4月の消費税増税後も、生産財業界は円安効果もあって全般的に好調です。ただし“デフレ基調”であることは変わらず、忙しい割に売上が上がらない、要は単価下落という形で価格競争に巻き込まれている会社が大多数であるといえます。
アベノミクスでは“デフレ脱却”を掲げていますが、先進国は構造的に生産過剰である以上、デフレ基調は当面続くでしょう。
さらに追いうちをかけて、前回のレポートでもお伝えした通り人手不足が社会的な問題になりつつあります。
このままいくと、デフレであるにも関わらず人件費は上がり、また円安によって原材料費も上がる傾向にあります。こうした“板ばさみ状態”を解決する唯一の方法は、自社の付加価値アップしかありません。
この様に低賃金・長時間労働による低価格商品の提供、という“デフレビジネスモデル”は崩壊しつつあります。
企業として、いかに「価値」を生み出していくかということを真剣に考える会社だけが、この厳しい時代を生き残っていくと言えるでしょう。
例えばわかり易い事例で言えば、ディズニーランドや星野リゾートなど特定のユニークな会社は、ここ数年この不況下にも関わらず過去最高益を更新し続けています。こうした会社はBtoCビジネスではありますが、「体験(=感動)を売る」というビジネスモデルが確立されているからこそ、「価値」を売ることができ、お客様から選ばれると同時に価格競争を回避することができているのです。
ではBtoBビジネスにおいて、どうの様にすれば「価値」を上げることができるのでしょうか?
それはは前工程あるいは後工程を取り込むことです。
例えばベアリングメーカーのNTNは、回転センサ付ベアリングを風力発電用に開発・販売を始めました。
ベアリングは機械部品の中でも最も負担がかかる部位であり、定期的にメンテナンスや交換が必要です。ところが風力発電機の様に高所に回転体が付いている場合、定期的なメンテナンスを行うのは非常に大変です。
そこでベアリングに回転センサを内蔵させ、NTNのモニタリング室で常時ベアリングの稼動監視を行い、微妙な振動など異常の原因をいち早く察知してメンテナンスを促すサービスを始めたのです。
風力発電にとって、ベアリングの故障は絶対に許されません。
そこで従来はベアリングの調子が良くても悪くても定期的に交換するメンテナンスが一般的でした。ところがこのサービスにより、調子が悪くなりそうな時だけメンテナンスを行うことができるので、ユーザーのメンテナンスコストは大幅に下がります。
この様に、「ベアリング使用」の後工程である「メンテナンス」を自社の製品・サービスに取り込み、単なるモノ売りではなくサービス業化することにより「価値」を上げ、単なる価格競争を回避しているのです。
同様のことが町工場にも言えます。例えば多くの町工場が行う工程は「加工」です。この「加工」の前工程は「設計」であり、後工程は「組立」です。
昨今、業績の良い町工場は「加工」だけではなく、後工程である「組立」まで取り込んだ“ユニット受注”を推進しています。
また町工場の取引先である大手企業の現場では、「図面は無いけども、この部品と同じ部品をつくりたい」というニーズもあります。
業績の良い町工場はこうした仕事も積極的に取り込み、自社で部品の測定・図面の作成を行い、加工品を提供するサービスを行うことで好評を得ています。しかもこうした仕事は価格競争にもなりません。
この様に、BtoBビジネスの付加価値アップの基本は、前後工程の取り込みにあります。
現在の好況は来年の消費税10%へのアップまでは、何とか持続するでしょう。その間に我々が取り組むべきことは、いかにして自社の付加価値を高め、お客様から選ばれて価格競争を回避するかにあります。
自社の取り込むべき前後のプロセスとは何なのか?これを機会にぜひ考えていただきたいと思います。
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