あらゆるモノづくりの手法の中で、最も歴史を有するのが「鋳物」です。「鋳物」とは融けた金属を型に流し込んで固める加工法です。成熟したオールド技術である上に労働集約的な技術だけに、現在では鋳物工場の大半が中国などに海外に生産移転をしてしまっています。
そうした中、東京都・八王子市に本社工場のある株式会社栄鋳造所では、鋳物技術の中でも「Vプロ」と言われる技術をコア技術に業績を伸ばしています。
「Vプロ」のVはバキューム(=真空)という意味です。通常の鋳物では、鋳物砂の中に木型を入れて職人が鋳物砂を手作業で固めます。その後、木型を取り出して融けた金属を砂型に注ぎ込むことで製品をつくります。それに対してVプロでは、さらさらの状態の砂を真空引き(減圧)することで固めます。職人の手作業の場合と比べて品質面・コスト面で高い競争力を有する技術です。
そんな同社にも苦難の時代がありました。東西冷戦が終結して国内の鋳物工場がどんどん中国に流れていくのを目の当たりにした先代社長は、生き残りをかけて前述のVプロを導入しました。ところが根っからの鋳物職人ばかりであった社員は猛反発をしました。「Vプロを導入するということは、職人をクビにするということか!」と、社員は誰もVプロを活用しようとしません。やむを得ず先代社長は1人でVプロを軌道に乗せるべく奮闘しました。そのタイミングで入社したのが現在の四代目社長、鈴木隆史氏です。ところがITバブル崩壊の大不況のあおりを受け、ピークで60名いた同社の社員も、3名まで減ってしまいます。
その後、鈴木社長はVプロを武器に営業活動に奔走し、鋳物のIT化(3D-CAD/CAM,マシニングセンター導入)を行う事により同社を立て直すことに成功しました。
現社長のこうした努力で現在では社員数30名、またそのうち25%の社員が20代という業界でも異例の若い鋳物工場です。また2015年には、経済産業省による「ダイバーシティ経営企業100選」にも選定されるなど、難民の雇用も含めたダイバーシティ経営に力を入れています。今年はアメリカに現地法人の設立も予定しています。
「鋳物」というオールド技術を究め、それを武器に世界に挑戦する同社の姿勢は注目に値します。
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