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「病院」がトヨタを超える日

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製造業における先進国の歴史の必然として、「自動車」「家電」といったマス・プロダクション(大量生産品)の生産は人件費が安く成長性の高い新興国に流れます。

そして「医療機器」「航空機」といったハイ・プレシジョン(高付加価値生産品)な生産しか、根本的には先進国に残りません。

従ってあらゆる製造業の経営者にとってのテーマは、いかに従来のマス・プロダクションの業界から、今後先進国に残るハイ・プレシジョンの業界にシフトしていくべきか、ということに尽きます。

その中で、特に中小企業が注目すべき産業は「医療機器」です。その理由は3つあります。

1つは完成品メーカーに中堅・中小企業が多いということです。

例えば上場会社クラスでも500名~2000名クラスの会社が多く、非上場クラスで500~1000名前後の会社が多いことが特徴です。

例えば上場会社で言えば、昨今注目を集める会社としてカテーテルを製造する朝日インテックという会社がありますが、同社は単体で従業員425名、連結で4256名という業容です。同社は2012年度の売上が148億円に対して、2013年度の売上は199億円と高成長を遂げています。

また血液検査装置を主として製造するシスメックスの場合、単体で1908名、連結で5360名という業容です。同社も2011年度の売上が1250億円に対し、2013年度の売上は1460億円と堅調な業績を遂げています。

さらに非上場クラスになると、前述の通り500~1000名クラスが多く、かつ高い成長性を示している会社が多数あります。

また、「医療」のお隣の「介護」「ヘルスケア」まで範疇を広げるとさらに多数の優良企業があります。

例えば紙おむつ・生理用品の製造メーカーである大阪の瑞光という会社の場合、2011年度の売上が120億円なのに対し、2013年は230億円もの極めて高い成長を遂げています。

同社の今年の社員総会は帝国ホテルで開催されたそうですが、近畿エリアでも注目すべき超優良企業であると言えるでしょう。

こうした医療機器業界に対して、航空機業界は世界でエアバスとボーイングの2社でほぼ寡占されています。

座席数100席以下のリージョナル・ジェットと言われる分野でもカナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエムの2社がほぼ寡占です。

さらにジェットエンジンもアメリカのGEとプラット&ホイットニー、イギリスのロールス・ロイス社の3社で寡占しています。

その結果、日本を代表する3重工(三菱重工・川崎重工・富士重工)やIHIもこうした完成機メーカー、あるいはジェットエンジンメーカーの下請け(ティア1)にすぎず、彼らの描いた図面どおりに部品をつくり、主要な部分はブラックボックスにされているといいます。

また、そのさらに下請け(ティア2)になると、中国・台湾・韓国の企業と比較され、莫大な設備投資をしなければ追随できない様な構造に見えます。逆にティア3になると、仕事量そのものは確保できるので、償却が終わった設備で数を稼ぐ、という仕事の取り方が求められる様です。

いずれにせよ、航空機産業は自動車産業以上に寡占化され、決して参入が容易な業界には見えません。

その点、医療機器業界は前述の通り完成品メーカーそのものが中堅企業主体であるため、中小企業にとっても参入が容易な業界なのです。

2番目に医療機器業界は安定的な成長が見込め、市場全体が落ちることが当面考えられないことです。

医療機器業界はIT産業の様な、例えば昨年対比2倍といった様な急成長はありませんが、逆に毎年1~2割ずつ伸びていく堅実なマーケットです。

プライベート・カンパニーであり、株主から過分な成長を求められない中小企業にとって、また過分な成長よりも「永続」が重大テーマの中小企業にとっては、うってつけの業界であると言えるでしょう。

また製造業の中で、リーマン・ショック以前の水準を上回る極めて数少ない業界の一つでもあります。

3番目に潜在マーケットが極めて大きいことです。

例えば日本の基幹産業である「自動車」は世界市場規模で300兆円あります。これに対して「医療機器」というくくりで見ると世界市場規模は25兆円に過ぎませんが、病院などメディカルサービス全体を含む「医療」というくくりで見ると、その市場規模は500兆円にも達します。

医療法人社団KNIの理事長で、“「病院」がトヨタを超える日”の著者である北原茂実医師は、医療産業こそが今後の日本の輸出産業の中心的存在になると同著の中で説きます。

事実、昨年末には大手自動車部品メーカーのデンソーが、ヘルスケア事業室を新たに設置し、医療・健康産業分野に本格的に参入を目指すことを発表しました。

あらゆる産業において医療・ヘルスケア産業への参入が、経営的に重要なテーマであると言えるでしょう。

また私の顧問先で、医療機器分野から仕事を取っている部品加工業を見ていて感じることは、何よりも「社会貢献をしている」という意識が社員に生まれる様です。

自らがつくった部品が医療機器として社会の役にたつことはもちろん、5000億円もの貿易赤字に陥っている医療機器分野において、国内での生産が少しでも増えれば貿易赤字の解消につながります。

そうした「社員の働きがい」「社会貢献」の観点でも、医療機器業界への参入は良いテーマであると私は思います。

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