今、勢いのある、儲かっている部品加工業には次の2つのパターンがある様です。
1つ目のパターンは、特に目立った独自技術を持っている訳ではありませんが、「自社らしさ」を全面に打ち出すことで、独自化を図っている会社です。
そして2つ目のパターンは、他社にはできない独自技術で、徹底的に差別化を図っているケースです。
この場合はおのずと、その裏づけとして高額な加工設備を伴っています。
そして上記1つ目のパターン、「自社らしさ」で独自化を図っているパターンが、今回の先端「町工場」視察セミナー1社目の株式会社浜野製作所様です。
先端「町工場」視察セミナー2015春in東京の様子
浜野製作所は東京都墨田区に本社工場を置く、従業員34名・年商4億5000万円の精密板金加工業です。同社は産学連携にとても力を入れ、深海探査機「江戸っ子一号」の開発にも携わるなど、今注目を集める町工場の1社です。
同社を工場見学すると、狭い工場内に所狭しとプレス機やブレーキが並べられ、見学の同業者からも「これで4億円以上の売上をこなしているのは信じられない」との声が多くもれていました。
ちなみに、埼玉県所沢市に工場のある株式会社井口一世は、従業員20人で売上高50億円、利益2億円を出しています。しかも従業員の7割が文系女性です。
この人数で売上高50億円ということは、当然のことながら外注を活用しているということですが、浜野製作所にも同じことが言えるのでしょう。
また、同社への見学者からは「なぜ高くて狭い首都圏での仕事にこだわっているのか?」「なぜ土地代が1/10以下の地方で大きく工場を行わないのか?」といった質問が多く出ていました。
私の見解は、浜野製作所は「設備力」「生産力」で勝負しているのではなく、「首都圏の情報網」を最大限活用した「ソフト力」で勝負している、ということです。
今までの常識であれば、工場は土地が安い地方で大きく敷地をとって行うものでしょう。しかし現在は クリス・アンダーソン著 メーカーズ でも指摘されている通り、資本の時代でなく、知恵(ナレッジ)・情報(ソフト)の時代なのです。
今、日本で最も多くの知恵・情報が集まるエリアは間違いなく首都圏です。同社は“首都圏にある”ことを、最大の「自社らしさ」の武器にしているのです。
例えば同社が保有する「ガレージスミダ」には、3Dプリンターやレーザー加工機、3次元CADが置かれ、「こういう製品をつくりたい」というあらゆる相談を具体的な形に変えるスペースを持っています。
この「ガレージスミダ」は広くメディアに取り上げられ、毎年200名を超える新規顧客が集まるといいます。
その結果、現在同社の取引先は何と2000社にも及び、しかも1社あたりへの最大の依存度も、売上の9%以下となっています。
さらに同社の手がける精密板金加工は、加工そのもので技術的な差別化を図ることが難しい業種です。
そこで浜野製作所では設計者を雇い、設計段階からOEM受託・設備製作を受託することで付加価値を出しています。
同社は早稲田大学・芝浦工業大学・東京海洋大学など、多くの大学と産学連携を行っています。こうした大学からの研究設備や実験設備の製作を受託することが、さらに産学連携のパイプを深め、さらに新しい情報が集まるという好循環が生まれています。
まさに浜野製作所は、都市型町工場の先端モデルケースということができるでしょう。
都内の割烹料理店で昼食
そして2つ目のパターン、他社にはできない独自技術で徹底的に差別化を図っているケースが、視察2社目の東成エレクトロビーム株式会社です。
同社は従業員80名、年商8億5000万円の電子ビーム・レーザー加工に特化した受託加工業です。
電子ビーム加工というのは、かなりの強度をともなう、厚板や太いシャフト等の接合が可能な溶接法です。
本来は削りだしで製作せざるをえない様なワークでも、電子ビーム溶接であれば大幅な生産コストダウンが可能になります。
ただし電子ビーム加工は設備が非常に高価です。
なぜなら電子ビーム加工は真空中で行う必要があることから、加工チャンバー内を真空ポンプで真空にし、電子ビーム装置に十数万ボルトの高電圧をかけて加工を行います。
例えば同社が保有するドイツ製電子ビーム加工機は3億円で、普通の会社がおいそれと設備できるものではありません。
東成エレクトロビームでは、こうした電子ビーム加工機を何と11台、レーザー加工機に至っては40台もの設備を保有していることが売りです。
同社に行けば前述のドイツ製電子ビーム加工機をはじめ、やはり3億円もするアメリカ製の電子ビーム加工機、さらにカナダ製微細レーザー加工機、ドイツ製3Dレーザー加工機、エキシマレーザー、YAGレーザー、ファイバーレーザー、高精度CO2レーザーなど、とにかく電子ビーム加工あるいはレーザー加工のことなら、何でも対応ができる体制にしているのです。
同社が受託する仕事はNDA(秘密保持契約)を結ぶのが前提で、大手企業の間では「開発者の駆け込み寺」とも呼ばれる存在になっています。
こうした評判がクチコミで広がり、また同社も浜野製作所と同様にメディアへの露出が高いため、毎年80~100社もの新規顧客が増えていっています。
現在の取引先は、3500社にも及びます。
この様に、特別な技術は持たないけども「自社らしさ」を全面に出すことで独自化を図っている浜野製作所、そして「超高額な加工設備に裏づけされた独自技術」を全面に出すことで差別化を図っている東成エレクトロビーム、両社は全く異なる戦略で、しかしながら自社の・その会社の経営者の「強み」「長所」を全面に引き出すことで世間からの注目を集め、モデル企業となっています。
御社はどちらのパターンで独自化・差別化を図るべきなのか、ぜひ考えていただきたいと思います。
いつも新たな発見が得られる先端「町工場」視察セミナーですが、次回は2015年11月13日(金曜日)、長野県のモデル企業2社を視察します。詳細は本レポートでも告知いたしますが、ぜひ今からご予定いただけると幸甚に存じます。
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