IHI航空宇宙事業の、元幹部の方とお話をする機会がありました。
航空機用ジェットエンジンは日々進化を遂げており、その歴史は「熱」と「重量」との戦いだといいます。
例えば1972年に初飛行したアメリカの戦闘機、F15に使用されたジェットエンジンの内部温度は1100℃、現在の最新のジェットエンジンだと1400℃にも及び、出力は倍で重量は1/2程度だといいます。
ちなみに、発電用タービンの内部温度は800℃前後だといいますから、ジェットエンジンがタービンの中でもいかに高度な技術に支えられているかわかります。
鉄が溶ける温度が1345℃で、それを上回る超高熱の中で間違いなく高速回転し続けるタービンブレードをつくる技術が、特にIHIの
独自技術です。
いかに耐熱合金であっても、通常の金属だと溶けてしまうので単結晶シリコンの材料をベースに熱を逃がす穴を多数あけた上で、特殊なセラミックでコーティングして製作するそうです。
こうした最新技術を駆使するジェットエンジンの開発費は、4000億円から5000億円もかかると言われています。
かつてイギリスのロールスロイス社は、ジェットエンジンの開発に失敗して倒産したことがあります。
従ってリスクの高いジェットエンジンの開発は、現在では国際共同開発が主流であり、IHIはその中でも国内主要企業の1社です。
例えば前述のタービンブレードは、どこの企業でも簡単にはつくれない独自技術である上に、エンジンの中での主要な消耗品です。定期的にブレードは交換する必要があるので、安定的な収益につながるのです。
現在、IHIの営業利益の6割は、ジェットエンジンを中心とする航空宇宙事業部が稼ぎ出しています。
しかし、ジェットエンジンがIHIの中でも稼ぎ頭になったのは最近の話であり、過去30年間にわたりずっと赤字の事業だったそうです。
なぜ赤字だったジェットエンジン事業を継続してきたかというと、かつて同社の社長を務めた土光敏夫氏の、「ジェットエンジン事業は止
めるな」という遺言があったからだといいます。
赤字の事業を単なる「赤字」と見るのか、「事業投資」と見るのかで、その事業への見方は大きく変わります。
サントリーのビール事業も46年間に渡り赤字でしたが、現在ではキリン、アサヒに次いでシェア3位で、同社の中でも収益の柱になりつ
つあります。
単なる「赤字」は許されませんが、未来への投資は必要です。
また「事業投資」を続けられるだけの体力、いわば安定的な収益の柱を持っておきたいものです。
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