2023年の地政学的リスク:中国・台湾問題への考察
新年あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、昨年の年末12月23日(金)、船井総合研究所ものづくり経営研究会では年末総会の特別ゲスト講師として、元防衛省情報分析官 上田篤盛(うえだ・あつもり)氏をお招きし、「プロが教える、現在の時流と未来予測の技術 ~元防衛省情報分析官からみた、経営者が押さえておくべき2023年の時流と対策~」について当別講演をしていただきました。
その気になる内容の概略は下記の通りです。
<防衛のプロ、上田篤盛氏が見た、中国が台湾に侵攻する可能性>
・そもそも“攻める”という行為そのものが軍事的に難しい。例えばウクライナ戦争の例をみても、大国ロシアが苦戦している要因として、いかに大軍であったとしても一本道に誘い込まれると一列で対応せざるをえず、そこを狙い撃ちにされると少人数の部隊に大軍がやられてしまうこともある。
・それが、さらに海をはさんだ揚陸戦となると、なおのこと難しい。現在の中国軍に最も不足しているのが揚陸能力であり、現在の艦船装備だとピストン輸送をせざるを得ない。さらに上陸作戦が始まってしまうと上陸する側はミサイル攻撃等ができない。上陸した味方と同士討ちになりかねないからである。
・台湾の東側にはシェルターが装備されており、戦闘機や軍事車両を格納・防護する環境が整っている。中国が上陸前に猛攻撃を浴びせたとしても、シェルターに格納された装備はほぼ無傷であることが想定される。中国軍が上陸後、こうした戦闘機や軍事車両が無傷で現れ、前述の理由で味方の支援が得られない中国軍はロシア以上に大敗を期すリスクが高い。
・軍事専門家の分析によると、中国が台湾を確実に侵攻できるだけの揚陸能力を確保できるのは2035年といわれている。また習近平氏の4期目のタイミングとなる2026年は危険といわれている。
・結論からいうと、中国がすぐに台湾を攻めるだけの力は無い。
・ただし「自然災害」「大恐慌」「その他」の理由で中国国民の不満が高まった時は、合理的な判断がくだされない可能性が有る。つまり国内の不満を外に向けるために台湾侵攻も1つの選択肢になる。一見すると強権に見える中国共産党ではあるが、実は過去において一度も選挙を実施したことがなく、実は国民の目をかなり気にしている。従って世論が形成されると、それに流される可能性がある。
つまり合理的に考えると「想定外」ではあるけども、その「想定外」が起きる可能性も0ではない、ということです。こうした社会情勢のことを有名なキーワードではありますがVUCA(ブーカ)といいます。
あらためてVUCAとは、
・Volatility(ボラティリティ:変動性)
・Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性)
・Complexity(コムプレクシティ:複雑性)
・Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧性)
の頭文字を取ったものです。
VUCAの典型的な例が1989年のベルリンの壁崩壊である、といわれています。
ベルリンの壁崩壊は東西冷戦を終わらせた歴史的事件ですが、実は偶然や不可抗力の積み重ねによっておきた事件です。事件のきっかけは当時の東ドイツ共産党の報道官が「これから自由に海外旅行をすることができる」という発言をしたことがきっかけだそうです。
当時、共産主義政権そのものが行き詰まりをみせ、誰の目からも西側の資本主義の方が豊かな世界であることはうすうす皆わかっていました。こうした時勢の中、当時の東ドイツでは学生を中心としたデモが頻発していたそうです。デモの要求の1つが「自由な海外旅行」だったわけです。
この東ドイツ共産党の報道官が発言した「これから自由に海外旅行をすることができる」というのは実は誤りで、正しくは「ビザを申請して取得できれば」という前提があったのですが、そのことをすっかり言い忘れてしまった、といいます。
この話を聞いた学生や若者の大群がベルリンの壁に押し寄せ、「ゲートを開けろ!」とシュプレヒコールを繰り返しました。その熱気におされ、そのゲートを守備していた現地指揮官の判断でゲートが開かれ、その結果がベルリンの壁崩壊につながったわけです。
つまり、
・時勢
・報道官の失言
・デモ隊の熱気
・現地指揮官の独断
こうした様々な要素が重なってのベルリンの壁崩壊なわけです。まさにVUCAの典型例といえます。
今、大企業がDXよりも熱心に取り組んでいることとは?
この様に「VUCA:先行き不透明」という現在の時勢を反映して、今、大企業がDXの次に総がかりで取組んでいるのが以前にもお伝えした「SX」です。
SXとは“サスティナビリティ―・トランスフォーメーション”の略語であり、「企業が種々の活動を抜本的に見直し、社会と企業の持続可能性を担保するための”サスティナビリティ経営”の実現に向け、大転換を図る」取組みのことです。
「何だ、大企業の話か」
「中小企業の当社には関係ない」
と、考えるべきではありません。なぜなら大企業がこれから進めるSXは、必ず我々中小企業にも波及してくるからです。もっというと我々の主な顧客は大企業です。従って我々の顧客である大企業が、今、どんなことを考えていて、何の優先度が高いのか、ということをしっかり押さえておく必要があります。
この様に今、大企業がSXを進めている要因は次の2つです。
1)VUCAな時代への対応
2)ESGへの対応
VUCAについては先ほど述べた通りです。
例えば中国のゼロコロナ政策によるロックダウンにより、製造業のサプライチェーンは今も混乱に陥ったままです。モーター関連の部品など一部の部品はいまだに「納期不明」で回答がでてきます。以前であれば即納であった部品の納期がわからず、特にセットメーカーでは仕入コストの増大につながっています。
こうした現象もまさにVUCAです。
さらにESGです。ESGとは、
E:エンバーロメント 環境
S:ソサエティー 社会
G:ガバナンス 企業統治
の略語ですが、特にSXで重視されているのが次の7項目です。
<4つの環境課題>
1)Co2、気候変動
2)水
3)資源・廃棄物
4)生物多様性
<3つの社会課題>
5)身体的人権:強制労働、児童労働の撲滅
6)精神的人権:ハラスメントの撲滅
7)社会的人権:貧困の撲滅とアクセス権の確保
これが経営とどう関わってくるのか、私の実体験からお話したいと思います。
2017年10月に開催されたグレートカンパニー視察セミナーで、100名もの経営者の皆様とニューヨーク市内を視察していた時の話です。
突然、ニューヨークの市内でデモ隊が行進を始め、車道を人が埋め尽くしてしまったために、チャーターしていたバスがコースを変えざるを得なくなったのです。予定していた場所にバスが来ることができず、急遽ピックアップの場所を遠くに変更することになり、そこまで徒歩で移動することになりました。
何のデモなのか最初はわからなかったのですが、プラカードや彼らが言っていることを聞くと「アマゾンの生態系を守れ!」といった内容の訴えをしていることはわかりました。
後からガイドに、「何のデモだったのか?」と聞いたところ、「アマゾンで乱開発を行っている企業に対して融資した金融機関に対してのデモだ」とのことでした。
当時は日本でも、まだESGが本格的に取り上げらえる前の話でした。
我々の感覚からすると、「アマゾンの乱開発を行っている企業へのデモならわかるが、そこに投資する金融機関に対してなぜデモを行うのか?」という感じでした。しかも車道に人があふれ、バスが通行できない様な大規模なデモです。そのあたりの関連性が当時は希薄でしたが、今となっては明確にわかります。
要はESG(その中の前述 4)生物多様性)を守らない企業はもちろんのこと、ESGを守らない企業に対して投資や融資をすること自体が“NG”というのが現在の時流なのです。
それが日本で認識されたのは最近ですが、欧米では既に5年ほど前から無視できないレベルで重視されていた、ということなのです。
ちなみに、ESGに関して言えば現在は限りなく法的に守らなければならない要件であり、いわば「ロー(=法律)」です。欧米では、この「ロー」に至る前段階として、NPO等が問題提起をして前述の様なデモ等を行い、世論を形成していきます。この段階を「ソフト・ロー」というそうです。
そして「ソフト・ロー」は徐々に影響を強め、最後は国際的な「ロー」になります。こうした“世論形成から国際法に至るメカニズム”を理解しておくと、時流を認識する上で武器になると思います。
話を戻すとこの様に、自社が環境に配慮していたとしても、仮に環境に配慮していない様な企業に融資や投資をしていただけでもNG、ということなのです。
特に国際社会で論点となっているのが、上記 1)Co2、気候変動 です。
例えば電力会社の場合、石炭火力で発電している、ということだけで投資や融資が受けられなくなります。製鉄会社も従来のコークスを使う製造方法は今後NGになる可能性が高いといえます。水素を活用した製鉄や、発生したCo2そのものを埋設するなどする技術が求められる様になります。仮に従来通りのつくり方を続けているとすれば、前述の様に金融機関からの融資すら受けられなくなる可能性もあるわけです。
EVシフトも同様です。実際にはEV(特にバッテリー)を製造するプロセスで実はガソリン車以上のCo2が発生している、あるいはライフサイクル全体でみるとEVはガソリン車以上に環境負荷がかかっている、という主張もありますが、EUを中心に世界全体がESGという枠組みの中でEVシフトを決めている、という現実を直視する必要があると思います。
SXに話を戻しますが、とにかく大企業が今、何よりも注力していることがこのSXなのです。
大企業がSXを進める中で、前述のCo2対策として、自社のサプライチェーンにおける炭素排出量の“見える化”といったことも今後はニーズになってきます。その時に、取引先である中小企業に対しても自社と同様に炭素排出量についての“見える化”を求めてくることも想定されます。
優良顧客である大企業から「選ばれる」サプライヤーを目指すためには、こうしたSXに関連する大企業からのニーズに対して、積極的に対応していくスタンスが中小企業にも求められると思います。
あともう一つ、注意しておかなければならないことは、このSXというのは当然のことながら“DXが既にできている”ということが前提だということです。
例えばDXができていない状態で、サプライチェーンにおける炭素排出量をモニタリングする、といったことは到底できないと思います。あるいはDXを行った結果、本業がそこそこ儲かっている状態で、ある程度の余力がないとSXには取組めないはずです。
今後、中小企業だけでなく大企業においても、こうした意味での「さらなる二極化」が進展する可能性があります
中小企業が行うべきSXとは?
この様に、大企業はみな、VUCAあるいはESGに対処するため「SX(サスティナビリティー・トランスフォーメーション)」に取組んでいます。
“自社を維持・継続させる取組み”という観点で、SXは大企業だけでなく、当然のことながら中小企業も取組む必要があります。
ただし中小企業の場合、このSXは“サバイバル・トランスフォーメーション”と言えるかもしれません。
なぜなら中小企業の場合は前述のVUCAやESGはもちろんですが、それ以外にも、
・販路のリスク(=特定顧客・特定業界依存からの脱却)
・事業承継のリスク(=身内なのか、社員なのか、M&Aなのか)
が加わります。
特に中小企業の場合は「既存顧客中心」のビジネスモデルとなっており、自らの手で「有効な新規開拓」が行えない、という弱点を抱えているケースが多いといえます。
言い換えれば、大企業と中小企業の大きな差は、「販路に困っているか、いないか」に集約されるといっても過言ではないと思います。
ここで、中小企業が現在の営業スタイルに加えるべき要素は「PULL型営業」ということです。
通常の会社は「PUSH型営業」のみを行っています。PUSHというのは文字通り“押す”という意味で、目の前のお客様に対してアプローチする、あるいは新規開拓でいえば昔ながらの飛び込み訪問等がPUSH型営業にあたります。
これに対してPULLというのは“引く”という意味で、こちらからアプローチするだけではなく、新規も含むお客様の方からこちらに問合せを発生させる仕組みを持つ営業スタイルです。
「PULL型営業」における中心となるツールは、ソリューションサイトと呼ばれる集客用Webサイトのことです。
従来の「PUSH型営業」というのは当然大事なことではありますが、この従来の「PUSH型営業」に先ほど述べた「PULL型営業」の要素を付加することにより、従来では考えられなかった様な大きな成果に結びつけることができる様になります。
例えば下記の経営セミナーでご紹介する機械加工業 カネコ様 の場合、従来は新規問合せがほぼ0件だったのに対して、現在では毎月20~30件の新規引合いを獲得することができる様になり、その中からは月次数百万円クラスのリピート受注につながっている案件もあります。
また同じく、下記の経営セミナーでご紹介するセットメーカー(装置業) メイワ様 の場合、PULL型営業を中心とした営業DXに取組むこと1.5年で、新規商談5億円を創出、1億円の新規受注につなげることに成功しています。
今年はあらゆるメディア、媒体がリセッション(=景気後退)を予測しています。
船井総合研究所では、前述の中小企業向けのSXを強く意識して、下記の様な具体的かつ実践的な成功事例に基づいた経営セミナーを企画しています。
また「不況対策」と後ろ向きに捉えるだけではなく、前述の大企業のSXに伴う、新しいサプライヤー探しというチャンスに対応する為にも、前述の「PULL型営業(=営業DX)」を現業に付加していただくのが良いのではないかと思います。
セミナーの詳細は下記URLをご覧ください。
<部品加工業向け経営セミナーのお知らせ>
機械加工業向け(2023年1月19日 木曜日 or 1月27日 金曜日 オンラインで開催)
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セットメーカー・装置業向け(2023年2月16日 木曜日 or 3月3日 金曜日 オンラインで開催)
↓↓↓ 本セミナーの詳細・お申込みはこちらから!
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