片山和也の生産財マーケティングの視点【不況を乗り切るポイント(1):現在の成長分野】
先日、岩手県北上市に訪れる機会がありました。同エリアはトヨタ自
動車東日本に代表される自動車産業、また東京エレクトロンや東芝に
代表されるIT産業が集積する一大工業エリアです。
ところが同エリアの9月は、おしなべて昨年対比4割減だったといい
ます。エコカー減税終了とIT不況に加え、中国問題の直撃を受けた
形になっています。
近畿エリアも不調です。例えば某大手空圧メーカーの場合、第二四半
期(7~9月)の業績は近畿エリアで昨年対比3割減、第三四半期は
さらに厳しくなるとの見通しです。さらに同社では全国の営業マンの
5%にあたる人員を代理店に出向させ、営業部門の効率化を行う施策
をとっており、今後もしばらくは市場環境が厳しいとの見方です。
切削工具も厳しい状況です。某大手超鋼工具メーカーの9月売上は昨
年対比3割減とのこと。従来自動車業界向けに好調だった生産ライン
も、この10月から3直体制から2直体制に減産することになりまし
た。
また四日市エリアはコンビナートの稼働率が3割程度下がっていると
のこと。某大手化学会社は素材の受注があまりにも少ないため、6月
にも「非常事態宣言」を出したといいます。
いずれも要因は、
・欧州経済危機
・赤字国債法案否決による予算執行遅れ、マインド低下
さらに9月からは エコカー減税終了と中国問題が加わった形になり
ます。
悪い話ばかり書きましたが、それでも好調な業界もあります。
現在の市況でも好調な業界は、
1)自動車
2)航空機
3)発電機(タービン等)
これら3業界です。自動車については中国問題で9月からブレーキが
かかっているものの、それでも相対的には好調です。
特にトヨタグループとホンダ。トヨタグループの中でもデンソーやア
イシンなどトヨタ向け以外の売上比率が高い会社が特に好調です。
またホンダの工機部門(社内設備をつくる部隊)は、2年分以上の仕
事を持っていると言われています。
自動車産業は世界レベルで見ると成長産業です。自動車関連産業の世
界市場規模は300兆円ですが、この十数年で500兆円への成長が
見込まれています。
同様に成長が見込まれている医療機器の世界市場規模は25兆円で、
やはりこの十数年で50兆円への成長が見込まれています。そう考え
れば、いかに自動車産業が巨大かつ成長産業であることがわかると思
います。
航空機も同様です。ボーイング社は777と787の生産を現在の3
倍に引き揚げる計画を発表しました。LCC(ローコストキャリア
ー)向け航空機の需要が増えているからです。航空機産業もこの10
年で市場規模が4倍に成長すると言われています。
発電機は原発の発電分を火力で補う必要があるため、この7月くらい
から急激に伸びています。ちなみに日本の発電プラント、特にガスタ
ービン発電機の性能は世界トップレベルです。LNGが気化する時、
着火して膨張する時、発生する熱、排気熱の4回発生するエネルギー
全てをタービンの回転に結びつけるという最先端の省エネ技術です。
ちなみに、日本のエネルギー効率はアメリカの2倍と言われています。
さらに中国のそれと比較すると8倍です。世界人口が1951年の2
5億人から、わずか60年で70億人に激増する中で、日本の省エネ
技術が世界中で求められることは言うまでもありません。
ではITはどうか。ITはやはり技術革新のスピードが速すぎ、ライ
フサイクルが短すぎます。IT業界には「ムーアの法則」と呼ばれる
ものがあります。これは「半導体の性能は2年間で2倍(集積度2
倍)、コストは1/2になる」というものです。例えばインターネッ
ト光回線は、現在ほとんど売れなくなったといいます。理由はスマー
トフォンが普及し、またワイファイなど無線通信が主流になってきた
ことから、ケーブルをひく需要者が激減しているからです。
こうした状況を5年前に誰が予想できたかというと、本当に一握りの
人を除いて誰も予想できない世界です。
もちろんITも長い目で見れば成長産業であることは間違いありませ
んが、こうした生き馬の目を抜く業界であることは強く意識しておか
なければならないことです。
いずれにせよ、結論から言えば日本から製造業が無くなることはあり
えません。これだけ製造業の海外移転が進んだといえ、それでもドイ
ツと比較すれば日本の海外生産比率はまだ低いのです。
実際に現在でも、仕事を抱えてこなしきれない鉄工所は数多くありま
す。足元は非常に厳しいですが、それでもリーダーは中長期的な視点
を持って、現在の状況に冷静に対処していく必要があります。
次回のレポートでも引き続き不況を乗り切るポイントについて、お伝
えしていきたいと思います。
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