「人生の質は移動距離に比例する」という言葉がありますが、実際、海外視察は必ず大きな得るものがあると思います。
船井総研では2つのテーマで年に2回、海外視察の企画を行っています。
毎年10月に開催されるグレートカンパニー視察セミナーは、「働きがいのある会社」を視察する企画です。
今年はアメリカ東海岸(ニューヨーク・ボストン)のグレートカンパニーを視察しました。
「ウチの会社は業績がいい」と胸を張れる会社は多いかもしれませんが、「ウチの会社は採用では苦労しない」と胸を張れる会社は大企業も含めて極めて少ないと思います。
そう考えると、非常に意義のある企画ではないでしょうか。
また毎年6月に企画している海外視察は「隠れた大国シリーズ」ということで、日本の様な先進国がモデルとすべき国の先進企業を視察する企画です。
昨年は幸福度ランキング世界一のデンマークの企業を視察しました。
今年の6月はスイスのブランド企業の視察を行いました。スイスは国をあげて製造業に力を入れると同時に、いかに「高く売るか」というブランド力を国をあげて高めようとしている国です。
普通の商品でも、そこに”メイド・イン・スイス”と入るだけで3割高く売れる、といいます。実際、スイスの企業11社を視察しましたが、いずれの会社も「モノ売り」ではなく「コト売り」であり、
成熟した先進国の製造業のあり方がよくわかりました。
そして来年6月の企画は、オランダ先端企業の視察です。
このお話をすると「なぜオランダなんですか?」と、よく聞かれます。その理由は、日本が今直面している様々な問題を、かつてのオランダが克服して、新たな成長ステージに入っているからなのです。
かつて、1980年代のオランダは「オランダ病」という言葉で揶揄されるほどの不況と財政悪化のダブルパンチに直面していました。
長く続いた通貨高の結果、製造業は競争力を失い、失業率は13%を超えました。国も大幅な財政赤字に悩まされ、当時のオランダ経済は「回復不可能」とまで言われました。
しかし15年にもおよぶ改革の結果、製造業は国際競争力を取り戻し、失業率も3%(ほぼ完全雇用)まで回復、国も財政黒字に転換し、オランダはEU内でも高い競争力を誇ります。
「回復不可能」といわれた経済危機から、ドイツと並ぶ優良国家に生まれ変わるためにオランダが行ったことは次の4つです。
(1)労使が協調して、企業は給料を下げた
(2)国も税金を下げた
(3)パートタイムを推進し、共働き世帯を増やして世帯所得を上げた
(4)国内製造業を消費財から生産財にシフトさせた
上記(1)(2)の施策を打つことで企業を活性化することを目的として、そして賃下げで発生するダメージを補うために(3)の施策をうったのです。
そして上記(4)については大手電機メーカーのフィリップスの例が顕著です。フィリップスは15年前までは家電と半導体主体のメーカーでしたが、現在では医療機器と社会インフラ主体のメーカーです。
今やフィリップスは、アメリカのGE、ドイツのシーメンスと並ぶ医療機器御三家の1社です。例えばMRIの世界シェアの8割は、この御三家が握っています。
また人類が生み出した最も緻密な機械、といわれる半導体露光装置(ステッパー)ですが、10年はこの分野は日本のニコンとキャノンが世界シェアの8割近くを占めていました。
ところが今、この分野の日本メーカーのシェアは、わずか2割前後です。
今、この半導体露光装置の分野で8割近いシェアを取っているのは、オランダのASML社です。
日本のお家芸だと思われていた超ハイテク装置のシェアが、気がつけばオランダの企業に抜かれていた、というのは私にとっては大きなショックでした。前述の政治経済の問題以前に、いちどオランダを観てみたいと思った大きな理由です。
また大企業だけでなく、日本以上の荒波を乗り越えてきた欧州の中小企業は、日本の中小企業と異なる大きな違いがあります。
それは「特定顧客」「特定業界」に依存しない、ということです。日本では100人規模の製造業でも、下手をすれば特定顧客1社に依存しています。ところがドイツなどでは10人規模の製造業でも、
数十社もの顧客と取引しているケースがザラです。
例えば一昨年視察したドイツの20人の町工場の場合、特定業界に依存しない様に複数社と取引していました。取引先は自動車業界から食品包装業界まで多岐にわたっていました。
そしてこの規模でも大学と産学連携に取組み、そのネットワークをつかって積極的に新規開拓営業を行っていました。
営業力があるか無いか、言い換えれば自立できているかいないか、という点が日本の一般的な加工業との違いだと思います。
また、余談ですがオランダは世界幸福度ランキングで第4位の国です(日本は第43位)。さらに子供の幸福度ランキングでは、なんと世界第1位の国です。
日本は今まで「アメリカモデル」を追いかけてきましたが、この「オランダモデル」も一見の価値があるのではないでしょうか。
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