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イギリスEU離脱が我々の業界に与える影響(2)

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国際政治学者でリスク調査会社「ユーラシア・グループ」の社長、イアン・ブレマー氏は、今回のイギリスEU離脱を、

・2001年の世界同時多発テロ

・2008年のリーマンショック

よりも巨大で深刻なものだと、警鐘を乱打しています。

2008年のリーマンショックと今回の大きな違いは、前者がいわゆる「経済危機」なのに対して、今回は「ソブリン・リスク」である、という点です。

実際、リーマンショックの際は金価格が3割近く暴落しました。しかし今回は2年ぶりの高値となるレベルで高騰しています。いわば通貨の信認が崩れ、それが金買いにつながっているわけです。

それに対して多くのエコノミストは楽観的だと私は思います。

余談ですが、メガバンク系のシンクタンクの2007年時点でのサブプライム問題への見解が、現在でもPDFの経済レポートという形でネット上に残っています。

それを読むと、日本経済に大きな影響が及ぶ確率は2割程度であり、日本経済に影響を与えない確率が8割だと言っています。

そもそも、シンクタンク系エコノミストの根本的な仕事は株式市場を活性化させることにあります。そうした立場のエコノミストが、マーケットを盛り下げる様な見解は、そもそも出せないわけです。

話を戻すと、こうした「ソブリン・リスク」に至った大きな背景は世界がますます「Gゼロ」の状態に陥っていることが挙げられます。

3年前に台湾で李登輝元総統の講演を聞く機会がありましたが、李登輝元総統も、これからの最大のリスクは「Gゼロ」だと言われていました。

3日前にはトルコでクーデターが発生しましたが、これも背景は軍部の主流派と反主流派との権力闘争であり、そのさらに背景にあるのもまさに「Gゼロ」です。

「Gゼロ」時代に、我々はどう対処するべきでしょうか?という質問に対して李登輝元総統は「アイデンティティだ」と即答されていました。つまり「自分らしさ」であり「自社らしさ」の確立です。

もう1つ、激動の現在に対処する考え方として、以前にもお伝えしたVUCA(ブーカ)について述べたいと思います。

VUCA(ブーカ)今年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で頻繁に取り上げられ、今注目を集めているキーワードです。

VUCAとはもともとアメリカの軍事用語だったそうですが、次の4つの単語の頭文字を取ったものです。

・Volatility    (変動性)

・Uncertainty   (不確実性)

・Complexity    (複雑性)

・Ambiguity    (曖昧性)

冷戦の終結により複雑化した各国の情勢や戦略・戦術を記述するためのキーワードだったそうですが、現在ではそれがビジネスの世界に使われているのです。

そしてヨーロッパ最大のコンサルティング会社であるローランド・ベルガー社は、次の5つをVUCAに勝つための要件として挙げています。

①確固たるビジョン・シナリオ

②走りながら考える(トライ&エラー)

③事業の「複線化」

④ゲームの“ルールメーカー”

⑤イノベーションの追求

特に大事なのが①だと思いますが、“確固たるビジョン”こそが前述の“アイデンティティ(=自社らしさ)”にもつながってくるはずです。

また社長にとって最も大切な仕事の一つが“確固たるシナリオ”ということになるでしょう。

“シナリオ”については、昨年のオランダ視察セミナーで訪問した、オランダ・ハーグに本社を置くロイヤル・ダッチシェル社からの講演で興味深いことを学びました。

世界第二位のエネルギー企業であるロイヤル・ダッチシェル社は、「未来の予想(=フォーキャスト)は不可能」と断言していました。

未来の予想が不可能であるからこそ、複数のシナリオ(=シナリオズ)が必要、と力説していました。

例えば同社では北海油田のリグ(=油井)が流される、という大事故が実は3年前に発生したそうです。しかしそうした大事故もシナリオに織り込み済みであったため、経営を揺るがす危機にまでは発展しなかったそうです。

同じエネルギー企業である英国のBP社が、メキシコ湾での爆発事故で企業存続の淵に立たされたのと対照的です。

今回のイギリスEU離脱にはじまる「経済危機」あるいは「ソブリン・リスク」に対しても、我々は経営者としてシナリオを持っておく必要があります。

特に部品加工業など、受託型製造業の場合は前述のVUCAに勝つための要件の中で、

③事業の「複線化」

が必須となります。すなわち「特定顧客依存・特定業界依存からの脱却」ということです。

そのための大きな考え方として、まず自社が取るべき戦略を次の2つのうちどちらかに絞るべきです。

戦略1:地域密着戦略

戦略2:広域エリア戦略

多くの受託型製造業が、上記2つの戦略が混在している結果、収益性や成長性の足を引っ張っているといえます。

例えば先日、某加工会社からコンサル依頼を受け、現地調査を行いました。その結果、限られた工場内であるにも関わらず、

・全国区レベルで通用する付加価値の高い加工

・過去の経緯で近隣顧客と価格勝負で取引している創業事業の加工

が混在していました。

当然のことながら、「優位性の低い加工の設備を出して、優位性の高い加工の設備に入れ替えたらいかがですか?」とアドバイスさせていただいたわけですが、自社ではなかなか自社の強みや問題が見えない様です。

また加工業が収益性・成長性アップのためにとる成長戦略の2つの流れとして、

戦略a:設計者へのスペック売り戦略

戦略b:サプライチェーン統合戦略

のいずれかがあります。

自社の企業風土に合わない改革はうまくいきません。自社の企業風土・文化を見据えた上で、実行可能な改革を行っていくべきです。

「製造業は大変だ」という人もいますが、私は全くそうは思いません。なぜなら日本の全ての産業が今は右肩下がりであり、その中で「輸出」という切り口のある製造業は、他産業と比較すると打つ手はまだまだあります。

また消費財の生産は海外に移りますが、生産財の生産は国内に残ります。消費財はマスであってイニシャルコストが問題になりますが、生産財はニッチでイニシャルコストが問題にならない(なりにくい)からです。経済を語る多くの識者は「消費財」と「生産財」の区別はついていません。不用な不安に煽られることは無いでしょう。

さらに、多くの人があまり気づいていませんが、市場が右肩下がりになると、「規模の経済」が効きにくくなり、「ゲリラ戦」が有効になってきます。

例えばアメリカでも、世界最大の売上高を誇るウォルマートの苦戦が伝えられています。ところが西海岸で勢力を伸ばすホールフーズなどは業績を急拡大させており、従来は「ボリュームディスカウント」が効いた業界で、もはや規模の経済が効かなくなっていることがよくわかります。

従って現在は「Gゼロ」の時代であると同時に「ゲリラ戦」の時代であり、言い換えれば社長の意欲と適切な決断で小が大に勝てる時代であることを強く認識するべきだと思います。

私が来る8月30日(火)に開催させていただく 機械加工業「社長の仕事」セミナー(東京にて開催)でお伝えさせていただきたいことも、そういうことです。

↓↓↓機械加工業「社長の仕事」セミナーの詳細

https://www.funaisoken.co.jp/seminar/009387.html

ぜひ会場で皆様とお会いできればと思います。

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