片山和也の生産財マーケティングの視点【なぜ金型産業は衰退したのか】
先週の報道で、国内金型大手の宮津製作所と富士テクニカが経営統合
されることが明らかになりました。両社は「金型御三家」と言われた
企業の中の2社ですが、御三家のもう1社であるオギハラは大和證券
SMBC主導のファンド傘下に入った後、タイの財閥であるサミット
グループの傘下に現在はあります。
つまり「金型御三家」と言われた3社が、海外資本の傘下に入るか経
営統合するかという状態になったということです。
ちなみに富士テクニカはリーマン・ショック以前から赤字が続き、リ
ーマン・ショックの数年前からリストラに取り組んでいました。それ
に対して宮津製作所は金型製作に加えてパンチングメーカー機能も持
っていることから「勝ち組」とされていましたが、リーマン・ショッ
ク以降は売上が激減し、債務超過に陥ったとのことです。業界特化の
ビジネスモデルは、ライフサイクルの波をもろに受けることが今回の
一件で考えさせられるところです。
なぜこの3社が「金型御三家」と言われるかというと、金型の中でも
最も難易度が高いとされる自動車用のプレス金型を手がけている点で
す。例えば携帯電話のボディーを形づくるのは樹脂金型ですが、樹脂
金型やゴム金型はどんなに複雑な形状であったとしても、1型あれば
製品がつくれてしまうので、ノウハウを数値化しやすい面があります。
ところがプレス金型というのは、最低でも3工程で仕上げるため1つ
のワークに対して3つの金型が必要になります。つまり職人のノウハ
ウに依存する傾向が強く、しかも自動車用となると数千トンもの大型
プレスとなるので難易度が高くなるのです。
こうしたことから昔は「金型メーカー30人限界説」というのがあり、
つまり高度な職人芸の金型製作は職人の管理が難しくて、30人まで
が限界であるというものです。事実、金型職人は一人前になるとすぐ
に独立してしまい、企業化が困難だった面が強いのでしょう。
しかし、こうした30人限界説を最初に打ち破ったのがオギハラであ
り、宮津製作所、富士テクニカといった金型御三家だったわけです。
こうした金型技術がコモディティとなり、新興国でも容易に生産がで
きる様になった要因として、3次元CAD/CAMの存在を挙げるこ
とができます。ほんの20年ほど前は、3次元CAD/CAMは数千
万円するのが当たり前で、パソコンではなくワークステーション上で
動くものがほとんどでした。
ところが今は、その当時のハイエンドと同じ機能を持った3次元CA
D/CAMが300万円以下で手に入り、しかも簡単にパソコン上で
簡単に動くものが現在の主流です。
2次元の図面で描かれたデザインを、職人が頭の中で3次元化するの
が当初の付加価値、あるいは高価で取扱いが難しい3次元CAD/C
AMのノウハウが次の付加価値だったわけですが、こうした障壁が技
術的革新によって取り払われたことが、金型産業が衰退した要因です。
国内において、こうした新品の金型をつくるメーカーは苦戦を強いら
れていますが、金型のメンテナンスや補修を手がける会社は実は利益
を上げています。どのような金型でも、使っているうちに痛んできま
す。あるいは途中で設計変更が入ったりして、簡単な手直しというの
が頻繁に入ります。金型メンテナンスメーカーは、そうしたユーザー
からの要望に対してほぼ24時間体制で対応し、ユーザーの工場にト
ラックを走らせ金型を回収し、特急で修理します。
新品の金型メーカーは、実はこうしたメンテナンスをほとんど手がけ
ません。新品の金型のように売上ボリュームが稼げませんし、計画的
な生産を行なうことができないからです。しかし、もし、金型メーカ
ーがこうしたサプライチェーンのうち、“サービス”のプロセスを意
識して取り込んでいたなら、また結果が変わってきていたのではない
でしょうか。
真夜中の生産中、金型がトラブルで故障したら生産ユーザーはお手上
げです。24時間対応で金型修理をしてくれる金型メンテメーカーは、
ユーザーを「喜ばせる」という機能を果たしています。
新品の金型メーカーも、昔は高度な職人技術あるいはデジタル技術に
よりユーザーを「喜ばせる」ことができたのでしょう。しかし、ある
時点でユーザーが喜ばなくなり、厳しい価格要求ばかりしてくるよう
になったのではないでしょうか。
経営者は感度を最大限に上げ、本当にお客を「喜ばせる」ことができ
ているのかどうか、振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。
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