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片山和也の生産財マーケティングの視点【本当の「自立」とは何か】

先日、アルミ加工で有名な京都の山本精工株式会社に訪問しました。
同社は「楽しくなければ仕事じゃない!」をキャッチフレーズに、町
工場とは思えない本社工場を持ち、最新鋭の設備で24時間無人加工
を実現しています。同社の従業員はここ5年で36人から68人に倍
増しています。また取引先社数は10年前の40社から、現在はその
12倍の600社にまで増えているといいます。

同社には年間1000人以上の工場見学があり、今年は過去最高の1
300人を記録したそうです。先行きが見えないなか、「夢工場」を
謳う同社に何らかのヒントを見出そうとしているのかもしれません。
↓↓↓山本精工株式会社の様子

今回は同社の山本副社長に、来年3月8日(金)に企画している部品
加工業向けセミナーのゲスト講演打合せに伺いました。その中で様々
な興味深いお話を聞くことができました。
中でも一番、私が興味深く感じたことは「真の自立」ということです。
日本の製造業を支えるのは、まぎれもなく町工場であり部品加工業で
す。ところがその多くが下請け構造に甘んじ、真の自立が果たせてい
ません。山本副社長は「自社商品を開発することが自立ではない」と
言われます。
真の自立、とは自らの力で仕事を取り、自らの意思で価格を決めるこ
とです。その為に同社は社員36名の時から、営業担当を5名も抱え
ていたといいます。Webや展示会などを活用しながら、積極的な営
業活動を展開してきたわけです。

現在、業績が好調な会社の共通点は技術と同様に営業を重視している、
ということです。例えば“絶対に緩まないネジ”で有名なハードロッ
ク工業も、社員40名で営業担当が6名もいます。また現在の不況下
でも活況を呈している某エンジニアリング会社は、40名の社員のう
ち営業担当が8名もいます。

山本精工に話を戻すと、さらに同社の仕事の大多数は1~2個の単品
加工ばかりだといいます。同社は72時間無人運転を実現するAWC
仕様の5軸マシニングセンタを保有していますが、AWCに装着する
ワーク1つ1つが全て種類も違う、というのは珍しいといいます。普
通は10~20個程度のロット生産を志向します。ところが山本精工
の場合は10個もロットがあれば、かなり多い方だというのです。
つまり価格が問題になりにくい完全単品、言い換えれば「ロングテー
ル」の加工で勝負をかけている、ということなのです。

これは口で言うのは簡単ですが、実際に実行するのは大変なことです。
当然のことながら、過去に加工を経験したことのあるリピート品の方
が効率は上がります。普通は赤字で「単品加工(=試作)」を行い、
リピート品の受注で黒字に持っていこうとします。ところが山本精工
の場合は単品加工で確実に利益を出しています。これは大変な社員教
育による多能工化が求められることです。

しかし現在の様なデフレ不況下において、高収益を誇る会社のほとん
どが多能工化を行っています。例えば旅館運営で有名な星野リゾート
も、1人のスタッフが接客・調理・掃除・営業までをこなします。不
振旅館の多くは“分業”ですから、現在の様に旅客が減るとすぐに赤
字になってしまいます。前述の優良エンジニアリング会社の場合も、
総務・経理社員に至るまで、全員がメンテナンス作業を行うことがで
きます。手持ちの仕事が無くなれば、全員がメンテナンス作業の仕事
を取りに出ることができます。
また、実は船井総研も完全多能工の会社です。普通のコンサルティン
グ会社は、営業とコンサルタントを分けています。またセミナー企画
やDM制作も分業です。ところが船井総研の場合は1人のコンサルタ
ントが、営業からコンサルティング、さらにセミナー企画・ツアー企
画・DM制作までこなします。
デフレ不況を乗り切るポイントの1つは、営業まで含んだ多能工化で
あると言うことができるでしょう。

先日の日経新聞に、米軍が特殊部隊の数を現在の3万人から6万人に
倍増させる、という記事が出ていました。軍全体としては予算削減の
為に兵士の数を減らす中で、特殊部隊の隊員は2倍にするというので
す。現在の戦争は昔と比べて極めて複雑化しているので、本物のプロ
フェッショナルでなければ遂行できない、ということなのでしょう。
現在のビジネスの世界も同様です。多能工化もそうですが、社員を本
物のプロフェッショナルに育成しないことには、企業も生き残れない
時代が来ているのです。

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