注目の書籍「技術革新と不平等の1000年史」から学べること
今、話題の書籍があります。昨年にノーベル経済学賞を受賞した、ダロン・アセモグル氏 他が著者の「技術革新と不平等の1000年史(上)(下)」という本です。
著者がノーベル経済学賞を受賞した、ということで本書も一躍注目を浴びましたが、その内容は大変興味深いものでした。
同書を読むと、従来の定説のいくつかが覆されています。
例えば、人類史における「生産性」についてです。
人類史において狩猟採集から農耕による定住(=農業革命)は、大きな技術革新でした。
ところが、この技術革新では人口は増えたものの、「生産性」は上がりませんでした(むしろ減少した、といわれています)。
そして18世紀の産業革命で初めて、人類は「生産性」を大きく上げることができました。
従来、この理由は「蒸気機関の様に人間の動力を代替するテクノロジー」ができてはじめて、生産性は向上するのだ、という“テクノロジー”に起因するもの、とされてきました。
しかし本書では、それを否定しています。
本書によると、社会の生産性を上げるか否かは“テクノロジー”ではなく、社会そのものの“アジェンダ”で決まる、としています。
生産性は「テクノロジー」ではなく、「アジェンダ」が決める
具体的にみてきましょう。
まず前述の、狩猟採集から農耕による定住(約3000年前)は人類にとって大きな技術革新でした。
特に、“穀物”を栽培して定住した民族は、穀物そのものの「保存性」「高エネルギー密度」によって、テクノロジーの観点からいえば、充分な余剰利益がもたらされるはずでした。
ところが、この時代の“アジェンダ(=テーマ・議題)”は、「余剰利益は全て領主が搾取する」さらに、場合によっては「奴隷制にして農業生産に従事させる」というものでした。
同書によると、新たなテクノロジーによって余剰利益が発生しても、それが社会に正しく分配されなければ「生産性」の向上には至らない、と述べています。
同様に、紀元後1000年前後には、「風車」「水車」といった画期的テクノロジーが生まれました。
風車や水車が登場したことにより、従来の重労働だった“脱穀”“製粉”といった作業が自動化されたのです。
それまで数十人で作業していた様な仕事を、わずか一人でこなすことができるようになったのです。
ところが、この時代の“アジェンダ”も、「余剰利益は教会建設、あるいは大聖堂の建設に充てる」というものでした。
この当時、風車や水車の所有主の多くが、教会か修道院だったといいます。
風車や水車を建設するには領主の許可を得る必要があり、当時絶大な権力を持っていた教会が技術を独占したのです。
その結果、「風車」や「水車」といったテクノロジーから生み出された“余剰利益”は、「教会」の建設や「大聖堂」の建設に充てられました。
大聖堂の建設は、それこそ場合によっては数百年かかります。
しかし、大聖堂が完成したからといって、一般の民衆への物理的な恩恵はありません。
これが「風車」や「水車」といった画期的テクノロジーが、「生産性向上」に結び付かなかった理由なのです。
なぜ産業革命はイギリスで起こったのか?
ところが18世紀のイギリスで起こった産業革命は、前述の通り人類史上初めて「生産性向上」に結び付きました。
それは、イギリスで産業革命が起こった理由とも重なるのですが、この時代既にイギリスは市民社会に脱皮しており、蒸気機関や自動織機が生み出した“余剰利益”が、社会に還元される仕組みが整っていたのです。
具体的に、蒸気機関の発展に貢献した主要なキーマンは約200名ほどいたそうですが、このうち貴族階級はわずか数名で、大半が一般市民(=中流階級)でした。
また、この時代には特許制度等が整っており、自らの努力(=特許の取得など)によって、身分に関わらず、富を手にするチャンスがありました。
こうした社会的基盤があったからこそ、イギリスで産業革命が起こり、そしてそれが生産性の向上につながったのです。
ちなみに、明治時代に福沢諭吉が出版した「学問のススメ」は、このように身分に関係がなく、本人の努力次第で富を手に入れることができた、産業革命時のイギリスの社会に触発されて出版されたのです。
この様に「生産性」を高めるカギは“テクノロジー”だけでなく、社会そのものの“アジェンダ”にあるのです。
「AI」や「生成AI」は人類の生産性向上に貢献しない?
そして今、毎日の新聞やメディアで必ず目にする「生成AI」は第二の産業革命ともいわれており、インターネットを超える技術革新だともいわれています。
ところが、本書の著者は「AI」あるいは「生成AI」の登場は、前述の“農業革命”や“風車”“水車”と同様に、人類の「生産性向上」にはつながらない可能性が高い、と悲観的な見方をしています。
もっというと、1980年代から登場した「デジタル」技術からその傾向がでており、実際1980年代以降のGDP成長率は、それまでの半分以下だといいます。
成長率が低下しただけではなく、富の配分もいびつになりました。
つまり少数の富裕層が大半の富を手にする、という傾向が強くなったのも2000年以降だとしています。
ではなぜ、「AI」や「生成AI」が生産性の向上に寄与しない、と著者らは述べているのでしょうか?
本書の中で様々な理由を述べていますが、最もわかりやすい理由は「テクノロジーが高度であるため、理解して活用する人と、そうでない人との間で格差が生じる」からだとしています。
市場が1/2に縮小する中、逆に売上を10倍以上に伸ばした会社
前述の“格差”で、わかりやすいのが衣料品業界です。
今、各家庭の支出(家計)に占める衣料品関連の支出の平均は、約45,000円だといいます。
これは2000年の時と比較すると56.4%の水準です。
つまり、ここ20年間で衣料に対しての支出は、約半分ほどになっているのです。
ところが、ユニクロは2000年は年商約2,300億円の会社でしたが、現在は年商3兆円を超える規模になっています。
つまり、市場そのものは半分ほどになる中で、ユニクロだけは10倍以上も業績を伸ばしたことになります。
ただでさえ勝ち組のユニクロですが、DX(デジタル)でも先端を走っています。
ユニクロは世界最大のITコンサルティング会社であるアクセンチュアと組み、2015年に同社との合弁会社を設立して店舗でのデジタル化を推進しています。
今やユニクロの会計コーナーには人がおらず、ほぼ無人のセルフレジで会計が自動的に行われていることは皆様もご周知の通りかと思います。
前述の通り、まさに格差のわかりやすい拡大の事例です。
なぜCRMが優良AI銘柄になっているのか?
また昨今では、中国の生成AI「DeepSeek」が注目を集めています。
ChatGPTやジェミニなど、米国ビッグテックの1/10以下の開発費で開発した、ということで米国のAI関連株は軒並み株価を下げています。
ところがこうした中でも株価を下げず、逆に株価を上げた銘柄もあります。
それがCRMベンダーである「セールスフォース・ドットコム」社です。
ではなぜ、「セールスフォース・ドットコム」社は逆風の中で株価を上げているのでしょう?
それはCRMが蓄積する顧客データが、自社独自のビジネスに貢献するAIにつながるからです。
ChatGPTにせよ、DeepSeekにせよ、基本的にはインターネットの情報をもとにしたLLM(大規模言語モデル)です。
つまり、そのままの状態では、誰が使っても同じ答えを出す汎用品にすぎません。
しかし、CRM(=カスタマー・リレーションシップ・マネジメント:顧客管理システム)に蓄積されていく情報をもとに駆動するAIは、自社特有の自社のビジネスに貢献するAIになります。
例えば「セールスフォース・ドットコム」社のCRMは、CRMにとどまらず、MA(マーケティング・オートメーション)やSFA(セールスフォース・オートメーション:営業管理システム)の情報も網羅しています。
したがって、自社の顧客の商談情報はもとより、資料ダウンロード情報や自社Webサイトの閲覧情報を統合することにより、「そろそろ、この顧客に対して営業フォローをかけた方が良い」といったアドバイスをAIが行ってくれます。
セールスフォース・ドットコムには、“ワトソン”という名前のAIが実装されています。
同じく同様のCRMであるZoho(ゾーホー)には、“Zia(ジア)”というAIが実装されています。
Zohoは、その企業哲学によりあえて株式公開をしていません。
しかし、同じCRMであるZohoも同社同様にAI機能を使うことができます。
例えば、ある中小旅行会社の事例ですが、同社ではかねてからZoho CRMを導入しています。
この中小旅行会社のZoho CRMには、「どの顧客が」「どんな季節に」「どこに旅行したか」他 といった顧客情報が蓄積されています。
そして同社のCRMにZia(=AI)を実装した結果、
・どの顧客が、次はどこに旅行する可能性が高いか?
といった、レコメンデーション(=顧客の未来予測)提案を行えるようになり、旅行への問合せ率が大幅に向上した、という成功事例があります。
このZohoのAI機能であるZia(ジア)は、“統計モデル”と“ディープラーニング”において日本語対応しており、「AIで、こういうことができないか?」というニーズに対して対応することが既に可能になっています。
AI・デジタル時代の勝ち残りは、まずはCRMの導入から!
このように、AIを有効活用するためにはCRMを導入して、自社データを蓄積していく必要があります。
CRMを導入して使いこなすのに、早くても半年ほど、本当に自社に定着するまでには2年程度はかかると思います。
そして、そのデータをAIで活用して習熟するのにさらに半年から1年は必要だと思います。
Zohoの場合もローコード・ノーコードツールであるため、導入そのものは半年もあれば可能です。
ただしそこから、自社の独自性を付加して本当の意味で使いこなし、AI実装までもっていくには2~3年ほどはかかると思います。
逆にいえば、今、この2~3年の時間の投資をしなければ、気が付いたらライバルに2~3年の差をつけられることになります。
前述の書籍の「デジタルの時代は富が偏在する」ということの意味はそういうことです。
そこで、私たち船井総合研究所では、来る2025年2月28日(金曜日)に「CRMカンパニー経営サミット2025」の開催を決定いたしました。
↓↓↓CRMカンパニー経営サミット2025の詳細はこちら!
https://www.funaisoken.co.jp/seminar/122888
まずは本セミナーに参加いただき、CRMを導入することで自社のビジネスがどう変わるか?ということを知っていただきたいと思います。
同時にCRMをはじめとした、AIまた生成AIを活用したデジタルについて、その最新情報を知っていただきたいと思います。
ぜひ、下記URLから本セミナーの詳細をご確認いただき、ご自身だけでなく右腕となる経営幹部の皆様もご同席の上、本セミナーへのご参加をご検討いただければと思います。
<このような方におススメのセミナーです!>
・CRMの導入により短期間で業績を向上させたいと考えている経営者の方
・データ活用、あるいはAI・生成AI活用により、自社の業績を向上させたいと考えている経営者の方
・DXに取組みたいと思っているが、何から手を付けたらいいのか迷っている経営者の方
・同じ中小企業で、DXに取り組んで成功している実際の社長の話を聞いてみたいと考えている経営者の方
・これから本格化する不況の前に、有効な打ち手を考えたい経営者の方
【セミナー概要】
◆日程 :2025/2/28 (金)
◆時間:12:30~16:30
◆会場:船井総合研究所 東京本社(八重洲)
〒104-0028 東京都中央区八重洲2-2-1 東京ミッドタウン八重洲
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