優良銀行と評されたファーストリパブリックバンクが破綻した理由
この5月に入り、アメリカのファーストリパブリックバンクが破綻しました。
・今年3月 シルバーゲート銀行破綻(事業閉鎖)
・同 3月 シリコンバレーバンク破綻
・同 3月 シグネチャー・バンク破綻
に続き、4行目の破綻ですから、普通に考えるとこれはただことではありません。
また、このファーストリパブリックバンクは、日本ではほとんど報道されていない様ですが、コロナ前までは地銀の中でもモデル銀行と評されていた銀行です。
コロナ前の2019年の段階で、4年間で時価総額が2倍、さらに預金残高と貸し出し高も5年間で2倍と、急成長を遂げていることで知られる銀行でした。そのビジネスモデルは富裕層を対象とするもので、サンフランシスコのベイエリア、ニューヨーク、ロサンゼルス、ボストンの富裕層が住むエリアを中心に拠点を展開してきました。その結果、ローンの質が高く、全米平均と比較しても不良債権比率の低い優良銀行として知られ、リーマン・ショックの際もほとんど損失を出さなかったことで知られている銀行です。
では、なぜそんな優良銀行が破綻するに至ったのか?
ひとことでいうと、金利高と、それによる信用不安からの預金流出です。
私があらためていうまでもありませんが、金利が上がると国債など、債権の価値は低下します。ゼロ金利、あるいはマイナス金利の中では運用益がでていた債権も、金利上昇局面になると含み損を抱える結果になります。
現在、日本の政策金利が約△0.1~0.5%なのに対して、アメリカの政策金利は約5%前後。
金利の上昇により、保有している債権の含み損がふくらんでいる、という情報がSNS上で拡散され、預金保護の上限を上回る額の預金をしている大口預金者が、噂の立った地銀から一斉に預金を引き揚げる、という一種の「取り付け騒ぎ」が、これら一連のアメリカの地銀の破綻の背景です。
なお、アメリカの中央銀行にあたるFRBは、多少の痛手を被ったとしても、インフレ対策を優先するために金利を上げているというのが見解です。
ちなみに、日本には約200の銀行があるのに対して、アメリカには5000以上もの銀行があるといわれています。今回破綻したファーストリパブリックバンクも、実は新興銀行であり、2019年の時点で創業者が代表を務めていました。
アメリカの人口は日本の約3倍ですが、そう考えても見方によってはアメリカの銀行は数が多すぎる様にもみえます。仮にアメリカ当局が、こうした数の増えすぎた銀行を再編する、という意図も含めてあえて金利を上げているのだとすると、FRBの施策も理解できるともいえます。
これも一種の「グレート・リセット」なのかもしれません。
日本製のEVが、アメリカで売れない理由
こうした流れの中で、アメリカの歴代大統領の施策を並べてみると、あらためて文脈の様なものが見えてくることがわかります。
<2001年~2009年>
ブッシュ大統領(共和党)
・・・テーマ:石油ビジネス
起きたこと:アフガニスタン戦争、イラク戦争
<2009年~2017年>
オバマ大統領(民主党)
・・・テーマ:福祉・グリーンニューディール
起きたこと:オバマケア、原子力発電推進(当初)
<2017年~2021年>
トランプ大統領(共和党)
・・・テーマ:アメリカ・ファースト(ビジネス)・反脱炭素
起きたこと:不法移民への取り締まり強化、北朝鮮との和解、中国への経済圧力
<2021年~>
バイデン大統領(民主党)
・・・テーマ:脱炭素・戦争
起きていること:ウクライナ戦争、EVシフト
トランプ大統領は2020年の大統領選挙で、バイデン候補に敗れました。
2020年はコロナ禍であったこともあり、郵送での投票が認められた選挙でした。そしてトランプ大統領とバイデン候補の投票結果は史上稀にみる僅差であり、もしコロナ禍の中の郵便投票がなければ、トランプ大統領が2期目も大統領であった可能性も高いといわれています。
過激な言動で知られるトランプ氏ですが、彼は基本的にビジネスマン(=不動産業界出身)ということもあり、戦争を嫌います。大統領の時に北朝鮮との和解交渉を行ったことも、そうしたことが背景といわれています。
アメリカのビジネス、という観点で「不法移民への取り締まり強化(=メキシコ国境の壁建設)」「中国への経済的圧力」さらに「ESG反対(=脱炭素反対)」という立場を取っていましたが、文脈をみていると現在のバイデン大統領は、その逆です。
具体的に、先日アメリカで施行された「インフレ抑制法」の結果、日産リーフに代表される日本製のEVをはじめ、韓国製・欧州製のEVも、米国でのEV補助金の対象から外れることが決まりました。
EVは、まだまだ価格が高いため、アメリカ政府当局はEVを購入する消費者に対して100万円前後もの補助金を交付しています。ただし、前述の「インフレ抑制法」により、この補助金の対象となるEVは「米国あるいは米国が指定するエリアで製造された電池材料による電池を搭載していること」が条件です。
おのずと、その条件を満たせない日本製・韓国製・欧州製のEVは、アメリカで補助金の対象にならない、ということです。
EVに対して一種の非関税障壁をひき、ブロック経済化しているのはアメリカだけではありません。
ヨーロッパも同様に「欧州電池同盟」をつくり、EU圏内で製造されたバッテリーのみをリサイクル対象として、EU圏外で製造されたバッテリーは、事実上EUに持ち込めない規制をしいています。
ガソリン車時代(内燃機関時代)において、特にアメリカでは日本の低燃費小型車に多くの市場を奪われました。その結果、ビッグ3のうちGMが倒産、クライスラーも事実上消滅し、製造業で多くの雇用が失われました。
やはり国内経済を安定させる上でも製造業の雇用は重要であり、ガソリン車にせよEVにせよ、自動車産業は製造業の本丸中の本丸です。
その本丸を何としても守る、というアメリカの意思決定の結果が前述の「インフレ抑制法」であり、EUの「欧州電池同盟」なのです。
海外のメーカーを受け付けないブロック経済化、これがこれからの流れ(文脈)だと捉えるべきだと思います。
なぜ欧州製のEVやテスラは、儲かるのか?
こうした中、この2023年1~3月期において、欧州自動車大手ではEV事業が収益貢献しています。
ドイツのBMW、さらにメルセデス・ベンツグループでは、同時期のEV販売が前年同期比で約2倍となり、売上高も2割ほど伸ばしています。
これに対して、日本のメーカーは「EVは売れば売るほど赤字」という状態です。自動車の原価に占めるバッテリーの割合が高く、コストダウンがなかなかできないからです。
逆に前述の欧州自動車大手では、EVは利益率が高い、といわれています。
なぜ、そうなるのか?
それは、前述のBMWもメルセデスベンツも、「高級車」としてのブランド力が確立されており、同じ出力の自動車であったとしても「高い単価」で売ることができるからです。
これは同様に、高級車訴求を行っているテスラも同様です。
これに対して、レクサスを除く日本のメーカー(ブランド)は、こうした「高級車」訴求が行えていません。なぜなら従来は「コンパクトカー」訴求を行ってきたからです。
従って欧州製EVやテスラの様な高額な価格設定が難しいため、EVの利益率が改善しにくいのです。
こうした文脈でみていくと、
・EVシフトを機に、日本や韓国に奪われていた自動車マーケットを取り返せる
・もともと高級車訴求で、単価の高い自動車がメインなのでEVシフトのダメージを被りにくい
というアメリカ、あるいは欧州の関係者にとって、EVシフトの方がはるかにメリットは大きい様に私にはみえます。
そうした中で、「ドイツがCO2を排出しない合成燃料で走る内燃機関車を、2035年以降も販売することを認める」と発表しました。この発表を受けて、
-やはりEVシフトは難しいのか
-内燃機関の車も、これから生き残る
という声も上がりましたが、私はこの発表をきいて、逆にEVシフトがさらに進むと思いました。
なぜなら、このCO2を排出しない合成燃料というのは、現時点でガソリンの約10倍もの費用がかかるからです。さらに、この合成燃料が量産ベースにのったとしても、ガソリンの2倍前後の費用がかかるといわれています。つまりEVよりもランニングコストがかかるため、普通の普及がほぼ見込めないのです。
余談ですが、CDはもちろん、ストリーミング再生が全盛の現在でも、レコード針というのは一定の需要があるそうです。それは一部のマニアが、クラシック音楽はレコードで聴いた方が音は良い、ということでレコード針を買い続けているのです。
今後、内燃機関というのは、このレコード針と同様に、「一部のマニアが趣味で乗る自動車」になる可能性が高いと感じるのは、私だけでしょうか。
求められる「非自動車(内燃機関)マーケット」の開拓
こうした一連の流れをみていると、従来の内燃機関を主体とした自動車産業に依存するのは、リスク以外の何物でもありません。
とはいえ、日本の自動車産業の中でEVの生産比率は、まだ数%にすぎず、いまだ「産業」といえるレベルにはなっていません。
さらに事実上、肌感覚としては製造業のマーケットの半分くらいが「従来型自動産業」に関連している市場だといえます。自動車というのは理想的な製品です。なぜなら単価が高く、また車検があるため数年に1度は必ず買い替え需要が発生します。さらに人の安全が関わるため、コストよりも安全重視です。
そして自動車ほどの市場規模を誇る産業が他に見当たらないが故に、いわゆる「脱自動車」あるいは「非自動車(内燃機関)マーケットの開拓」というのは、口でいうほど簡単ではないのです。
しかし、それを行わなければ、未来に向けて生き残ることができないことも事実です。
例えば工作機械業界。
かねてから自動車業界向けに専用機的なマシニングセンタを供給する多くのメーカーが、赤字あるいは儲かっていません。なぜなら内燃機関向けの設備投資が極めて停滞しているからです。
そうした中、同じマシニングセンタを製造し、自動車業界に対しても専用機的なラインを提供している牧野フライス製作所は、EVシフトの中でも堅調な需要を誇っています。
なぜなら、同業他社が内燃機関向けのアプリケーションにとどまっているのに対して、牧野フライス製作所では今後明らかに需要が伸びるであろう、モーターの加工アプリケーションを有しているからです。
モーターの関連加工の特性として、例えばケーシングという部品がありますが、アルミ製で筒状、奥行きがあることから切子の排出性が悪く、自動運転に向きません。
その点、牧野フライス製作所のマシニングセンタであれば、ワークを保持するチルドテーブルが回転し、ワークの切子を排出すると同時に高圧クーラントで切子を完全に除去するため、自動運転が可能になります。
こうしたアプリケーションを有する牧野フライス製作所が好調なのに対して、外観は似た様なマシニングセンタを製造する同業他社が不調な理由は、ひとえに「非自動車(内燃機関)マーケットの開拓」への意志を持ち、取り組んだかどうか、ということに尽きると思います。
特に製造業の特性として、決まった顧客から決まった仕事を請けてこなすことが、最も生産性の上がる仕事の進め方であるといえます。
それに対して、前述の「非自動車(内燃機関)マーケット」からの仕事は、自動車業界と比較してロットもまとまらず、一見すると効率の悪い仕事にみえます。しかし、逆の言い方をすれば、いわゆる“研究開発”と同様に、「非自動車(内燃機関)マーケット」の開拓は時間がかかり、また、そこで利益を上げようとすると一定のノウハウが必要なのです。
つまり、ある一定の時間がかかる。だからこそ、早く取り組む必要があるのです。
もう1社、事例を挙げると、ドイツの100年企業であるボッシュ。ボッシュは非上場会社であり、日本でいうデンソーと同様の自動車部品メーカーとして知られます。
しかしボッシュが展開する事業は自動車部品だけではありません。
例えば日本でも有名なのが、ボッシュの電動ドリルや電動ドライバーに代表される「電動工具」事業です。この事業の対象領域は“建設マーケット”であり、日本の市場においても一定以上のシェアを有しています。
さらにボッシュが展開する事業で有名なのが、アルミフレームによるFA事業です。いわゆる専用機で多用されるアルミフレームも、ボッシュが提供しています。
またあまり知られていませんが、ボッシュは医療用の包装機械や、食品用の包装機械に加え、医薬品の錠剤を製造する装置も手掛けています。いわゆる「三品産業(=食品・医薬品・化粧品)」と呼ばれる業界です。
こうした、特定市場に依存しない分散戦略は、一見すると効率が悪い様にもみえます。
しかし企業を存続させていく上では必須の戦略であり、そうしたこともあって同社は非上場のオーナー経営を貫いているのかもしれません。
では、受託型製造業(部品加工業)の場合は、どの様にこの「非自動車(内燃機関)マーケット」を攻略していけば良いのでしょうか?
次回の本コラムで、さらに詳しく述べていきたいと思います。
~次回に続く~
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