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2023年11月の時流とその対策(2):米国テック企業のやり口と、日本の中小企業が行うべきこと

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デービッド・アトキンソンとは、どの様な人物なのか?

来る12月12日に開催される、船井総研の毎年恒例の「時流戦略セミナー2024」の特別ゲスト講師として、デービッド・アトキンソン氏が登壇します。

私の関係先の社長からも、「デービッド・アトキンソンといえば、日本の中小企業を減らせ、言っている人物なんじゃないの?」「何でそんな人物をゲスト講師に呼ぶのか?」と聞かれることがありますが、
私は「敵情視察です」と、応える様にしています。

「日本の生産性が低い理由は、中小企業が多すぎるせいだ」と言っている人物の話をあえて聴くことによって、これから中小企業にどんなことが起きるのかを予測して、対処することができると私は思うのです。

念の為、デービッド・アトキンソン氏について補足すると、同氏は大手投資銀行であるゴールドマンサックスの元幹部であり、日本の政策に大きな影響を及ぼす人物として知られています。
かつて日本には富士銀行、東海銀行、東京銀行、太陽神戸銀行・・・ と、数多くの都市銀行が存在していましたが、デービッド・アトキンソン氏の「日本は都市銀行が多すぎる」「もっと集約しなければならない」という政策提言が実現され、実際、日本の都市銀行は三井住友銀行、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、りそな銀行の4行に集約されています。

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イーロン・マスクの公式伝記上下巻は必読の1冊!

同様に、私はもう1人、敵情視察の必要性のある人物がいると思っています。
それは、前回の本コラムでも述べた、イーロン・マスク氏です。

今、「イーロン・マスク」公式伝記の上下巻が文藝春秋から発売され、全国書店でも並んでいます。
上下巻あわせて1000ページを超える大著ですが、私も早速購入して読みました。

本書を読んで感じたことは大きく次の2つです。

1.現在の米国企業は、実は日本企業以上にハードワーク
2.PDCAサイクルよりも、デザインシンキング

以下に、詳しく述べていきたいと思います。

1.現在の米国企業は、実は日本企業以上にハードワーク

テスラも、スペースXも、またイーロン・マスク氏が買収したツイッター(現在の社名はX)も、いずれもハードワークをいとわない企業体質です。
例えばスペースXでは毎週夜の22時から会議が始まるなど、現在の日本の働き方からすると、考えられない様なハードワークぶりです。

日本だと労働基準法で残業の上限規制があるなど、働き方としてNGであり「ブラック企業」と叩かれることでしょう。

しかし、ここで留意すべきは、日本と米国では労働基準法が異なる、ということです。
日本では現在、働いた時間が全てのブルーワーカーと、成果を出すことが求められるホワイトカラーとが、同じ労働基準法で規制されています。
ところが米国には「ホワイトカラー・エグゼンプション」という制度があり、ホワイトカラーは労働時間規制から適用除外されています。具体的に、週給455ドル以上を得ている専門職・運営職・管理職は、この労働時間規制から適用除外されているのです。

週休455ドルということは、1ヶ月で日本円にして28万円程度。年収だと340~350万円前後です。
日本でも高度プロフェッショナル制度で、年収1075万円以上の高年収者は労働時間規制の適用除外がされますが、年収1000万円を超える様な人は会社員のうち3%台といわれています。
ところが米国の場合は年収350万円程度で、「ホワイトカラー・エグゼンプション」により労働時間規制の適用除外がされているわけです。

本書を読むと、こうした米国と日本の労働環境の違いが目の当たりにされます。
「量が質に転化する」という言葉がありますが、エコノミックアニマルといわれた日本人昔の話で、今や米国人の方がモーレツ会社員になっているのです。

しかし当然のことながら法律は法律、当然のことながら現在の労働基準法を守った上で、いかに生産性高く働くのか。「イーロン・マスク流」ではなく、いわば「ドイツ型」ともいえる様な働き方を経営者が真剣に考えないと、我々日本企業はイーロン・マスクの会社に勝てない、と本書を読んであらためて感じました。

2.PDCAサイクルよりも、デザインシンキング

本書を読むと、イーロン・マスク氏は数々のイノベーションを生み出していることがわかります。
EV専業メーカーであるテスラ社を軌道に乗せて、自動車メーカーとして時価総額世界一の会社をつくっただけでなく、世界初の民間宇宙事業会社であるスペースXを立上げ、今や同社は世界で最もロケットの打ち上げ回数が多く、かつ安全性の高いロケット打上げ・運用会社となっています。

こうした同氏のイノベーションを支えているのが、デザインシンキングという思考法です。

例えば前回の本コラムで、ギガキャストについての話をしました。
ギガキャストとはテスラが開発した技術で、日本のカーメーカーであれば120ほどの部品を溶接や締結部品で1つの部品に組み立てるの対して、1万トンを超える超大型のダイカストマシンで、1回の成形で1つの部品をつくりあげる画期的な方法です。

この、ギガキャストの技術はイーロン・マスクがテスラのミニカーを眺めていて思いついたと本書では述べられています。そのミニカーは非常に精巧にできており、ボディを外すと内部の構造までがリアルに再現されていたのだそうです。
そして、そのミニカーのシャーシが偶然3分割されていたそうで、イーロン・マスクは会議中にそのミニカーの部品を机の上になげ、「こういうふうに、大きな部品を一体成型したら安くEVがつくれるんじゃないのか?」と幹部に提案します。
そうすると幹部の1人が「そんな大きなダイカストマシンは、世の中にありません」と応えたそうで、そこでイーロン・マスクが「じゃあ、全てのダイカストマシンメーカーにあたってみろ!」と指示を出したのだそうです。

それでテスラの社員が、世界中の全てのダイカストマシンメーカーをリストアップし、1社1社連絡してあたったところ、「できます」と応えたのが、イタリアのイドラというメーカーだったそうです。
そして同社は2021年3月に、世界初となる8,000トンのダイカストマシンの開発を発表し、そして前回のコラムでもお伝えした通り、現在では16,0000トンのダイカストマシンをテスラに納めています。

また自動車部品を成形するダイカストマシン。日本ではどんなに大きくても1,300トンくらい。それがテスラのギガキャストでは10,000トンを超える超巨大なダイカストマシンが使用されており、日本では100点ほどの部品を溶接等で組み合わせて製造する部品を、わずか1ショットで製造しているのです。

そしてテスラ社の最新技術動向を伝える米国メディアのThe Tesla Spaceによると、さらにテスラ社は10,000トンをはるかに上回る16,000トンのダイカストマシンを導入したそうです。

またスペースXが手掛けるロケット打ち上げは、NASAのそれと比較すると1/5~1/7ものコスト削減が実現されているといわれます。
その要因は、イーロン・マスク氏がロケットの設計段階から関与し、徹底的にコスト削減を指示するからです。

例えば本書によると、マスク氏はインコネルの様な高額な耐熱合金の使用を嫌い、極力普通のステンレス鋼で部品を製造する様に指示するのだそうです。
また、やはり高額な航空宇宙用のバルブや継ぎ手などを嫌い、もっと安価な自動車用のバルブや継ぎ手を採用する様にトップダウンで判断するのだそうです。
これはボーイングやロッキードなど、従来の実績を重視する、既存の航空宇宙ビジネスの会社では到底できないことです。

こうしたマスク氏の決断の結果、必要な部品を省くことによって、そのせいでロケットが爆発してしまったり、打ち上げに失敗することもあります。しかしスペースXでは、実験した結果、ロケットが爆発して打ち上げに失敗するのもやむを得ない、としており、その失敗から得られたデータを次の打ち上げに反映することで、コストの劇的な削減と安全性の両立を図るのだそうです。
つまり莫大な物量と、投資予算に裏付けのある、米国らしいやり方だともいえます。

ちなみに、こうしたテスラのギガキャストや、スペースXの失敗をものともしない思考法は、「デザインシンキング」といわれるフレームワークです。

日本では多くの会社が「PDCAサイクル」で物事を進めます。
「PDCAサイクル」とは、

・P:プラン 計画
・D:ドゥ 実行
・C:チェック 検証
・A:アクション 改善

というサイクルを回すことにより、質を高めていくフレームワーク(思考法)です。
PDCAの良いところは、既存の業務の質を上げることや、既存の業務に対しての改善活動です。
しかし弱点として、PDCAサイクルからは新たなイノベーションが生まれてきません。

これに対して欧米で一般的に採用されているフレームワークが「デザインシンキング」です。
「デザインシンキング」とは、

・共感して観察する
・問題を定義する
・アイデアを出す
・試作品をつくる
・試作品をテストして試す

というフレームワークです。
例えば、前述のイーロン・マスク氏の「ギガキャスト」も、このデザインシンキングのフレームワークで生まれていることがわかります。

つまり、前述の話にあてはめると、

・共感して観察する:ミニカーのテスラを観察する
・問題を定義する:部品を一体化するにはどうすればよいか?
・アイデアを出す:大型のダイカストマシンをつくる
・試作品をつくる:イタリアのイドラ社にダイカストマシンを発注
・試作品をテストして試す:ギガキャストを本格採用へ

と、いう流れになることがわかります。

デザインシンキングで最も重要なプロセスは“試作品をつくる”プロセスであり、次に“試作品をテストして試す”プロセスであるといわれています。
スペースXの場合も同様で、前例を無視してまずは効率的なロケットをつくり、爆発して失敗してもいいからまずは打ち上げてみる。失敗したら原因を検証して次の打ち上げにつなげる、という考え方です。

これに対して日本的な考え方だと「失敗は絶対に許されない」という前提での打ち上げになりますから、なかなかスペースXみたいな画期的なイノベーションは生まれてこないでしょう。

では、日本の中小企業はどの様に戦うべきなのか?

ただし、米国というのは考えてみれば特殊な国で、例えばホームセンターにいけば銃を売っている様な国で、免許証を掲示すれば誰でも銃が買えてしまう国です。しかも銃の乱射事件が起きても、ロビー団体の力が強いために銃が規制されることもありません。

圧倒的な物量と、世界機軸通貨であるドルの圧倒的な資金力で開発をしかけてくる米国に対して、日本は日本なりの対処の仕方を考えるべきだと私は思いますが、そうした「敵情視察」という観点からも前述のイーロン・マスク伝記上下巻は一読に値すると思います。

また前述の船井総合研究所「時流戦略セミナー2024」でも、先に述べた様な敵情視察と同時に、具体的に日本の中小企業が今すぐ取り組むべき具体的な施策も提言させていただきます。

ぜひ「時流戦略セミナー2024」へのご参加もご検討いただけばと思います。

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