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現在(2009年1月31日)の市況について

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昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻を機とする、世界同時恐慌は日を追うごとに状況が悪化していっています。今年(2009年)に入ってからも、1月初めの状況と現在の状況とでは悪化の程度が大きく異なります。

例えば最近では、「営業活動を行っても効果が無い」ということを理由に、あらゆる出張を禁止するメーカーも出てきました。ユーザーが製品デモンストレーションを依頼しても「全ての出張が禁止されているので・・・」という理由で断られてしまうのです。ユーザーの側も同様で、立会いといえども出張ができない。そこで立会い無しで設備を入れて欲しい、という話がいたるところで聞こえてくるようになりました。とにかく「3月末まではあらゆる支出をストップするよう
に」というトップからの指示が出ているからなのです。

その結果、壊れることがわかっていても補修部品を購入できない、キャンセルできる注文はとにかくキャンセルする、といったことにつながっているのです。しかも、これは自社が3月決算だからこうしたことを行っているわけではありません。例えば12月決算の会社にもかかわらず「3月末までは何も買うな」という指示がくだっているのです。こうした現在の極端な状況、全ての会社が「右へならえ」の状態を見ていると、ある種パニックのようにも見えてきます。現在の恐慌というのは、オイルショックの時にトイレットペーパーを買占めに走った群集心理にも近いものがあるのではないでしょうか。

こうした状況下、生産財メーカー・商社ともに、多くの会社が業績を落としています。機械工具商社については1月の売上で昨年対比30~40パーセントダウンといったところが平均的な数字です。メーカーについてはさらに深刻な状態で、昨年12月の段階で稼働率半分といったところが平均的でしたが、1月は1/3以下程度に悪化しているのではないでしょうか。ある自動車メーカーの某工場の場合で月7日間稼動、IT関連の記憶媒体を生産している某企業は1.5ヶ月間、全工場の稼動を停止しました。さらに某大手工作機械メーカーの1月受注見込みはキャンセルを入れるとマイナス(!)になるなど、ここまでの急激な景気悪化は、誰もが過去に経験したことがないレベルです。

しかもこの状態が2月、3月と解消されていくのであれば良いのですが、多くの会社で2月は1月よりも悪くなるのではないかという見通しになっています。従ってこの3月までは現在の状況が続くとみておかなければならないでしょう。ちなみに、自動車メーカーが在庫調整を終え、通常の稼動体制に戻すのが今年の6月といわれています。生産台数が元の水準に戻るかどうかは別として、とにかく4月以降までは現在の状態が続くと覚悟しなければならないでしょう。

しかし冷静に考えると、現在の状況は明らかに「異常」です。私から見ると、一種の群集心理による「逆バブル」が起きているようにも見えます。とにかく自動車だけでなく楽器から二輪車からITまで全ての業種がダウンしている状態です。過去の歴史などを見ても、どう考えても現在の状態がいつまでも続くとは考えられません。目先が不安だからといって営業活動までストップして良いのか、指揮官は冷静に判断をしなければなりません。もちろん、財務的に立ちゆかないから全ての支出をストップするという理屈はわかります。しかし、支出についても優先順位をつけ、投資すべきところには投資を行わなければ未来に何も残らないのです。

クラウゼビッツは著書「戦争論」の中で、“指揮官は霧の中、限られた、刻々と変化する情報の中で決断を下さなければならない”“それには英雄的な勇気が必要だ”と述べていますが、現在がまさにその状態なのです。ある大手工作機械メーカーのトップは「現在の状況はなす術がない、とにかくコスト削減あるのみ!」と、ある講演で語っていましたが、彼は自工メーカー出身のトップです。失礼ですが生産財業界のことを知らないから、手を打つにも打つ手がわからないのでしょう。攻撃しなければならないにも関わらず、トップが“敵が見えない”“使うべき武器がわからない”という状態では、社員が気の毒です。

そうした状況下、私が立派だと思う生産財メーカーはヤマザキマザックです。マザックは今年のプライベートショーを、例年の倍近く実施するとのアナウンスを行いました。さらに現行の低価格機種である“ネクサスシリーズ”よりも、さらに15パーセント低価格の機種をいちはやく発表しました。ヤマザキマザックは非上場会社ですが、哲学を持ったものづくり、経営を行っています。同社の美濃加茂工場を1回でも見れば、同社の哲学がわかります。また、ファナックも同様です。同社の制御装置は売上を大きく落としているものの、ロボット分野はそこまでの影響を受けていません。理由は「自動車」「半導体」以外のセグメントを意識したロボット開発を行ってきたからです。ロボットメーカーからすれば「自動車」「半導体」分野は台数をはくことができる巨大マーケットです。しかし長期的にみれば、人が行う通常の仕事をロボット化する「一般産業」分野の方が安定的で成長分野であることがわかります。その結果、ファナックではロボットに加えて画像処理(ビジョンセンサ)の内製に早くから取り組み、ロボット+ビジョンセンサのアプリケーションでは他社の追随を許さない存在となっています。

私は「ヤマザキマザックやファナックは大企業だからできるのだ」と考えてほしくありません。彼らは大企業だからうまくいっているではなく、常に自らの哲学を磨き、自らの哲学に沿った判断や決断をくだしているからうまくいっているのです。このように、現在のような混迷期においては「他人の考え」「他人の判断」にのるのではなく、「自らの哲学」に従って判断や決断をくださなければならないのです。

私のコンサルティング先でも、このような状況でありながらも業績を落としていない会社、逆に引合いを増やしている会社が多くあります。これらの会社は中小企業であったとしても、普段から自らの強みを磨いて哲学をつくり、それに沿った決断をくだしています。近い将来、こうした会社がどのようなことに取り組んでいるのか「視察ツアー」なども企画していきたいと考えています。いずれにしても、このような時代が大きく変わる節目というのは、必ずそこにチャンスがあります。そのチャンスをものにできるかどうかは、ひとえに組織体のトップである経営者次第なのです。

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