現在、未来学者として世界中から注目を集めるフランスのエマニュエル・トッド氏が1976年に発表した処女作が、「最後の転落」という本です。
同書は「ソビエト連邦は15年以内に崩壊する」と予測し、実際にその13年後にベルリンの壁が崩壊したことから、エマニュエル・トッド氏の驚異的な先見性を裏付けることになりました。
ちなみに同氏は当時、東欧の農村の人口動態を調べる25歳の駆け出しの学者で、ソ連を訪問したことは一度もなかったそうです。
そんな同氏が注目したのが次の2つのデータでした。
1)1975年にソビエト連邦の経済成長がゼロになった
2)乳児死亡率の異常な増加
ソ連の乳児死亡率は次の推移を辿っています。
1971年 22.6%
1972年 24.7%
1973年 26.4%
1974年 27.7%
この年以降、ソ連では乳児死亡率が発表されなくなりました。
参考までに、フランスの乳児死亡率は次の推移です。
1971年 17.2%
1972年 16.0%
1973年 15.4%
1974年 14.6%
当時、ソ連は「鉄のカーテン」で西側メディアは情報を一切取ることができませんでしたが、同氏によると「人口統計は絶対にごまかすことができない」といいます。
「乳児死亡率の増加は、明らかに社会の異常な現象である」と。
また「歴史を解読する手法を社会に適用すれば、大概のことは予測が可能になる」とも言っています。
ちなみに、同氏は博士論文を提出した後の空き時間を利用し、わずか3か月でこの大著を書き上げたそうです。
良い作品は必ずしも時間をかけてつくられていないということ、またその道のプロにかかれば、わずかなポイントで大局が得られる、ということなのです。
この本を読んで私が感じたことは、日本の20年にわたる経済成長(GDP)の伸び悩みです。経済成長が停滞した結果、将来への不安から出生率も低下した、というのが現在の少子高齢化の要因です。
経済成長が停滞した最大の要因はデフレです。
デフレの最大の要因は、この15年間で1世帯あたりの可処分所得が60万円も減少したことです。
可処分所得が60万円も減少した理由は、この15年間で製造業から218万人、建設業から129万人も雇用が減少したことにあります。同期間にサービス業(卸小売業・宿泊飲食業・生活関連娯楽業・医療福祉業)は324万人の雇用を増やしましたが、サービス業の平均雇用者報酬は製造業比で△186万円、建設業比で△178万円の減少で年収272万円にすぎません。
現在、政府当局が「賃上げ」を改革テーマの目玉に挙げていますが、その理由は可処分所得を上げてデフレから脱却することにあります。
しかしその為には、我々 製造業関連の雇用を増やさなければならないことがよくわかります。
製造業関連の雇用を増やすためには、製造業が国内で、あるいは先進国で生き残るビジネスモデルを持たなければなりません。
この「製造業が国内で、あるいは先進国で生き残るビジネスモデルを持つ」ということを徹底的に追及している国がドイツでありオランダといったヨーロッパ諸国です。
例えばドイツはKUKAというロボットメーカーを中国の家電企業に売却しました。その理由は、
・ロボットはコモディティ化する
・ドイツ国内ではコモディティ化した製品はペイしない
という判断になると私は考えています。
実際、中国での産業用ロボットの需要はものすごいものがあります。
しかし以前のコラムでも述べましたが、ロボットを生産するには次の“3点セット”が必要です。
1)精密減速機
2)ACサーボコントローラー
3)ACサーボモーター
上記1)~3)は先進国の一握りの会社しかつくれないコアパーツです。特に 精密減速機 は事実上世界でも3社くらいしかつくれない超コアパーツです。
そしてドイツは上記全てのメーカーを国内に持っています。従って、中国企業がKUKAのロボットをコピーして量産すればするほど、ドイツのコアパーツがどんどん売れる、ということになります。
こうしたしたたかさがドイツという国家にはあるのです。
さらにしたたかなのは、オランダの家電メーカーフィリップスの戦略です。
同社は世界一の白熱電球メーカーであったにも関わらず、2006年に自ら白熱電球の廃止を提言しました。
この時点で白熱電球の売上がフィリップスの中で、約30%あったにも関わらずです。
同社はただ廃止を提言しただけでなく、白熱電球が地球温暖化に悪影響を及ぼすことを環境NGOや市民社会団体に示し、各国政府が製造メーカーに白熱電球の生産中止を“要求”する様、先頭にたって働きかけたのです。
そしてフィリップス自身は、白熱電球の代わりにLEDライトや省エネ蛍光灯など“環境にやさしい照明”に随時切り替え、2012年には照明部門の売上の7割が省エネ照明となりました。
仮に同社が白熱電球に固執していたら、LEDライトや省エネ蛍光灯といった破壊的技術にじりじりと追い上げられ、大きな損失を出しながら撤退に追い込まれていたことでしょう。
この様に、彼らは
スクラップ & ビルド
を行っている様に見えます。日本も同様で、伊勢神宮の式年遷宮の様に、永遠の繁栄を維持するためには スクラップ & ビルド が欠かせないのです。
もっと正確に言うと、ドイツやオランダなど長い歴史を持つ欧州先進国は
シナリオ + スクラップ & ビルド
を行っているといえます。
すなわち自ら「シナリオ」をつくり、それに基づいて スクラップ & ビルド を行っているのです。
我々 中小製造業も前述のトッド氏の言う“ポイント”となる指標をきちんと押さえて時流を読んだ上で、自らの「シナリオ」をきちんと描いて国内で生き残る高付加価値型企業を目指していく必要があります。
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