中小製造業を取り巻く景気の実態:好調だったはずの業界も、一転厳しく
前回の本コラムでは、日経新聞が報道する様な大企業主体の景況感と、中小企業の実際が異なることをお伝えしました。実際、製造業の現場にでてみると、とてもではありませんが景気が良いといえる様な状態ではありません。
例えば精密板金加工業(板金加工業)の場合です。
ほんの半年くらい前まで、板金加工業はどこも大忙しでした。板金加工業は多品種少量生産が前提で、手作業も比較的多いこともあって、自動車部品ダイレクトの仕事はあまりなく、どちらかというと様々な産業機械や空調機器、工作機械、半導体製造装置、各種設備といった、幅広い産業から裾野広くとってくる様な業態です。
円安ということもあって、こうした輸出産業は全般的に好調であり、「部品不足」で生産が止まるという経験をしてきた各社は、様々な部品を多めに発注するスタイルが身についておいてり、そうしたことも前述の様な活況につながっていた可能性があります。
ところが現在は、あらゆる部品において中間在庫がだぶついている状態です。
また米国のインフレ進行に伴うより一層の金利引き締め、中国の不動産バブル崩壊にともなう金融危機への懸念等から、世界レベルで先行き不透明になっていることも、それに輪をかけています。
かつ半導体需要を牽引していたスマートフォンやパソコンの出荷が、コロナバブルの反動により頭打ちになっていることもあり、同分野向けの半導体はかつてない期間にわたり不振が続いています。
先日、経営相談に対応した板金加工業(従業員約100名)の場合、半導体製造プロセスのうち上工程も下工程も両方の半導体製造装置メーカーから仕事をとっていたそうですが、半導体関連の顧客からの受注は昨年対比で約半分に落ち込んでいるそうです。半導体業界が山谷あることを見越して、食品業界や医療業界からも仕事を取っていたため、全社での受注は2割減ほどでおさまっているとのことですが、売上が2割減ると営業段階では赤字になってしまうでしょう。
また同様に、半導体製造装置・電子部品製造装置向けに精密機械加工を手掛けている機械加工業の場合も、かつてないほどの期間、受注不振が続いているとのことでした。
かたやプレス加工を手掛ける某社の場合、偶然売れている車種の仕事をしているため好調で、その他の顧客も比較的好調であるため、前年対比微増で推移しているといわれていました。
ただし自動車は量産の仕事は車種によって悪くないものの、開発案件の仕事は激減しているため金型関連の仕事も大きく減少しています。
いずれにせよ、中小企業製造業を取り巻く状況は“まだら景気”であるとはいえ、総じて厳しい環境の会社が多いことは間違いないと思います。
不況期に行うべき、経営の2つの鉄則とは?
では経営者として、現在の様な不況期に行うべきことは何なのでしょうか?
それは間違いなく、次の2つです。
行うべきこと1:新規開拓
行うべきこと2:社内改革
まず不況期に行うべきことの1つ目は、迷うことなく新規開拓です。
なぜか?景気が良い時はお客も忙しいので、こちらの提案を聞いてくれる時間がありません。ところが景気が悪くなるとお客もヒマになるので、こちらの提案を聞いてくれる時間があります。
これを忠実に実行して、不況をバネに大きくシェアを伸ばしたのが、世界的な超硬工具メーカーであるサンドビックです。
日本国内の超硬工具市場は長らく、1位が三菱マテルアル、2位が住友電工ハードメタル、3位がタンガロイ、そして4位がサンドビックという状態が続いていました。国内メーカーの牙城は固く、様々な施策をうっても中々サンドビックのシェアは向上しませんでした。
こうしたサンドビックが飛躍したきっかけは、実はリーマン・ショックでした。
リーマン・ショックという過去に例が無い不況の中、同業他社が「営業は経費がかかる」と営業を縮小する中、サンドビックだけは「サンドビック・ツール・クリニック:STC」という施策をうって、キャラバンカーが客先を回る新規開拓を実行しました。このSTCとは、無料でツーリングの状態を診断し、正しいツーリングの使い方やメンテナンスを提供する、というプログラムでした。
またリーマン・ショックとはいえ、全てのユーザーが不調ということはあり得ません。中には忙しいユーザーもいます。こうしたユーザーに対しては、かねてから実行していたPIP(生産性向上プログラム)を提供して、新規開拓に励みました。
その結果、サンドビックは悲願だった国内シェア3位の座を奪うことができ、現在に至っています。
ちなみにサンドビックの創業は1862年と、何と160年を超える老舗企業でもあります。これだけの期間、優良企業として存続してきた企業の遺伝子が、「不況はチャンス」と周到な準備で不況対策を行ってきた成果であると捉えることができると思います。
業界は全く異なりますが、世界的なホテルチェーンとして知られるヒルトンホテルグループも、大不況をきっかけに業容を大きく伸ばした会社です。ヒルトンホテルグループのコンラッド・ヒルトンは、1927年の米国大恐慌で、自ら経営していたホテルを倒産させてしまい、そのホテルは銀行に担保としてとられてしまいます。
最初はコンラッド・ヒルトンを経営から追い出した銀行でしたが、銀行そのものにホテルの経営ノウハウはありません。そこでホテルのオペレーションのみをコンラッド・ヒルトンに任せたところ、そのホテルは再度軌道にのったといいます。
ここでヒルトンは気づきます。大恐慌になった結果、企業の出張はもちろん、旅行客も激減して大半のホテルが倒産してしまっている。ところが借金のかたにホテルを担保にした銀行も、そのホテルの経営を行うことができずに困っている。どんな大不況も永遠に続くということはありえず、必ず景気は元に戻りそうすると企業の出張や旅行客も元に戻る、と。
そこでヒルトンはスポンサーを募り、自身のホテル経営ノウハウを武器に、全米はもちろん世界中のホテル資産を二束三文で手に入れることに成功します。
これが現在のヒルトンホテルグループの礎です。まさに「ピンチはチャンス」を体現した人物であるといえます。
不況期になると社内改革の反対派が少なくなるという事実
そして不況期に行うべき2つ目は、社内改革です。
なぜなら仕事が薄くなると、社内改革の反対派が少なくなるからです。
例えばですが、営業ノウハウが属人化してしまっているから、SFA(営業管理システム)を導入して、営業プロセスの見える化や、最適化を実現する改革を行おうとします。
もし好況期であれば、例えば営業部長が「そんなヒマはありません」「今は目先の仕事をこなすのがやっとです」「もっといえば、そんなことしなくても業績いいじゃないですか」と、なってしまいます。
しかし景気が厳しくなって、前年の数字を割る様な状態が続けば、例えば前述の様な営業部長さんも、何らかの社内改革を進めることに否定はできなくなるでしょう。
同様のことが製造現場にもいえます。例えばスキルマップを整備するべき、あるいは原価管理を進めるべき、と社長は思っていても、仕事が忙しければ工場長や製造部長から「そんなヒマはありません」「納期に間に合わせるのに精いっぱいです」と、なってしまうことでしょう。
しかし受注が厳しくなって、工場や製造現場の仕事量が減れば、何らかの改革を行うことに対して反対するのは難しくなるでしょう。もっといえば、景気が良い時には既存顧客の仕事をこなすことで頭がいっぱいだったかもしれませんが、景気が厳しくなったことで新規顧客の仕事をこなす必要性に気が付くケースも多々あるでしょう。
ちなみに私の関係先の某プレス加工業の場合、リーマン・ショック前は営業利益率が2~3%そこそこでしたが、現在は営業利益率がかるく15%を超えています。
その理由は仕事内容が大きく変わったからです。
同社の場合、リーマン・ショック前は主に家電の仕事をしていました。
リーマン・ショック後は、某ティア1経由での車載の仕事に転換しました。このティア1企業からのこなしきれない開発営業の仕事に対応していく中で、利益率の高い仕事が増えたのです。
さらに自動化投資を行った結果、従業員をほぼ増やさずに売上が約2倍ほどに増えています。
同社にとっても「ピンチがチャンス」になったわけです。
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繰り返しになりますが、今、経営者として行うべき不況対策は次の2つです。
行うべきこと1:新規開拓
行うべきこと2:社内改革
ただし、ご注意いただきたいのは、ここでいう「新規開拓」というのは、いわゆる“飛び込み訪問”や、“こちらから頼み込んで転注の仕事をもらう”という、主導権の取れない、より利益率を悪化させる取り組みではありません。前回のコラムでも述べましたが、こちらの主導権の取れない「PUSH型営業」ではなく、こちらが主導権の取れる「PULL型営業」を、川上部門である設計・開発や、生産技術に対して働きかけていく、ということなのです。
この、不況期に行うべき「PULL型営業」を前提とした新規開拓の進め方を体系的にわかりやすく説明させていただく場が、下記の3セミナーです。
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