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片山和也の生産財マーケティングの視点【中小企業は、参入障壁が高い市場・人件費が高い国で勝負しよう】

新聞・雑誌ではアベノミクス景気が注目されていますが、生産財市況
についていえば、この1~3月の景況感はリーマン・ショック直後の
状態と大差がありません。
船井総研の社内会議でも、いわゆる小売り・サービスといったB2C
分野は「景気が良くなってきた」と言われていますが、物流・ソフト
ハウスといったB2B分野は振るわない市況です。

そもそも、NTN・THK・SMCといった主要機械要素メーカーの
業績が営業段階で赤字、あるいは振るわないといった状況では、足元
の生産財市況は厳しいと考えるのが普通だと思います。

ところが、こうした状況下でも業績の良い会社はあります。それには
次の3つのポイントがあって、いわゆる好業績の会社は下記ポイント
のうち少なくとも2つを満たしていると言えます。

ポイント1:年商1000億円を越える様な大手企業と取引している
ポイント2:平均年齢が若い(35歳前後以下)
ポイント3:参入障壁が高い市場でアドバンテージがある

まずポイント1については、当然のことながら現在が円安・株高だか
らです。円安の恩恵を受けるのは、年商1000億円を超える様なグ
ローバルメーカーしかないと言っても過言ではないでしょう。

またポイント2についても、ある種当然とも言えることでしょう。現
在は労力がかかる割に、儲かりにくいという時代です。以前の効率良
く儲けることができた時代を知っているベテランは、やる前から決め
てかかりますから結果を出すことができません。
ところが景気が良かった時代を知らない若手は、とにかく上の指示通
りに突っ込んでいきますから、良きにせよ悪きにせよ、結果を出すこ
とができます。「動かない」ということが最も悪いことです。

さらにポイント3における代表格が「航空機産業」と「医療機器産
業」です。航空機関連の仕事は昨年対比で150%近いボリュームで
推移しています。また、現在“忙しい”と言われている会社の多くが
何らかの形で医療機器産業と関わっています。先日の先端「町工場」
視察セミナーで視察した岡田鈑金株式会社もそうであり、同社は1万
坪の敷地に、さらに新たな工場を造成中でした。
↓↓↓造成工事を行う同社の様子

「航空機産業」も「医療機器産業」も、その共通点は、
1)レベルが高い(きちんとした仕事を求められる)
2)信用・信頼・経験が求められる
3)その結果、参入障壁が高い
ということです。

例えば航空機業界の認証規格であるJISQ9100は、ISO90
01や14001と比べても、取得へのハードルはかなり高いものが
あります。事実、日本国内でJISQ9100を取得している企業は
400社前後しかないそうです。
同規格を持っているからといって、航空機業界に参入できるとは限り
ません。しかし持っていなければ入口にすら立つことはできません。
また医療機器業界であればJISによる医療機器製造業許可、あるい
はISO13485があります。前者はたまに取得企業を目にします
が、後者については新しいこれからの規格です。

こうした規格を取得したからといって、航空機業界や医療機器業界の
仕事がメインになるとは限りません。しかし前述の1)2)3)を満
たす様な仕事を追及していかなければ、鉄工所も先進国では生き残れ
ないのではないでしょうか。

またグローバルな観点で言えば、中小企業は新興国の様な「人件費の
安い国」ではなく、欧米など先進国に代表される「人件費の高い国」
で勝負する方が賢明なことが、ここにきて明確になったと思います。

例えば中国に関して言えば、いまや進出企業の9割が失敗していると
現地の日系金融機関は言っています。

またダイヤモンド社から出版されている「リバース・イノベーショ
ン」という書籍によれば、先進国で10ドルの製品があるのならば、
その製品の機能を3割にして1ドルの製品をつくり、その“1ドルの
製品を10個売る”という考え方で根本的にビジネスを組み立て直さ
なければならない、と言います。
こうした考え方が経営資源の限られた中小企業に向くか、と聞かれれ
ば私は向かないと思います。ですからアジア新興国が“ポスト・チャ
イナ”として注目されていますが、中小企業としてはその進出は慎重
に考えるべきだと私は思います。

事実、最近では欧米など先進国に進出して工場を建てる、という町工
場が増えてきました。前述の先端「町工場」視察セミナーで2件目に
訪問した株式会社エムテックは、従業員30名の町工場でありながら、
今年の秋にはドイツに工場を建てて進出するといいます。

また、昨年6月の機械加工業セミナーでゲスト講演いただいた株式会
社由紀精密(20名)は、航空宇宙業界の仕事をターゲットにフラン
スに進出する、といいます。

さらに今年3月の機械加工業セミナーでゲスト講演いただいた山本精
工株式会社は、医療機器業界の仕事をターゲットに、この秋にはロサ
ンゼルスに工場を建てる、といいます。昨年2月のMD&Mに出展し
て「絶対にアメリカで勝てる!」と確信、工場建設を決意したと言い
ます。同セミナーの中で「なぜ、そこまで自信があるのですか?」
「QCDどの部分でアメリカの鉄工所に勝てるのですか?」という質
問に対して、山本副社長は「QCD全てで日本の鉄工所はアメリカの
鉄工所に勝てます」と断言されていました。

また山本副社長が「アメリカに工場を建設する」、と言ったら取引銀
行が「そんな人件費の高い国進出して大丈夫なのか?」と心配したそ
うです。そこで山本副社長は「人件費が高いからこそ進出するんです。
人件費が高い、ということは高く売れる、ということでしょう」と応
えられたそうです。私も山本副社長と同じ意見です。

ちなみに余談ですが、今や世界で最も人件費が高い国は日本です。日
本の人件費はアメリカと比較しても、いまや2倍近いと言います。例
えばトヨタ自動車の平均賃金が540万円だそうですが、GMの平均
賃金は2万7000ドル(約270万円)だそうで、ほぼ倍です。
言い換えれば、それだけ付加価値の高い仕事をしなければ合わない、
ということなのです。

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