以前のレポートで、特に自動車関係で動きがでてきたと書きましたが、ここにきて自動車関係以外の一般産業機械の分野でも動きが出てきています。
例えばクボタはディーゼルエンジンの増産を図るということで、協力会社の仕事量も150%程度アップするとのことで、春先に向けた設備投資の案件が動いている様です。また同様にディーゼルエンジンメーカーのヤンマーも国内生産を3割程度増産すると同時に、世界レベルでも増産を図ります。この両社の製造するディーゼルエンジンは、小型のものとしては唯一アメリカ・カリフォルニア州の排ガス規制をクリアしているということで、農耕機・芝刈り機・バギー・冷凍コンプレッサー用の駆動エンジンとして高く評価されています。
2004年から2008年までの前回の生産財好況の際も、この両社は生産を大きく伸ばし多額の設備投資を行なってきました。ここにきて同じ動きが見られる様になってきたということは、昨今の円安と合わせて、今後の市況に期待できる材料です。
そして自動車については引き続き好調です。自動車の全世界での市場規模は300兆円(国内50兆円)と言われますが、今後十数年で500兆円まで成長すると言われています。その理由は世界レベルでの人口増です。現在の全世界の人口は約70億人ですが、1950年の段階では約25億人でした。つまり、ここ60年で3倍近くに世界人口は増えているのです。さらに2020年には100億人を突破すると言われています。こうした人口増加の国というのは大半が発展途上国・新興国ですが、こうした国々も国民1人あたりGDPが3000ドルを超えてくるあたり(=タイ・インドネシアがこのレベル)から、一般市民が車を買い始めます。
また世界的に自動車の環境規制が進む中、自動車のエコ技術・環境技術で世界トップクラスの日本メーカーは有利です。例えばアメリカでは2025年に自動車の環境規制が大幅に厳しくなりますが、これに備えて各メーカーが設備投資に動いています。
先日新聞にも出ましたが、コマツNTC(旧社名:日平トヤマ)が300億円もの受注をGM・クライスラーからしましたが、これも前述の環境規制に対しての動きです。
自動車産業では大型車のエコについてはハイブリッド、小型車のエコについてはターボチャージャーによる小型排気量のパワーアップ、という2つの技術的な棲み分けがなされようとしていますが、どちらの分野も日本企業が世界トップレベルのノウハウを持っています。
この様に、世界レベルでみれば自動車は成長産業ですし、日本メーカーは有利な立場にいると言えるでしょう。
ただし自動車分野についていえば、こうした設備投資はほとんど全て海外向けです。日本国内での設備投資案件というのはまず聞きません。また新聞でもこうした報道はほとんどされません。
例えば先般、トヨタ自動車が好況のため期間工員を4000名増員するという景気の良い記事が出ていました。しかし同じ日の夕刊には目立たない小さな記事で「トヨタ自動車が田原工場のライン4つのうち1つを閉鎖」と出ていました。またレクサスを生産する九州工場も生産シフトを短縮した上で一部のラインを閉鎖し、年間生産台数も40万台から30万台に縮小します。
今、国内で自動車は年間600万台しか売れていません。それに対して国内では年間1000万台近くの生産がいまだに行なわれています。また国内にある設備の本来能力でいえば、年間1500万台の生産が可能です。つまり国内の自動車関係設備は供給過剰です。
今や全世界において、自動車の現地生産は業界の常識となっています。
従って自動車の国内生産はこれからも減りますし、設備投資は当面海外でしか行なわれません。事実リーマン・ショック後、トヨタ自動車1社だけで富士重工が1年間に生産するのと同じ台数が海外移転されています。
その結果、何が起こっているかというとプレーヤーの業績の二極化です。例えば前述のコマツNTCは300億円もの受注をしました。しかしライバル某社は失注したということですし、また別の同業の某社も驚くほど仕事が無い、といいます。この某社は自動車業界では有名な工作機械メーカーですが本当に仕事がなく、来年の春先には本当に仕事が無くなりそうだといいます。
今までであれば例えば自動車業界が良い、となれば自動車業界の全てのプレーヤーの業績が上がりました。その理由は従来の設備投資の中心は国内だったからです。ところが今は海外での設備投資しか行なわれていませんから、業績の二極化が起きるわけです。この点はよく頭に入れておく必要があります。
ITについて言えばスマートフォン関係が好調です。具体的には台湾TSMC・韓国サムソン向けの設備、国内で言えば村田製作所・ローム・太陽誘電・東芝四日市といった、いわゆるスマホ銘柄の電子部品メーカーが好調です。
ただし現在のIT業界の産業構造は、2000年のIT不況の時と比較にならないほど生産の一極集中が起きています。例えばスマホのCPUメーカーでトップのアメリカ・クアルコム社は、その生産の全数を台湾TSMCに委託しています。またスマホはサムソン・アップルの上位2社が世界シェアの半分近くを握るという極端な寡占構造であり、言い換えれば好不況の山と谷がより大きくなっている、ということです。
また技術革新のスピードが格段に速いのも、昨今のIT業界の特徴です。例えば10年前にはステッパー(半導体露光装置)の世界で世界シェアの8割をとっていたキャノン・ニコンの両社が、現在では世界シェアの2割程度しかとれていないと言われています。現在、ステッパーで世界シェアの8割を握るのがオランダのASMLという会社です。10年前は聞いたこともなかった様な会社が世界トップに躍り出る、IT業界とはそういう業界なのです。
つまりIT業界への依存は、自動車業界への依存以上に経営的には不安定要素だということです。
この様に、今までと全く異なる経営環境の変化(=生産の海外移転・集中化・寡占化)によって、従来の様に「景気の良い業界の会社は全て好調」ではなく、いわば「業績のまだら模様」ともいえるべき状態になってきているのです。
つまり「能力の差」が、そのまま企業業績に出てきているということです。
そして「能力の差」とは言い換えれば「営業力の差」ということになります。
例えば前述の不振工作機械メーカー某社の場合、直販で特定の顧客のところにしか営業に行っていない、ということが業界内でも言われていることです。マーケット全体が縮小均衡の中、特定の顧客にしか行っていなければ、業績も下がるのは当然のことです。
特定の顧客を御用聞き的に回る行為のことを「営業」とはいいません。単なる受注対応業務です。
「営業」の定義とは 1)価格競争を回避し 2)新規顧客を創造する ことです。
そして人間関係でもってこの1)2)を行なっていく行為が営業活動であり、組織的・計画的に再現性を持ってこの1)2)を行なっていく行為がマーケティングです。
具体的に、まず価格競争を回避するためには「自社の本当の強み・長所」を明らかにして、そこを前面に出していく必要があります。
例えば先日訪問した会社では、ステンレス製缶が自社の得意技術であるにも関わらず、実際に営業の方が日参していた先というは一般鋼材主体のお客でした。ステンレスが得意、ということは当然、三品産業(=食品・医薬品・化粧品)に的を絞って攻めるべきでしょう。
あるいは自社の得意技術が長尺研磨であれば、そうした部品を多用しているであろう先をリストアップして攻めるべきです。
価格競争の回避を行なう第一歩は、自社の強みを前面に出すことなのですが、意外と現場ではこれが行なえていません。悪気は無いのですが日々の仕事に終われる中、また目先の数字を追いかける中で、ついつい「何でも」仕事を取ろうとしてしまうのです。
最終的に「何でも」仕事がとれる様な人間関係をつくることが「営業」なのですが、「営業活動」だけではなかなか新規顧客の創造ができません。新規顧客の創造を行なうために必要なことが「マーケティング」です。
そして今の時代、経営者が最優先で取組むべきことの1つは間違いなく「マーケティング」であると言えるでしょう。
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