以前にでもご講演いただいた、近畿エリアの某機械工具商社様は、今期3月末決算は過去最高の業績となりそうです。
10年前は年商13億円でしたが、今期は年商25億円。昨年対比で130%以上。しかも工作機械を取り扱いされているわけではありませんから、かなり良い経営成果だと思います。
同社に関わらず私の関係先を見ていると、2009年のリーマン・ショック以降、あるいは2011年の東日本大震災以降、厳しい不況期に前向きな施策を打ってきた会社は、全て良い成果を上げていると思います。
そして今は好況期です。
しかし、過去の経験からもわかる様に、生産財業界は好況期の後に必ず大きな不況の波がやってきます。
こうした景気循環にはいくつかの理論があります。その中で、特に生産財業界が影響を受けるのはジュグラーサイクルと呼ばれる、景気変動の波です。
ジュグラーサイクルは設備投資に起因する景気サイクルで、7~8年ごとに景気変動を繰り返すという景気循環説です。
例えば、リーマン・ショックが発生した年は2008年です。
そして、その8年前の2000年には、ITバブル崩壊がありました。さらにその8年前、1992年はバブル崩壊、さらにその7年前の1985年はプラザ合意による円高不況、さらにその7年前の1978年は第二次オイルショック、さらにその8年前の1970年はドルショック、という風に、ピタリと7~8年ごとにリセッション(=大きな景気後退・不況)がきていることがわかります。
これがジュグラーサイクルです。
この理論でいけば、2008年の7~8年後に大きなリセッションがくるわけですから、2016年は要注意でしょう。
もっといえば、リーマン・ショックの本格的な影響が出たのは2009年でしたらから、そう考えると2017年が実質的な大きなリセッションの年になるかもしれません。
実際、2017年4月には8%の消費税が10%に引き上げられます。5%の消費税が8%に引き上げられた2014年は、日本は先進国の中で唯一マイナス成長でした。
バラまきともいえる、大金融緩和・株高下での消費税引き上げでも、これだけ大きなマイナスの影響が出たわけですから、2017年はかなり大きなマイナスの影響がでる可能性が高いでしょう。
従って好況の今こそ、来るべき大不況への準備をしておく必要があります。そして、こうした不況対策によって大きくシェアを伸ばした会社が、世界的な切削工具メーカーのサンドビックの日本法人です。
リーマン・ショック前の好況時、サンドビックではPIPというプログラムを展開していました。PIPとはプロダクティビティー・イノベーション・プログラムの略で、生産性(=プロダクティビティー)を高める提案、という意味です。
具体的には生産ラインにサンドビックのエンジニアがはりつき、現状よりも、もっと最適なツーリングや加工条件を洗い出し、提案するというプログラムです。同社は好況期にはPIPで多くの顧客に入り込みました。
また、同社は不況対策もきちんと行っていました。
リーマン・ショックで仕事量が1/2以下に激減し、各工場とも生産性どころの話ではなくなりました。
そこで、サンドビックがスタートさせたのがSTC(サンドビック・ツール・クリニック)です。
STCとはサンドビックのエンジニアが顧客に出向き、無料で現状のツーリングのメンテナンスの方法を教え、耐久性を高めるツーリングの使い方を指導するクリニックです。
無料ですし、各工場とも仕事が無く生産も止まっていますから、こうした時のプログラムとしてSTCは最適です。
この時、同じ同業他社でも、不況対策を行っていなかったメーカーは「営業禁止令」を出して、顧客への訪問を止めた会社もありました。
この時期、「出張ができないんです」と言っていた営業マンが多くいたことは、記憶に新しいところです。
不況対策を行っている会社と、行っていない会社とでは、リセッションという有事の際の対応が、ここまで大きく変わるのです。
そしてサンドビックではこのSTCがその後大きな成果を出しました。日本では御三家と言われている、三菱マテリアル・住友電工・タンガロイが上位3位のシェアを守っていましたが、外資系メーカーとしては初めて、サンドビックが上位3位のシェアに食い込みました。
ピンチはチャンス、といいますが、不況期こそチャンスなのです。
実際、長続きする新たなビジネスは常に不況期に生まれます。
そしてピンチをチャンスに変えるためには、今からの準備、すなわち不況対策が必要です。
今年の船井総研の各セミナーは、まさにこの不況対策がテーマです。
ぜひ好況の今こそ、不況対策を考えていただきたいと思います。
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