米国・シリコンバレーの最新情報
2024年9月8日から9月14日までの1週間、米国・シリコンバレーならびにロサンゼルスを視察する「驚きのサステナ・グロースカンパニー視察セミナーin米国西海岸」に講師として参加していました。
今回も120名のお客様(満席)に加え、約30名の船井総合研究所コンサルタントおよび事務局にて帯同、先日帰国しました。
今回のレポートでは、この米国・シリコンバレーの最新情報を皆様にお伝えしたいと思います。
今回の視察セミナーで訪問したのは下記企業です。
<サンフランシスコ・シリコンバレー>
・Google
・ZOHO
・ZOOM
・サンフランシスコ・再開発地区ミッションベイエリア(無人タクシー・ウェイモへの試乗)
・アップル・ビジターセンター
・Armanino(米国大手会計事務所)
・マイクロソフト(講演)
・「最新のシリコンバレーの現状とエコシステムについて」(櫛田 健児氏 講演)
<ロサンゼルス>
・ロサンゼルス・ドジャース(関係者講演ならびに試合観戦)
・オープンハウス(講演)
・Erewhon(エレウォン:LAで最も注目を集める超高級スーパー)
・ソニー・ピクチャーズ
・USC Marshall(南カリフォルニア大学マーシャル校)
・他、ウォルマートやトレーダー・ジョーズ他、店舗視察
広大なNASA敷地内に立地するGoogle新本社
今回の視察の目玉の1つは、Googleの新本社です。
かつてシリコンバレー・マウンテンビューという地域にあった同本社ですが、現在では20kmほど離れたNASA(米国航空宇宙局)のエイムス研究所の広大な敷地の中に立地します。その広さは東京ドーム2.2個分。
私は以前のGoogle本社も数回訪問したことがありますが、以前の本社は「キャンパス」といわれた比較的OPENなイメージでしたが、現在の新本社は前述の通りNASAの敷地内。NASAから100年間の賃貸契約を受けている、といいます。NASAの敷地内ということもあって厳重な警備がしかれ、敷地内では無線を発する機器が使用禁止なため、ワイヤレスマイクも使用禁止です。
現在では全世界で18万人もの従業員を抱えるGoogleですが、そんな同社でも創業当時と現在と変わらないことがいくつかあります。
それは「リモート勤務」ではなく、「リアル勤務」を重視していることです。
現在のGoogle新本社は、ベイビュー100,ベイビュー200,ベイビュー300という広大な3つの建屋から構成されますが、いずれも2階建てのオフィスです。
なぜ高層オフィスにしないのかというと、高層階にすると部門間でのコミュニケーションが阻害されるからです。これらの広大な建屋のいたるところに吹き抜けがあり、そこには1階と2階を結ぶ階段があります。エレベーターではなく、あえて階段にすることで、そこでの出会いで話し込むといった、コミュニケーションを取ることでイノベーションにつながる示唆を得ることを目的にしています。
こうしたGoogle新本社のコンセプトは「ショッピングモール」です。会議室を集積させているエリアはネイバーウッド(ご近所)とよばれ、社屋内の至るところにオブジェがおいてあります。
日本のオフィスでも、「リモート勤務」が良いのか、「リアル勤務」が良いのか、という議論がありますが、Googleだけでなく、テスラやスペースXの創業者であるイーロン・マスク氏も強く「リアル勤務」を推奨しています。世界で最もデジタルなGoogleが、イノベーションを生み出すためにはアナログ(=オール2階建ての建物によるリアル勤務)を最重視していることは、大変興味深いといえます。
全てのビッグテックが注力する生成AI:「AIファースト」「コンテキスト(文脈)」の時代
今回訪問したGoogle、ZOHO(ゾーホー)、ZOOM(ズーム)といったビッグテックが例外なく注力しているのが生成AIです。
ちなみに10年前に同視察セミナーで、IBMのワトソンというAIを視察したことがあります。当時はディープラーニング(=深層学習)という技術により、クイズの回答も人間より高精度で行うことができる、といったデモを視た記憶があります。しかしその導入費用が大変高額かつ使いこなすのも難しかったことから、「これは大企業でないと導入できないな」と誰もが感じました。
ところが、生成AIが画期的である最大の理由は、全ての人がほぼ無料でAIを活用することができる、ということです。あるいは毎月数千円を支払えば、かなり高度なAIサービスを誰もが使うことができます。
マイクロソフトはChatGPTならびにコパイロット、Googleはジェミニというサービスをリリースしており、ZOHOやZOOMも自社プロダクトの中に生成AIを組み込んでいます。
まさにAIファーストの時代、ということができます。
そしてこうしたビッグテックが口をそろえて重視するのが「コンテキスト(文脈)」です。
では、この「コンテキスト(文脈)」とは何なのか?
前述の通り、生成AIが画期的な点は、従来のAIと異なりエンジニアでなくても誰もが使える、という点にあります。ではなぜ、生成AIは誰もが使えるのかというと、生成AIはインターネット上の情報を既に自ら学習しているからです。インターネット上の膨大なテキスト情報を自ら学習できることから、生成AIはLLM(大規模言語モデル)とも呼ばれます。
しかしすぐに使える反面、前述の通り、生成AIが学習しているおおもとはインターネットであるため、言い換えればインターネット上にあふれる「一般論」しか学習できていない、ともいえます。
つまり生成AIを本当にビジネスで活用するためには、この「一般論」に加えて、「自社特有のデータ」を付加することで、自社のビジネスの問題解決が可能な自社の文脈(=コンテキスト)を学習した生成AIが必要になります。
そのためには、AIが学習可能な整理整頓されたデータを自社に蓄積していくことが求められ、そうした中であらためて注目を集めているのがCRM(顧客管理システム)です。
あらゆる企業にとって、蓄積すべきデータとは顧客データです。従って、今後は全ての会社でCRMを導入し、ここに顧客データや顧客にまつわるあらゆるデータを蓄積していくことが求められます。
ZOHO社が提供するZohoは、こうした生成AIに対応したCRMプラットフォームです。
またZOOMでも自社プロダクトに生成AIを広く導入しており、会議の自動翻訳はもちろん、自動文字起こしからテキスト化、さらにそれを生成AIで要約して議事録を自動で作成する機能が、既にプロダクトに盛り込まれています。
サンフランシスコ市内・ロサンゼルス市内を走り回る無人タクシー・ウェイモの衝撃
今回、視察セミナーご参加者を驚かせたものの1つが、無人タクシー・ウェイモです。
ウェイモはGoogleが運営する無人タクシーで、サンフランシスコ市内で300台のウェイモが走っています。文字通り運転者が乗車していない、完全無人のタクシーです。
自身のスマートフォンにウェイモのアプリをダウンロードすることで、誰もがウェイモを呼ぶことができます。ウェイモの無人タクシーは車体の4か所に回転式のレーダーが搭載され、屋根の上にも回転式のレーダーが搭載されています。例えば、前を走る車が、反対車線側にある店に入ろうとウインカーを出して停車している場合、ウェイモはそれを認識して、自動で車線変更して追い越すなど、ほぼ人が運転しているのと変わらない性能を誇ります。
少なくとも、コロナ禍前にサンフランシスコに行った時には、こうした無人タクシーは1台もいませんでした。今回はサンフランシスコだけで、300台のウェイモが走っています。
Googleがいちはやく無人タクシー事業を軌道に乗せられた最大の理由は、これまでのGoogleマップという情報の蓄積にあります。
今はサンフランシスコ市内、あるいはロサンゼルス市内といった限られた都市部でのサービスですが、間違いなくこの前述の300台で、全米展開に必要な様々なデータを取得しているものと思われます。
タクシーだけでなく、あらゆる物流が、人間のドライバーからAIに置き換わる可能性が高いといえます。ひるがえって日本では、無人運転のタクシーどころから、ライドシェアですら限定的にしか導入されていません。サンフランシスコやロサンゼルスであれば数分でライドシェアに乗車できるのに、東京や大阪ですら、混雑時はアプリでも10分以上待たされることがざらにあります。
恐らく、数年後になるとサンフランシスコでは数千台の無人タクシーが走り回り、もはや人が運転するライドシェアそのものが成り立たなくなる可能性もあります。日本にいるだけでは、こうした技術革新や時代の流れを見落としてしまう可能性が高い、といえます。
AI時代に生き残るためのリーダーシップとは?
では、こうしたAI時代を勝ち抜くポイントは何なのでしょうか?
今回訪問した、全世界のビジネススクールの中で17位につけるUSC(南カリフォルニア大学)マーシャル校(MBAコース)のテリー博士によると、それは大きく次の3つのスキルだといいます。
それは、
1)自らを知ること
2)コンセプチュアル・スキル(概念化能力)
3)ハードスキルよりもソフトスキル
だといいます。
ハードスキルというは、法律・財務・会計・マーケティング・プログラミングといった実学の領域です。多くの学生がハードスキルを求めてMBAに入りますが、こうしたハードスキルはAIに代替される可能性が高いとテリー博士はいいます
これに対して、ソフトスキルとは、共感力・イノベーション・リーダーシップといった領域です。こうしたソフトスキルはAIに代替されることはありません。
こうしたソフトスキルを身に着けるために求められることが「自らを知る」ということです。今、ベンチャーキャピタルが投資するかどうか判断する最大のポイントは、その会社の経営者が本当の意味で「自分を知っているか、どうか」だといいます。自分のことがわかっていない人物に投資することほど、リスクが高いことはない、というのです。
また、現在はVUCAの時代、といわれる通り不透明・不確実・複雑・そして常に状況が変わります。こうした環境の中でリーダーに求められる能力が「概念化能力(=コンセプチュアル・スキル)」ですが、このスキルを身に着けるためには、リーダーには幅広くかつ深い知識が必要なのだといいます。
このUSCは、日本でも有名なUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のライバル校にあたる、名門私立大学です。米国では名門大学といわれる大学の多数が私立大学で、授業料も日本と比較すると大変高いです。USCの場合で、年間約1000万円の授業料がかかるといわれます。
多くの学生が奨学金を得て通学するといわれますが、もはや学力だけでなく、相応の経済力がなければ名門大学への進学もままならないというが現実の様です。
今回、USCのキャンパスツアーを担当してくれた現地の学生に、「なぜUSCに入学したのか?」と聞くと、「両親もUSCの出身で、子供のころからフットボールの試合を観にUSCに頻繁に訪れる中で、自然な流れでUSCに入学した」と言っていました。
なおUSCは、セールスフォースドットコムの創業者 マーク・ベニオフ氏や、演出家・映画監督として名高いジョージ・ルーカス氏、世界で初めて月面着陸に成功したアームストロング船長の母校としても知られています。
基本的に観光は行わない船井総合研究所の視察セミナーですが、今回は例外的に、ロサンゼルス・ドジャーススタジアムで、ドジャース対シカゴカブスの試合を観戦しました。運が良いことに、1回裏の攻撃から大谷翔平選手がホームランを打ち、その後もホームランを連発し、盗塁にも成功するという歴史的な試合を目の当たりにしました。
こうした大リーグの試合でも、試合のちょうど真ん中あたりでは全員で起立して米国国歌の斉唱をきき、また軍で英雄となった人物のインタビューをはさむなど、多国籍国家アメリカを1つにまとめる仕組みがそこには感じられます。
今回も120名の経営者の皆様と米国西海岸の視察をご一緒することができました。
1週間という時間と、また相応の費用がかかる視察セミナーではありますが、たった1つでも何らかの示唆を得て、それを自社の経営に反映させることができたなら、瞬時に元がとれる企画だと思います。
日本にいて、いわゆる日常の仕事の中だけでは得られない気づきや示唆、多くのことが学べる視察セミナーだと思います。
来年は海外視察セミナー第一弾として、船井総合研究所としても初めての「インド視察」を3月に予定しています。私も講師として参加予定ですので、ぜひ、ご参加を今からご検討いただければと思います。
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