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片山和也の生産財マーケティングの視点【不況を乗り切るキーワードは「顧客代行」】

4月以降、生産財業界の市況は厳しさを増している様に見えます。あ
る全国区機械工具卸のマネージャーの方の話を聞くと、今年3月まで
は比較的忙しく引合いも多かったのが、4月以降は電話も少なくなり
暇になったといいます。
事実、この6月は工作機械受注高も昨年対比15パーセントのマイナ
スで、30ヶ月ぶりに2桁を超えるマイナス幅になったといいます。
また、工作機械業界は大型キャンセルの話も聞かれる様になってきま
した。業界が厳しさを増していることは事実でしょう。

私は生産財業界を専門に、全国の会社をコンサルティングしています
が、エリア的に言えば現在好調なのは間違いなく東北です。震災への
復興特需以上に、自動車に関する生産が好調です。これはトヨタグル
ープがコンパクトカーの一大生産拠点を東北に築いたことも、大きく
影響しているでしょう。
また、現在好調なのは自動車に加えてスマートフォンの関係です。も
ともとエレクトロニクス業界で集積のある東北には、スマートフォン
向け基板・フィルム・部品等を生産するメーカーが数多く立地してい
ます。同じエレクトロニクスメーカーでも消費財を生産している会社
は大苦戦ですが、スマートフォン向けなど中間財を生産している会社
は軒並み好調なのです。

同じく自動車生産のメッカである中部地区は大きく二極化が進んでい
ます。いわゆるティア1といわれる完成車メーカーや、デンソー・ア
イシン精機といわれる大手部品メーカーと直接取引ができている1次
下請けは好調です。しかしこうした1次から仕事をもらっている2次
下請けは仕事を引き揚げられ苦戦しています。私は「製造業は国内で
生き残れ」派ですが、しかし自動車業界においては海外に工場をつく
れる体力があるかどうかが、選別の中で生き残る1つの要素に残念な
がらなっています。今や、トヨタグループ等も海外工場を持たない部
品メーカーとは直接取引を行わないといいます。
同じ自動車産業の集積地である浜松エリアは、名古屋エリアと比較し
てかなり厳しいと言えます。理由は二輪車や楽器など、海外移転しや
すい製品の生産地であることが挙げられると思います。また浜松は独
自の文化圏を形成していることから、浜松の会社は浜松エリアでしか
商売を行っていないケースも多々見られます。ですから総じて浜松エ
リアの会社は業績が厳しい様に思います。
浜松エリアの会社であっても、名古屋エリアや北関東エリアから仕事
を取ってきている会社は業績が好調です。中小企業の多くが限られた
エリアからしか仕事をとっていませんが、前回のレポートでも述べた
通り、業績を上げるためには商圏エリア拡大を図るより方法は無いで
しょう。

浜松エリア以上に市況が厳しいのが京都エリアです。元々京都エリア
はリーマン・ショックの際も落ち込みが少なかったエリアですが、現
在はIT不況の直撃を受けて非常に厳しい状態です。某大手機械工具
卸においても、京都支店は全国でワーストワンの成績だといいます。
しかし、私の関係先の京都の鉄工所2社は業績がかなり好調です。そ
してこの2社の共通点は、京都エリア以外の会社からも仕事を受けて
いるということです。
また、この2社はともに「顧客代行」機能を持っています。具体的に
は親会社の技術部門が新たな製品を開発する際には、この2社に声を
かけます。親会社が設計段階から加工を考慮して、いかにすれば安く
設計できるかといった相談に乗ることができているからです。
このうち1社の鉄工所は、最近展示会経由で新しい取引先を獲得しま
した。この新たな取引先はスマートフォン向け基板の実装装置を製造
している会社ですが従来はプレス会社主体の取引であり、提案型の機
械加工業者とは取引したことが無かった様です。そうした中で、この
私の関係先の鉄工所は「VA/VE提案」を全面に押し出しています
から、そこが非常に新鮮だったのかもしれません。

また別の私の関係先の機械工具商社は、某大手自動車部品メーカーか
ら1億円近い部品加工の引合いをとりました。今や機械工具商社もナ
ショナルブランドだけ扱っていても利益はとれません。加工やFA、
メンテナンスなど、価格が無いものを積極的に扱っていく必要があり
ます。それで加工に関する営業ツールをつくり全社で営業を展開した
ところ、1億円近い引合いにつながったのです。
その某大手自動車部品メーカーの担当者いわく、社内設備の部品加工
を外注しているのだが、納期管理や品質管理までも一括して丸投げし
てしまいたいと。例えば社内設備1台つくるにも百枚を超える部品図
面があるわけですが、これを社内だけで管理するのは大変です。です
から信頼できるエンジニアリング商社があるのであれば、全て一括し
て頼んでしまいたいと言うのです。これも「顧客代行」です。その機
械工具商社がISO9001を取得していたことも、そうした信頼感
につながったのかもしれません。

この様に「エリア拡大」に加え、「顧客代行」も不況を乗り切る為の
間違いないキーワードでしょう。

逆に「顧客代行」が不十分だった為に業界全体が苦戦している業種も
あります。それは金型業界と試作業界です。
工業統計を見ると、一般部品加工業の事業所数がピークから4割減な
のに対し、金型製造業は6割減です。その理由は金型製造の海外移転
もありますが、それ以上に部品メーカーが金型の内製化を進めたこと
が挙げられます。例えばプレス部品メーカーや樹脂部品メーカーにと
って、差別化するポイントは金型しかありません。あるいは製品メー
カーにとって大きくコストダウンをしようとすると、金型に行きあた
ります。同業界だけでなく異業界との競争に気が付かなかった金型製
造業は軒並み苦戦しています。

同じことが試作業界にも言えます。今や試作は、量産メーカーが仕事
を取るためにサービス的に行っています。量産メーカーどころか、設
計事務所ですら試作を入口商品と位置づけている例もあります。試作
業者のライバルは試作業者だけでなく、気が付けば量産メーカーや設
計事務所までもがライバルになっていた訳です。

いずれにせよ私が言いたいことは、いかに不況だとはいえ忙しい会社
もありますし、高品質な仕事に対しては必ずニーズがあります。また
自社の仕事にしても打ち出し方・訴求ポイントを変えるだけで新たな
客層から仕事が獲得できるケースがあります。
逆に自社の技術や過去の人脈に依存しすぎ、例えば“異業種のライバ
ル化”に代表される時代の重大な変化を見落とすと、取り返しのつか
ない命取りになる様にも思います。
かねてからお伝えしている「エリア拡大」もそうですが、ぜひ「顧客
代行」という視点で、自社のビジネスを再定義していただきたいと思
います。

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