片山和也の生産財マーケティングの視点【今、そこにある危機】
機械工具通販のMonotaroの決算発表が公開されました。売上
で昨年対比3割増、経常利益は5割近くの増加でした。
一般的な機械工具商社が、良くて昨年対比1割増し前後、大半が横ば
いからマイナス2~3割という実態を考えれば、かなりの好業績であ
るといえます。
こうしたネット通販の機械工具業者と、人的販売を前提とする機械工
具商社とでは客層が異なる、と言われますが、しかし本来は機械工具
商社の売上となるべき数字の、少なくとも5~10%くらいは、いわ
ゆる通販事業者に流れていると私は思います。
また、リーマン・ショック以前の部品加工会社で、ミスミの切削工具
を積極的に使っているという話は、それほど聞かれませんでした。当
時は「やはり国産一流ブランドが安心」という声が、私が知る限り大
勢だった様に思います。
ところが、現在は違います。かなりの高精度を売りにしている様な大
手部品加工会社でも、コストダウンのためにミスミの切削工具を積極
採用しています。ある加工会社は、近隣の機械工具商社から毎月12
0万円以上の切削工具を購入していたのが、最近では90万円以下に
なったといいます。ミスミに置き換えられるものは全てミスミに置き
換えた結果、こうなったのだといいます。
別の加工会社の社長は、出入りしている機械工具商社の担当者に「ど
こでも扱っている国産品はもういいから、海外のコストダウン商品を
提案してほしい」と、何度も頼んだそうですが、その担当者はお茶を
にごすばかりだったそうです。「海外製を扱うと、国内メーカーから
圧力をかけられるんですよ・・・」
そんな対応にあきれた加工会社の社長は、中国・台湾のメーカーから
個人で輸入を行い、仲間で分けて使っています。輸入したエンドミル
でも国内で再コートすれば品質的に全く問題ないとのこと。再コート
費用や工数をかけても、国産の半値といいます。
今やこういう時代なのです。
こうした時代の背景には「インターネット革命」があります。インタ
ーネットは人類の有史以来、4番目の革命と言われます。
1番目・・・文字の誕生
2番目・・・書物(紙)の誕生
3番目・・・印刷の誕生
4番目・・・インターネット
グーテンベルグが活版印刷を発明した時も、情報の伝播スピードは数
百倍に、コストは数百分の1になったといわれます。活版印刷技術無
しに宗教革命や欧米の世界制覇もなされませんでした。
同様のことがインターネットにいえます。アラブの春もそうですが、
政治的にも経済的にも、我々の暮らしやビジネスを大きく変えつつあ
ります。ポイントは情報の伝播スピードとコストなのです。
言い換えれば、今のビジネスは本当に「人でなければできないこと」
「付加価値の高いビジネス」を行わなければ、生産性の観点で全くな
りたたないことになります。
こうした時代のビジネスモデルの鉄則は、「お隣の業界」のビジネス
を行う、ということです。
例えば家具屋を例に挙げます。家具屋が衰退したのは家具屋同士の戦
いが激化したからではありません。全く別業種が家具販売に参入して
きたからです。その一例が引越業者です。引越業者は誰よりも早く、
個人の引越し情報を入手します。引越し業者は引越しを売るだけでな
く、引越し後の家具やリフォームまで現在では手がけています。
不動産業者も同様のビジネスをてがけています。こうした事例が「お
隣の業界」のビジネスを行う、ということなのです。
船井総研 会長の小山は、これをわかりやすく「三軒先の花子さんよ
りも隣の山田さん」と講演でいつも表現しています。
つまり三軒先の遠くを見るのではなく、お隣のビジネスは何なのか、
よく観察しよう、ということです。
例えば機械工具流通のお隣、ということになれば「加工ジョブショッ
プ」「工事」「メンテナンス」「塗装」といったことが挙げられます。
もちろん「エンジニアリング」もそうです。
機械工具商社の強みは営業が主体で、多くの取引口座を持っていると
いうことです。そこで加工設備を保有し、加工ジョブショップとして
ビジネスモデルを変えることで、大成功・急成長している会社もあり
ます。
逆に、今までは競合しない、と思っていた業界が工場マーケットに入
ってきています。例えばアスクルは近年再び業績を伸ばし始めました
が、その理由は工場マーケットに参入しているからです。
今まで文具通販だと思っていた業態が、気が付いたら機械工具流通の
世界に入ってきているわけです。まさに、今、そこにある危機です。
言い換えれば我々も、自社の強みを活かしながら、人でなければでき
ない付加価値の高いビジネスを追求していかなければなりません。同
時に、お隣の業界のビジネスに目を向け、新しいビジネスモデルにチ
ャレンジしていくべきでしょう。ネットの活用も不可欠です。
不況期に新しいビジネスモデルが生まれる、というのはこうした理由
からなのです。
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