時節柄、賀詞交換会や年次方針発表会などに同席する機会が多いです。そうした場でよく話されているのが、今年の干支である「乙未(きのとひつじ)」の年まわりの話です。
「乙未(きのとひつじ)」の年、というのは良さそうに見えて混迷が深まる先が見えにくい年だと、ある会社の年次方針発表会でお聞きしました。
例えば原油安。アメリカではここ半年でガソリンが4割も下落したといいます。アメリカは車社会なので、ガソリンが値下がりすると消費が上向きます。
実際、北米では大型車が飛ぶように売れ、レクサスも10ヶ月待ちの状態とのことで、レクサスを生産するトヨタ自動車九州は増産に入るといいます。コマツやヤンマーの北米向け輸出も好調です。
しかしマイナスをこうむる業界もあります。
例えばシェールガス関連企業です。シェールガスの“売り”は、原油と比べて1/3~1/4という安さでした。ところが今は1バレル120ドルだった原油が40ドル台です。原油価格が40ドル台だと、大半のシェールガス油田は採算を取るのが難しくなる、と言われています。
シェールガスを精製するためには専用の蒸留塔が必要だということで、こうしたメーカーは活況だった様ですが、今後は極めて不透明です。
また今、アメリカではガソリン価格が下がったこともあり、ハイブリッド車が急激に売れなくなっています。トヨタ自動車はプリウスを今年から月20,000台減産するとのことですが、同様にEV(電気自動車)も売れなくなるでしょう。
関西エリアではアメリカの電気自動車メーカー、テスラ社がらみの設備案件が大量に出ていましたが、今後は電池がらみの設備投資は下火になると思われます。
また自動車業界は全般的に好調ですが、その中でホンダは不調です。特にフィットを生産している埼玉の寄居工場は週休4日という状態が続いていると聞きます。
ある賀詞交換会で、某大手切削工具メーカーの役員の方が「ホンダは好調企業として攻めていたのに参りました」と、こぼしていました。
また昨年・今年は工作機械の受注が絶好調でしたが、茨城エリアだけは全く振るわなかったといいます。茨城エリアの工作機械を扱う某商社は、売上が一昨年から昨年にかけて半分近くに減ったといいます。
その理由は、日立製作所の発電タービン部門が三菱重工の同部門と統合され、新会社に移管されたことにあります。この新会社では日立系の役員と三菱重工系の役員が混在しており、1億円を超えるクラスの設備投資事案には20を超える役員のハンコが必要だそうです。
その結果、大半の設備投資計画が保留のまま凍結されており、好調なはずの業界にもかかわらず、設備投資は全く振るわない、という状態が続いているのです。
まさに前述の「乙未(きのとひつじ)」の話の通り、
・「良い」と思っていた業界(あるいは会社)が急に悪くなる
・逆に「悪い」と思っていた業界(あるいは会社)が急に良くなる
という、まさに“混迷”を地で行く現象が至るところで見られます。
ちょうどこの原稿を執筆している最中にも、スイスが無制限のスイスフラン介入をストップする、というニュースが入ってきました。
このスイス金融当局の突然の決定により、ユーロ安が進み円高・株安が急激に進んでいる様です。また東欧では自国通貨でなく、スイスフラン建てで住宅ローンを組んでいる人が大量にいるらしく(ポーランドでは住宅ローンの6割がスイスフラン建て)、今後の大きな混乱が予想されます。
この様に変化が激しい時代であることは間違いありませんが、中小企業の経営者が考えるべきことは次の5つで揺らぐことはありません。
それは本レポートでも何度もお話していますが、
(1)特定業界・特定顧客に依存しない構造にする
(2)中堅・大手の優良グローバル企業を攻める(=小判ザメ作戦)
(3)デフレ対策を行う(=研究開発・価値を売る商品サービスの開発)
(4)採用に力を入れる(特に新卒採用)
(5)教育に力を入れる
例えば前述の売上が半減した工作機械の商社の場合、茨城エリアでのみ展開していたこと、言い換えれば日立グループのみを顧客としていたことが、業績不振の要因です。従って上記(1)を経営的に考えておく必要があったわけです。
また、上場企業の昨年上半期の決算は、経常利益を1兆5000億円増やし、過去最高の業績だったといいます。今年2015年3月期決算は、リーマンショック前の最高を上回ると言われており、表面だけみれば企業業績は絶好調です。
しかし実態は上場会社の中でも42%は減益です。
好調な「外需」の、しかも「国際競争力が高い」一握りの会社が業績を牽引しているだけであり、実態は「業績の二極化」です。
つまり上記(2)で述べた施策が絶対に必要になります。
そして、この「業績の二極化」はさらに進みます。
なぜなら、政府当局の取っている施策の大部分が、「外需大企業優遇施策」だからです。昔、「貧乏には麦飯を食え!」と言って非難された首相がいましたが、まさに同じ時代です。
しかし見方を変えれば、我々生産財業界の部品加工業・製造業・商社にとってはチャンスです。
要は国際的に競争力の高い、中堅・大手企業を攻略する活動を進めれば良いのです。リーマンショック後の、さらに東日本大震災後の「需要喪失」「円高」のことを考えれば、今の事業環境は劇的に好転しています。
言い換えれば「動けば結果が出る」事業環境になっています。
一般世間は混迷かもしれませんが、我々生産財業界の経営者は一気に「攻め」に出る年ではないでしょうか。
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