トヨタが設備投資を急激に抑えているそうです。
逆に日産は新エンジンのライン立上げのため、設備投資が活況ときかれます。またホンダはアコードのハイブリッドタイプが北米で売れているため、モーターの新ラインなどハイブリッド関連の設備投資が盛んです。
同じカーメーカーでも各社様相が全く異なります。これが現在の市況の象徴的な姿でしょう。
また、タイについては進出各社の苦戦が伝えられます。
量産目的でタイに進出した部品加工業については、今でも仕事が右肩上がりに増えている、という事例はあります。
しかしタイ現地での設備需要を目的に進出したセットメーカーや機械工具商社は軒並み苦戦しています。
現地法人の大幅規模縮小や、撤退の話も良く聞きます。
タイはもともとアメリカのビッグ3が生産拠点を置いたことで、自動車あるいは自動車部品のアジアの生産・輸出拠点として注目されたエリアです。
ただしタイの弱点は製造業における市場規模の小ささです。
タイの人口は日本の1/2です。ただしGDPは日本の1/10に過ぎません。製造業のGDPに占める割合は4割近くと高いですが、食品など付加価値が比較的低い産業がその中心を占めています。
タイは自動車購入への補助金が無くなったため不況、と伝えられていますが、そもそもマーケットそのものが小さい、というところが実際のところではないでしょうか。
現在の市況をまとめると次の3つのポイントに要約できると思います。
(1)先行き不透明
前述のトヨタの設備投資ストップの話が象徴的ですが、先行きが不透明すぎるため、特に大手企業は最低限の設備投資しかしていません。
例えばアメリカの大統領選挙ですが、トランプ氏が大統領になる可能性も完全否定できません。日本ではあまり報道されていませんが、ヒラリー氏の私用メール問題は実は大問題であって、アメリカでは刑事事件になる可能性もまだ指摘されているそうです。
少なくとも新大統領が誰になるか決まるまでは様子見、というグローバル企業は多いと思います。
(2)購買力の低下
顧客1社あたりの購買力が確実に低下しています。一般消費においては可処分所得の低下のため既にデフレが起きていますが、同じことが法人マーケットでも起きています。
従って「既存の顧客を深堀りして数字をつくる」という戦術は、今の時代では成り立ちません。
市場が縮小している以上、新規開拓で新たな顧客を増やし、少しでも購買力の高い顧客と付き合うことが必須です。その為には前回のコラムでも述べましたが、自社の「日本一」の強みを見極めて、その強みを伸ばすことが必要です。
(3)価値訴求
購買力が低下していても、顧客価値の高いものは売れています。
例えば前述のハイブリッド。私事で恐縮ですが、うちの家内がエスティマからプリウスアルファに車を買い替えました。
エスティマの燃費は約7km、プリウスアルファは20km近くです。ガソリンがほとんど減らない、と喜んでいますが売れている商品にはこの様に目に見えてわかる顧客価値があります。
生産財の世界ではIAIのロボシリンダが挙げられます。同社の浜松エリアでは、この7月は過去最高にロボシリンダが売れたそうです。
ロボシリンダを採用することにより、設計者の工数は大幅に削減されます。なぜなら従来は複雑なエアシリンダによる駆動設計をしなければならなかったところが、ロボシリンダであれば位置制御が簡単に行えるので、機構をシンプルにすることができるからです。
今、世の中で最も忙しい仕事の1つが設計者です。こうした忙しい設計者の大幅な工数削減を実現するロボシリンダは、明らかに顧客価値の高い商品です。だから売れているのです。
先日の新聞で、中国がこれから5年間で5兆円もの資金を半導体設備投資に投入する、と出ていました。
現在問題になっている鉄鋼デフレに加え、数年後には間違いなく半導体デフレ問題が起きるでしょう。もっと早く起きるかもしれません。
デフレに対しての唯一の対抗策は「価値訴求」です。「価値訴求」が行えれば「新規開拓」も容易に行えます。
ぜひ皆様におかれましても、自社の「価値訴求」を考えていただきたいと思います。
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