片山和也の生産財マーケティングの視点【日本に残るモノづくり技術とは】
先日、私が主宰している部品加工業経営研究会の定例会が東京で開催
されました。そのゲスト講師として愛知県に本社工場を置く株式会社
イナテックの本多常務をお呼びしました。同社はトヨタ自動車関連の
部品加工を行うティア2企業であり、従業員460名で売上145億
円の企業です。
同社は自動車部品の中でもトランスミッションの部品を専門に生産し
ていますが、生産はほぼ国内で行なっています。価格に厳しいトヨタ
グループの中で同社が国内生産を維持できている理由として、トラン
スミッションの部品の中でも“難しい仕事”を選んで受注している点
にあります。
自動車部品には例えばサイドブレーキの摩擦パッドの様に、万が一不
良品が発生すると重大な事故につながる「重要保安部品」と言われる
部品があります。こうした重要保安部品は品質を維持するため国内生
産が基本となっており、極めて高い品質水準が要求されます。同社は
自動車部品の中でも「重要保安部品」だけを受注することによって、
国内でのモノづくりを維持しているのです。
確かに某大手重工メーカーも、機械部品を「A級品」「B級品」「C
級品」に分けて管理しています。B級品はタイで、C級品は中国で生
産を行なっていますが、A級品は国内でしか生産しないことになって
います。国内生産で生き残っていくためには、こうした国内でしか行
なえない仕事を追及していくことが必要でしょう。
そうした意味で興味深い事例が、ヨーロッパの時計産業だといいます。
本多常務によれば、現在でもヨーロッパには時計職人が毎年誕生する
そうです。機械式時計はクオーツ式と比較して、どうしても誤差が生
じます。高級品でも1日約4秒の誤差が生じるそうですが、ヨーロッ
パの時計職人はいまだに機械式時計の機構を改善して、機械式時計の
誤差をいかに小さくするかということに、いまだに取り組んでいると
いうのです。その結果現在では、機械式時計の売上がクオーツを上回
るようになってきているのだそうです。
やはりヨーロッパは機械文明の本場です。歴史的にいって東洋に機械
文明は存在しません。こと技術に関しては、欧米に見習う点というの
はまだまだあるのかもしれません。
先述のイナテックでも、景気が良いころは市販の工作機械を買って並
べてすぐに生産がスタートできるような、「商社的」な仕事を多く受
けていたといいます。同社の考え方では、市販の工作機械でそのまま
できる仕事は付加価値が何もないのだといいます。現在ではそうした
仕事はお断りして、本当に付加価値の出せる仕事しか受けないように
しているのだと言います。
いずれにしても「難しい仕事」を受ける、というスタンスは先進国の
製造業が国内で生き残っていく上で、必須の考え方でしょう。
私はマーケティングのコンサルタントですから、引合いを発生させる
ことが仕事です。その時、ほぼ同じような業種のコンサルティングを
行なっていても「他の会社が断るような仕事にチャレンジします」と
いうスタンスの会社もあれば、「ウチにはこの仕事はできません」と
安易に断ってしまう会社もあります。
当然のことながら、前社のケースでは結果が出ますが後者のケースで
は結果がでません。そしてどこの会社でも経営トップの意識は高いわ
けですが、問題はそれが現場に落ちているかどうかにあります。
つまりその会社が持っている「技術」というのは二次的な問題なので
あって、本質的問題とはその会社の経営者あるいは社員が持っている
「スタンス」にあるのではないでしょうか。
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