今、アメリカの通販業界では、非常に厳しい価格競争が繰り広げられています。
その理由はアマゾンです。
アマゾンは今や「通販企業」ではありません。利益の大半を「通販事業」ではなく、「AWS(=アマゾン・ウェブ・サービス)事業」で稼ぎ出しています。またAWS事業の方が通販事業の3倍も成長しているといいます。
AWS事業とはデータセンターの貸し出し事業です。アマゾンはネット通販を行う中で、自社のサーバーを管理するためのデータセンターを世界各国に構築しています。その経営資源を同じ通販会社やソフトウェア会社に提供する、というビジネスモデルです。
さらにアマゾンは4年前、マテハンメーカーのキバ・システムズ社(アメリカ・マサチューセッツ州)を7億7500万ドルで買収し、物流システムを自社で内製しています。
その結果、アマゾンの物流センターには最新鋭のマテハン機器が導入されています。例えばアマゾンの最新の物流センターでは、ロボット掃除機・ルンバの様なAGVが動きまわっています。
このAGVが在庫商品を陳列している棚の下にもぐりこみ、棚を持ち上げて作業者の元に運びます。つまりアマゾンの最新の物流センターでは人が動くのではなく、棚が動くのです。
その結果、アマゾンの物流センターは通常の倉庫の2倍の倉庫効率を誇るといいます。
アマゾンではこうした物流インフラを他企業にも提供し、物流サービスでも収益を得るビジネスモデルをスタートしています。
つまりアマゾンは通販で儲ける必要が無いのです。
その結果、アメリカの通販業界は熾烈な価格競争に陥っているのです。
そのアマゾンが今年6月29日から本格的に日本の機械工具マーケットに参入します。名称は“産業・研究開発用品ストア”で、まずは170万点の品揃えでのスタートです。
現在、私の顧問先の機械工具商社には、軒並みアマゾンからのDMが届いています。
中身は「アマゾンに出店しませんか?」「手数料は特別に安くします」といった内容です。
アマゾンの狙いは簡単です。とにかく大量のアイテムの商品を機械工具商社に出店させて、その中で売れ筋を見極めます。そしてその売れ筋を自社の倉庫に在庫する、というわけです。
その結果、機械工具業界にはどの様なことが起きるでしょうか?
まず、アマゾンでは「1時間で配達サービス」をスタートしています。現在のところは売れ筋アイテムの25万アイテム限定(アメリカ・マンハッタン地域の場合)で、対象エリアもかなり限られています。
同様のサービスは日本でもスタートしています。早晩、こうしたサービスが工業地帯で、工場を対象にスタートすることは容易に考えられることです。
そうすると多くの機械工具商社が売りにしている「フットワーク」「スピード対応」といった“売り”は瞬時に消えうせます。
またコンピューターは営業マンと違ってミスをしません。納入日直前になって「発注できていない!」といった、営業マンであればよくあるミスも起きようが無いのです。
実際、人工知能の発達により、将来消えうせる職業の1つに「ルートセールス」が入っています。
もちろん「選定技術」「提案」など、人ならではの機能は残るでしょうけども、事業を揺るがすレベルで我々の業界に影響を与えることは間違いありません。
そして最大の問題はこうした世の中の動きに対して、危機感のレベルが会社によって全く違う、ということです。
ミスミなど現在伸び盛りのネット企業や、業界の中でトップシェアを誇る一流メーカーほど、危機感のレベルが非常に高いです。
余談ですが私の顧問先の複数の営業マンが、「最近、客先にミスミが来なくなった」と言っていました。「次の動きを考えている様で怖いです」と、その営業マンは言っていましたが、私もその通りだと思います。
またナショナル・ブランドメーカーでも圧倒的なトップシェアを持っているメーカーほど、危機感を募らせて情報収集に動いています。また新しい戦略を模索しています。
現在、機械工具商社は実は全国的に業績は好調です。その理由は、多くの上場会社・大企業が、3月末に円安により好調な決算を迎える中で、予算消化・決算対策に動いているからです。
自動車業界に関わるセットメーカーなどは、今年の秋、あるいは来年の春まで仕事でいっぱい、といいます。
しかし本当にそうなのでしょうか?
ある経営者の方が「現在の市況は2007年のリーマン・ショックの前の状況に似ている」と言っていました。私もそう思います。
機械工具商社は不況対策に加え、業界構造の変化に対しての対策が必要だと私は思います。
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講師:株式会社 船井総合研究所 ファクトリービジネスグループ グループマネージャー シニア経営コンサルタント 片山 和也
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