精密の中山社長にご講演いただきました。
(3月は東京・大阪会場にてナカヤマ精密様、名古屋会場にて入曽精密様になります)
例えば入曽精密様の場合、0.1mm角の微細なサイコロを切削加工で削り出す技術を持たれています。しかもこのサイコロは完全に重心が中心部にあり、すなわちバランスが取れており、高校の数学の確率論の教科書に出ているほどです。
余談ですが、サイコロで最も出にくい目は 2 だそうです。その理由は 2 の真裏が 5 だからだそうです。5の面は穴が多く、2の面と比較して相対的に軽くなってしまうため、2が上には出にくいとのことです。
ところが入曽精密様で製作した0.1mm角の微細サイコロは、確率論的に、全ての面が同じ確率で出てきます。すなわち、前述の通り、世界一小さな微細サイコロでありながら、完全にバランスが取れているのです。
また、0.1mm角のサイコロに、1~6の目を入れようとすると、さらに微細な加工技術が必要であることは言うまでもありません。
では、入曽精密様が高レベルの恒温室を持ち、普通のマシンニングセンタの2~3倍も価格がする様な、マキノや安田工業の高級機を保有しているかというとそんなことはありません。
工場は普通の町工場と同じく空調が入っているレベル。
さらに保有設備は全て森精機です。
「なぜ全て森精機でそろえているのですか?」と斎藤社長にお聞きしたら、「故障した際にスグに治してもらえる様に、メーカーは統一しているんです」と言われていました。
そうした理由もあるのかもしれませんが、簡単に取引業者を変えたくない、という斎藤社長のお人柄の部分も大きいかもしれません。
しかも従業員は14名しかいません。
入曽精密様の話を聞くと、
・ウチはお金が無いから良い設備が無いから・・・
・ウチみたいな小さな会社に優秀な人はこないよ・・・
・だからウチはこのくらいしかできなんいだよ・・・
といった、失礼ですが中小企業にありがちなグチが、いかに間違ったものであるかよくわかります。
「限界を決めるのは自分なんです」と語る斎藤社長。私もその通りだと思います。
片や従業員200名のナカヤマ精密様は、まさに組織力・設備力で差別化を図っており、私が知る限り日本国内でも3本の指に入る機械加工業です。
ナカヤマ精密様もメーカーから購入した工作機械を極限まで使いきり、スペック以上の性能を引き出すことで、加工技術の差別化を図っています。
従業員200名の会社と、従業員14名の町工場。
一見すると全く異なる様に見えます。しかし今回、両社のご講演を聞いて、驚くべきことに1つの共通点がありました。
その共通点こそ、「町工場が普通の設備で差別化を図る方法」の根本だと私は感じました。
その共通点とは、
・購入した設備の精度チェックを社内で行う
というものです。
これは大手企業であれば当たり前に行われています。例えば上場会社クラスが工作機械を購入する際には、JISで定められた工作機械の精度基準の中で、その会社独自の精度設定がされており、その精度の実現が検収条件になっています。
皆様もご存じの通り、JISに明記されている精度は本当に最低限の精度であり、実務的には使えないものです。なので精度出しの方法はJISに基づきますが、精度の数値そのものはその会社のノウハウなのです。
ナカヤマ精密様も、入曽精密様も、そうした精度測定を社内で行えるインフラ・ノウハウを持っている、ということなのです。
それに対して、中小ユーザーの大半が機械出荷前のメーカー工場立ち合いを行いません。
しかもその理由が
・忙しい
・仕事が急に入った
こうした類の話です。「忙しい」あるいは「仕事が急に入った」といって予定を変えてしまう会社で、伸びる会社を私は見たことがありません。他人に振り回せれて良し、の姿勢では大きな仕事を達成することはできません。
話を戻すと、出荷前の立ち合い・あるいは精度チェックができない様な町工場、ということになればメーカーからも当然のごとく軽く見られます。
自分が使う道具の評価を、きちんと自分で行える、というのが「町工場が普通の設備で差別化を図る方法」への第一歩なのです。
今回のご講演を聞くと、斎藤社長も中山社長も「自分らしさ」を兼ねそろえた素晴らしい人格者だということがわかります。
斎藤社長は、どんなダメな社員でも、5年も付き合えば必ず良いところが見えてきて、優秀な社員に変わる、と言い切られています。
中山社長は自家用機を4機も持ち、ご自身もメカ好きで自ら操縦され、趣味を仕事に、そして仕事を趣味にされておられる素晴らしい方です。
今の時代は「自社らしさ」「社長の自分らしさ」を追求しておられる会社が好調ですが、この両社はそれも共通点であると言えます。
↓↓↓前回の部品加工業経営部会の様子はこちらからご覧いただけます
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