5.講演会:基調講演 世界最大の製造業「フォックスコン」
ファインテック株式会社 代表取締役社長 中川 威雄 氏
会議棟7階国際会議場において、上記テーマにて講演会が行われた。
近年注目を集めるフォックスコン(鴻海:ホンハイ)に関するテーマであり、興味深い内容であった。
講演概要を以下に示します。
(1)ファインテックとフォックスコンの関係
同社は東京大田区に本社を置く町工場である。周辺の企業は不況下で苦戦しており、更地にされた
町工場がマンションに変わるなどしている。同社はフォックスコン(鴻海)の仕事を行っていることで、
仕事量を確保している。
中川社長は東京大学を退官後、フォックスコンの出資を受けファインテックを創業した。
中川社長はフォックスコンの技術顧問もしている。
中川社長がフォックスコン社長(創業者)郭台銘と出会ったきかっけは、1988年のシンガポール
での金型関係のシンポジウムであった。
当時フォックスコンの従業員は200人あまりの樹脂射出成形企業であった。当時郭台銘氏は37歳で、
台湾の金型工業会の会長をしていた。その後は個人的な交流が続き、中川氏が1999年に大学を定年
退職した後、フォックスコンンの技術顧問に就任した。
ファインテックは創業当初、フォックスコンからの依頼で光通信部品を手がけるが失敗。その後も液晶
部品を手がけるがうまくいかず、生産財・金型を中心とした研究開発型企業に事業転換。最近では
フォックスコン向け設備・金型販売で事業も安定してきている。
(2)フォックスコンの歴史:数人の町工場から世界最大の製造業に
郭台銘氏(現在62歳)は1950年生まれで1971年に台湾の専門学校を卒業。
1974年に24歳で台北郊外に射出成型の工場を数人で設立。コネクタ事業で業績を伸ばし1988年に
中国進出、さらにコンパックからデスクトップPC製造を受託してEMS事業を本格的にスタートする。
現在では売上高10兆円の世界最大の製造業に成長。中国各地に30工場を持つ。従業員は100万人で
売上高は10兆円。工場の総敷地面積は1000万坪に上る。IPadを生産する成都のフォックスコン
工場は2年で20万人の工場に成長した。今後は内陸部の工場を拡大する予定である。
(3)フォックスコンの成功要因:金型技術にこだわり部品加工技術に展開
フォックスコンの自慢は 1)世界の一流企業と取引している 2)日本の生産財に代表される一流の設備を
持っている ということ。
生産設備は主に基盤実装機、プレス加工機、工作機械、射出成型機であり、主要設備はほぼ日本製 である。
保有設備台数は世界一を誇る。
事業部制をしいているが、事業部の名称は全てアルファベットであるため外部の人間には中身がわからない。
工場は非公開、垂直統合生産で何でもつくる受託形態である。プリント基板への表面実装は700~900ライン
を保有。近年では実装前工程の回路基板製造も行っており、日本にとって脅威である。液晶ディスプレイパネルも
内製している。
金型は全て内製している。創業以来、金型を重視しており日本製マシニングセンタ・放電加工機(約3000台保有)
を多用している。またダイカストマシンを導入して自動車分野にも進出を目指している。
近年では人件費が高騰しており、ロボット化を進めている。ただしロボットを採用する為には周辺装置のエンジニアリング
が必要であり、使いこなすのに苦労している。検査工程は人海戦術であり、特に外観検査は人の目に頼る。
(4)フォックスコンの人材教育
液晶パネルや電子部品を生産する現在でも、特に金型の従業員教育を重視している。工業高校を卒業した新人は、
フォックスコンの金型訓練校で半年教育を受ける(毎年2000人)。その後、方々のラインで活躍することで、
フォックスコンはメカ部品に強いとの評価を受けてきた。
技術的にレベルの高い人材が多いため、他社からの引き抜きも多く困っている。
(5)樹脂から金属へ、板金・プレスから切削加工へ
アップルの製品筺体は樹脂から金属へ、さらにプレスではできない形状と精度が求められる様になった結果、
近年では工作機械で加工している。
アップルの製品は最大で月産1000万個以上の大量生産。何万台ものマシニングセンタが必要 であるが、
ほとんどが日本製である。
フォックスコンは金型づくりに非常にこだわってきた結果、切削筺体も金型づくりを応用して加工を行う。
例えば形状に沿った刃物を使用してワンパスで削る、工具も自らつくるといったことにこだわり、自社で最新鋭の
工具工場を持つ。
同社はアップルが最大の顧客であり、その経緯はアップルが苦しかった1990年代からフォックスコンがアップル
を支援してきた歴史にある。デザインを重視するアップルは筺体にこだわり、プレス構造から切削筺体に構造を変換した。
その結果、燕三条地区に出ていた試作・開発や研磨の仕事が日本から仕事が消えることになった。
切削筺体は多数のマシニングセンタが必要なことから、切削筺体の大量生産に踏み切ったのは画期的な決断である。
その背景には板金・プレスでは仕上がりに満足できないアップルの執念とフォックスコンの金型で培った技術力がある。
また金型工場は治具製作に活用されることになった。
(6)郭台銘氏の側面
フォックスコン社長の郭台銘氏のオフィスは工場内におかれ、一見するとバラック。床はコンクリートでイスはパイプ椅子
を使っている。利益は全て設備に回すという。片やプライベートジェットで世界を飛び回り、不必要なものにカネを使わない
という徹底した合理主義者。
幹部は世界のどこにいても郭台銘氏から携帯電話に電話がかかってくる、超ワンマン経営者である。現在の妻の祖母が日本人
ということもあり、最近は強く日本びいきである。
(7)フォックスコンの悩み:低利益率・限られた成長顧客・地元政府との対立
フォックスコンはほぼ無借金経営であるが、利益率は2%程度。年々利益率が低下してきている。近年ではOEMからODM
(設計段階からの受託)に転向することで利益率アップを図っている。
また現在のところアップル以外に成長が見込める顧客が見あたらない。
さらに沿岸部のフォックスコン工場で地元政府との対立がある。理由は地元政府系の企業がフォックスコンから人材を引っ張り、
裁判に至ったことである。その結果、地元政府からの圧力が強まり一連の自殺報道・労働環境の悪さを指摘する報道につながった。
実際にはフォックスコンの労働条件は周辺企業よりも優れており、地元政府の意向を受けた報道により2倍もの賃上げを余儀
なくされた。台湾系企業でありながら中国国内では外資系企業のつらさを味わっており、こうしたことも内陸への工場拡大に
つながっている。
また人材が中々集まらなくなってきている。社員からの採用紹介について報償制度を設けて、人材採用に注力している。
また単純作業が多く離職率が高い。また一人っ子政策の弊害で独身寮への抵抗が強い。
また中国ではささいなことで暴動が起き、例えば配置転換に反対する社員が屋上に上り「自殺するぞ」と脅す様な事件が頻発している。