ドイツグレートカンパニーの視察の中で、私が興味深かった会社の1 つがアドルフ・ウルト社です。
同社は従業員6万3000人、売上高 1兆3000億円の機械工具商社で、日本でいえばトラスコ中山が同 じ業種であるといえます。
ウルト社もトラスコ中山も取扱商品アイテムは20万前後でPB主体 とこの点は変わりません。違いはウルトが直販なのに対して、トラス コ中山は販売店への卸売だという点です。 またトラスコ中山の売上が1200億円とウルトの1/10ですが、 従業員は1200名とウルトの4倍近くも生産性が高い点が挙げられ ます。
これはウ ルトの従業員のうち約半数がセールスレップ(=個人 事業主形態の歩合営業員)を活用した直販であるのに対して、トラス コ中山の場合は販売店を通した卸売である点が挙げられます。
欧米ではセールスレップという形態があらゆる業種に見られますが、 日本の場合はセールスレップよりも販売店という形態が一般的です。
私はこの要因として、欧米は教会を中心としたコミュニティで個人の 精神衛生が保たれているのに対して、日本の場合は会社がコミュニテ ィとなっている点が挙げられると思います。欧米の場合は仕事上の悩 みや問題も教会での儀式や宗教的取組みの中で解決していけるのでは ないでしょうか。
特にこの傾向が強いのはドイツです。例えばドイツでは日曜日はあら ゆる会社が基本的に休みです。デパートも日曜日は営業をしていませ ん。聖書に日曜日は安息日であると定められているからです。 以前にあるドイツのデパートが日曜日に営業をしましたが、訴訟を起 こされ、そして負けました。それほどドイツでは宗教が社会に根ざし ているのです。
その点、日本の場合は会社内での連帯・コミュニケーションによって それを解決していくのだと思います。 江戸時代など、その昔は村がコミュニティであり、また村そのものが 職場(=農業)でもありました。現在では会社が職場であり、そして 会社が文字通りコミュニティになっているのです。
その点、こうしたコミュニティ機能が中途半端なのがアメリカ都市部 でしょう。アメリカ都市部はドイツほど宗教が社会に根ざしていませ ん。従って日曜日もデパートは当たり前の様に営業しています。 さらに日曜日の教会のミサに敬虔に通う人ばかりかというと都市部で はそうではなく、日本でいう墓参りのレベルでしか教会に行かない人 たちが大半の様です。
といって会社がコミュニティになっているかというと、そうではあり ません。いつクビになるかわからない成果主義・プレッシャーの中で 仕事をしている人が大半です。 アメリカでは精神科医のセラピにかかっている人が非常に多いといい ますが、こうしたことが背景にあるのかもしれません。
やはり人間には、精神衛生上の健全を保つ上で何らかのコミュニティ が必要なわけです。 そして、日本では会社がそれを担っていると言えるでしょう。
そう考えれば会社の生産性を挙げる上でも、会社のコミュニティ機能 をより強化していくことが大切です。具体的には社員が不安にならな い環境づくり、社員が成長できる環境づくりということです。
日本は会社がコミュニティ、経営者はその様に考えてあらためて経営 を見直していく必要があるのかもしれません。
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