苦境に陥るドイツ自動車部品業界
先日の日刊工業新聞に興味深い記事が出ていました。
その内容は、ドイツの自動車部品業界が苦境に陥っている、という内容です。例えば、ドイツの自動車部品大手のコンチネンタル社(年商約6兆6240億円)。同社はもともとタイヤメーカーでしたが、ここ15年ほどは様々な自動車部品メーカーをM&Aすることによって、タイヤだけでなく、ブレーキ・センサー・ディスプレイと、ワンストップで自動車の足回り全体のソリューションを提供することができる、いわゆる総合自動車部品メーカーを志向してきました。
実際、日本の某大手ブレーキメーカーはビッグ3との商談にコンチネンタルと競合して敗れ、大型案件を失注した結果、その後、事業再生ADRを申請するに至ったといわれています。
ところが、そんな「勝ち組」であったはずのコンチネンタル社が、「2025年にタイヤ部門以外の自動車部品部門を分離する可能性がある」と、先月発表したのです。その理由は、タイヤ部門の収益性に対して、自動車部品部門の収益性が低いこと。同社のIRによると、タイヤ部門のEBIT利益率(営業利益±利息以外の営業外損益±特別損益の売上に占める割合)が13.5%なのに対して、自動車部品部門のEBIT利益率は、わずか1.9%です。
2023年末の決算は比較的好調が伝えられたコンチネンタルですが、2024年の第一四半期(1-3月)は赤字に転落したといいます。「勝ち組」だったはずの会社が突然赤字に転落し、今までの戦略を見直さざるを得ない状態に陥っている、というのは大きなニュースだと思います。
また同じく、ドイツの自動車部品大手であるZF社は、「2028年末までにドイツ国内の従業員を最大1万4000人減らす」と発表しています。同国の従業員は5万4000人とのことですから、ほぼ4人に1人が削減されることになります。また同紙によると、ヘラ、ヴェバストといったドイツの中小部品メーカーも合計1万6000名もの人員削減を行うとのことで、前述のコンチネンタルも5000人の人員削減を発表しています。
このように、ドイツの自動車部品メーカーが苦境に陥っている理由は、EVシフトによって従来の自動車部品の生産が減少していることに加えて、以前のレポートでもお伝えした様に、中国製EVの安値攻勢という構造的な理由があります。また、ドイツがEVへの補助金を廃止したことも大きな理由だと考えられます。
生成AIがエンジニアの仕事を奪う
こうしたドイツの自動車部品メーカーの人員削減ですが、ハード部門だけでなくソフトウェア部門も対象になっているようです。まだ、日本ではそれほど言及されていませんが、欧米においては従来のソフトウェアのエンジニアの仕事を、生成AIがかなり代替しているといいます。
例えば、先月にグランドプリンスホテル新高輪(品川)で開催された船井総合研究所の経営戦略セミナーですが、メインゲスト講師の1人が、ゾーホーUSの統括責任者であるラジュ・ヴェジスナ氏でした。今回、ラジュ氏は米国から経営戦略セミナーのために来日され、米国の最新のAI活用状況についても講座の中で言及されました。
その中で興味深かった話は、メタ社のメッセージアプリである“ワッツアップ”ですが、全世界に展開しているワッツアップを開発しているのは、わずか30名のエンジニアだといいます。ワッツアップは日本でいうところのLINEの様なものです。日本以外では、ほぼワッツアップが使われているので、米国視察の際やインド視察の際は、私もワッツアップを使っています。
そんな世界的なアプリがわずか30名のエンジニアで開発が行われている理由が、生成AIの活用だといいます。ラジュ氏によると、生成AIを活用することでエンジニアの力は10倍にもなるそうです。言い換えると、従来のマンパワーの1/10で済んでしまう可能性がある、ということです。
ゾーホー社の見立てでは、今後、ソフトウェアの価値は急速に衰えていく可能性が高い、といいます。なぜなら誰でもソフトウェア開発ができる様になるからです。
逆にこれからの時代はソフトウェアだけでなく、ハードウェアが大事になってくる。また、コピーすれば事足りるソフトウェアそのものが持つ機能だけでなく、それに付随するオペレーティング機能が大事になってくる、という話をされていました。
GAFAMなど、米国のビッグテックが人員削減を行っている理由、また世間一般で“リスキリング”が叫ばれる理由の背景もそうしたことで、今はまだ、私たちにとってピンとこない話かもしれませんが、「タイムマシン経営」の視点からいうと、そうした米国の最新事例は押さえておくべきかと思います。
激動の時代を乗り切るために、中小企業に求められること
前述のように、一昔前までは「勝ち組」だと思われていたような会社が、急遽方針転換をせざるをえないほど変化が激しい今、中小企業が生き残っていくポイントは経営者の感性・直観力だと思います。
例えば、私の関係先で塑性加工を行っている部品加工業があります。もともとは自動車業界メインでやってきましたが、EVシフトにともない、自動車だけでなく多方面に取引先を広げています。
先日、その会社の幹部が取引先から図面を出されたところ、この幹部の方は「これは当社では無理だ」と断ろうとしました。しかし、その会社の社長が図面を見たところ、「自社だけでは無理だが、協力会社と組めば対応ができる」と判断して、その仕事を前に進めることにしました。月額で1000万円前後が見込める、大きな案件です。その幹部の方も優秀な方なのですが、やはり社長との実力差は大きいのです。
船井総合研究所の創業者である舩井幸雄は、「社長(経営トップ)とナンバー2との差は、新入社員とナンバー2との差よりも大きい」と言っています。現在の様な激動の時代は、さらにそうした要素が大きくなるのかもしれません。
あるいは、明らかに今、赤字に近い状態で儲かっていないのに、「忙しくてこれ以上できません」といったような発言をする部門長がいたりします。こうしたケースというのは、明らかに「しなくてもいい仕事」を一生懸命していたり、すぐに終わるはずの仕事を必要以上に時間をかけて行っているケースが大半です。
直観力の鋭い人がみれば、短時間のうちに問題解決がなされますが、そうでないとずっと問題をひきずるケースもあります。そういう場合は放置せず、経営トップ自らが手をいれなければならないと思います。
経営の神様といわれた松下幸之助氏も、「製造の部門長の立場ともなれば、ラインを流れる製品をみただけで、どの製品が不良なのかわかる様な勘が必要だ」といった主旨のことを本に書かれていましたが、こうした能力も直観力といえるのではないでしょうか。
ピンチを乗り切れる感性・直感力を身に着ける方法
では、どうすればそうした感性や直観力が養われるのか?
いろいろな方法があるかとは思いますが、その1つがお客様と対峙することだと思います。それも、既存のお客様だけでなく、新規のお客様と対峙することです。
考えていれば、仕事を教えてくれる先生は、先輩であり、上司かもしれませんが、最大の先生は「お客様」だと思います。実際、中小製造業の技術やノウハウというのは、長年取引してきた親会社からもたらされたものがコアになっているはずです。これは商社であっても同じことだと思います。
私たち船井総合研究所 製造業商社支援部では、20年以上にわたり、受託型製造業を中心とする中小製造業や、地域密着型の販売店(商社)を対象とした、新規顧客開発のコンサルティングを提供してきました。私が入社したころは、製造業・商社のコンサルタントはほぼ皆無でしたが、現在では40名近いコンサルタントが在籍しており、多くの業種業界で成果を上げています。
冒頭に述べた、特定業種・業界に依存しない、ということもそうですが、御社の組織的なケイパビリティ(能力)を向上させていく、という意味で、ぜひまずは、船井総合研究所の経営セミナーにご参加いただければと思います。その際に、経営トップだけでなく、幹部の方もご同席いただくと、共通言語化も図れるのではないかと思います。
現在、船井総合研究所 製造業商社支援部では、下記の様な業種別の専門セミナーを開催しています。内容は主に従業員10名~30名前後の中小製造業を対象として、いかに自社の真の強みを見つけるか、いかに今いる幹部・社員でリピート受注が見込める優良顧客をDXを活用しながら開拓していくのか、といった内容です。同時に各業界で攻めるべき、今の成長市場についても詳しく解説いたします。
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