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製造業こそが日本の競争力の源泉

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この5月18日から、スイスブランド企業視察セミナーに講師として参加します。その為の準備でスイスについて色々と予習をしましたが、スイスは調べれば調べるほど、非常に興味深い国です。

まずヨーロッパでありながらユーロに加盟せず、独自通貨スイス・フランを使用し続けています。1スイス・フランは約116円ですが、現地の物価を調べると為替水準は高いと言えます。また人件費も欧州の中で指折りの高さです。

にもかかわらず、国民1人あたりGDPは81,160ドルと日本の1.5倍以上あります。

また世界経済フォーラムの調査・分析による世界競争力ランキングで5年連続して1位、日本のどのトップ企業よりも株式時価総額の高い企業が3社(ネスレ・ノバルティス・ロシュ)もあり、国際人材競争力ランキングでも世界1位にあります(日本は21位)。

さらに世界幸福度ランキングはデンマーク・ノルウェーに次ぐ世界第3位です。

なぜスイスはこの様に競争力が高いのでしょうか?

大前研一著「クオリティ国家という戦略」によると、次の3つのポイントをその理由として挙げています。

まず1つめは「国が企業を支援しないこと」です。スイスには企業に対する補助金のようなものは全くないそうです。

もちろん、倒産しかかった企業を国が救済することもありません。

一方、例えば日本では経営再建中のルネサステクノロジーに政府系ファンドが1500億円もの出資をして救済しています。その後経営が改善したかというとそうではなく、現在も苦戦中です。

アメリカもビッグ3に対して政府が手を差し伸べたのは、記憶に新しいところです。

2つめは「クラフトマン・シップ」を重視していること。これはドイツも同じことですが、スイスでも大学進学率は日本やアメリカの様に高くなく、3割にも満たないといいます。

スイスには国立大学はチューリヒ工科大学とローザンヌ工科大学の2つしかありません。

つまり大学に行って学歴を身に付けるよりも、早く社会にでて職人として手に職をつけることが、社会として評価される仕組みなのです。

確かにスイスといえば「金融」と「観光」というイメージが強いですが、実は機械工業でも数多くの有名企業があります。

例えば日本でもロボットで有名なABB、測定器のTESA・ヘキサゴングループ、工作機械のアジエ・シャルミーや工業用バルブで有名なジョージ・フィッシャーグループ、研削盤のスチューダー、ジグボーラーのディキシー、エレベーターのシンドラー、工具のPBスイスツール、ポンプなどで有名なスルザーなど、挙げ始めればキリがないくらいです。

先進国では金融業やサービス業が重要といいますが、実は製造業が国の根幹であるということが、リーマンショック以降はよくわかりました。リーマンショック後、世界の先進国の中で最も安定しているのは製造業が盛んなドイツです。逆に製造業が弱い国は通貨安・インフレに苦しめられ、国民の生活レベルも一気に低下しました。

明らかに製造業がスイスの強さを支えているといえます。

3つめはスイス人口の約3割を占める「移民」です。

日本で「移民」というと、発展途上国から安い労働力を受け入れる、というイメージしかありませんが、スイスでは違います。

スイスでは移民を受け入れるのに際して、その可否を市民の投票によって決めるといいます。移民を希望する人物のプロフィールや学歴を明示した上で、投票にかけるのです。

従って、貧しい東欧からの移民希望者は投票で拒否されます。逆に新興国であても博士号を持つなど、あるいは著名な芸術家であるなど、国の発展に知的レベルで貢献する可能性のある人に対しては、移民が許可されるのです。

この3つのポイントと全く逆を行くのがアメリカだと私は思います。

私はここ数年毎年アメリカに行っていますが、行く度にアメリカの衰退を感じます。

アメリカが衰退した理由は1)貧富の格差が開きすぎたこと 2)製造業が国外に流出したこと の2つが挙げられます。

例えば日本では一般社員に対する役員の給料の高さは6倍前後とされますが、アメリカでは100倍以上にも達します。

日本は社長や取締役の給料が安すぎる、とよく言われますが、逆にアメリカは以上なほど高すぎるのです。

また日本の読売新聞は発行部数1000万部を超えますが、全米No1の新聞USAトゥデイでも発行部数は211万部に過ぎません。イギリスで最も発行部数が多いガーディアンに至っては、発行部数はわずか20万部足らずです。

つまり日本は中流層の知的レベルが高いのに対して、アメリカでは本当にごく一部の人しか新聞すら読まない、ということです。

いかに日本の一般国民の知的レベルが高いかがわかります。

またアメリカでは、製造業の国外流出が現在の衰退を招いたとされています。

そもそもアメリカはドルが世界の基軸通貨ですから、日本やドイツの様に自国製品を世界に売って、ドルを手に入れる必要もありません。

必要になればドルをどんどん刷ればいいわけです。

こうした構造が背景にあれば、製造業に力を入れようと思わないでしょう。事実、1990年代以降は理系の優秀な人材が金融工学という名のもとに、どんどん金融業に流出しました。製造業は安い人件費を求めて国外に流出し続けました。その結果が失業率の上昇と貧富の格差です。

明らかにアメリカの現在の衰退は、製造業の衰退がもたらしたものなのです。

オバマ政権では製造業のアメリカ国内回帰を、主要な政策の1つにしていますが、これにはそうした背景があるのです。

話をスイスに戻すと、その強さを色々と調べると「金融」「観光」というイメージの強いスイスが、実は「製造業」を極めて重視していることがよくわかりました。

今、日本は残念ながら貿易赤字・経常赤字です。これを解消するためには、再び輸出・工業立国として国内製造業を強化していく他ありません。そうしたヒントを、ぜひ今回の視察セミナーから学んできたいと考えています。

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