2022年の重要テーマ:これからサプライチェーンの再編が本格的に始まる!
(前回のコラムはこちら)
では具体的に中小製造業、具体的に部品加工業あるいはセットメーカー、さらに生産財商社として2022年は何に取組むべきなのでしょうか。
まず、2022年はサプライチェーンの再編が本格的に始まる年になる、ということです。
具体的に、製造業のマーケットでその大半を占めているマーケットは自動車産業です。
市場規模も大きく、全世界の自動車産業の市場規模は約300兆円といわれています。恐らく製造業のマーケット全体の50%くらいは自動車産業が関わっていると思いますし、また、工作機械ユーザーの約半分は自動車産業がらみです。さらに概算、その半分くらいが内燃機関がらみの仕事をやっているケースが多いといえます。
<現状の自動車産業>
・市場規模(全世界)・・・約300兆円
・工作機械ユーザーの約50%が自動車産業がらみ
・さらにそのうち半分が内燃機関がらみ
そうした中で全世界のEVシフトが進んでいます。
かつて大排気量のアメリカ車をつくってきたGMやクライスラーでさえ「EVしかつくらない」と言い始めています。EVシフトは脱炭素と同様に、止められない世界の時流になっています。
では自動車の主流がEVになり、工作機械需要の約25%を占める内燃機関の需要が無くなった分、生産財市場のマーケットが減るかというとそうではありません。
実態は逆です。なぜならEVが主流になると自動車産業そのものの市場規模が増えるからです。
今後、EVが普及していくと2030年までに自動車産業の市場規模は810兆円までふくらんでいくと予想されています(米国ブルームバーグNEFによる)。
<2030年の自動車産業>
- 市場規模は現在の約3倍の810兆円
- 内燃機関の仕事は無くなるが、それ以外の仕事が相対的に増える
- 市場が縮小するのではなく拡大する、ただしプレーヤーが入れ替わる
さらに、自動車マーケットは次の様な3つの利点があります。
1)単価が高い
2)必需品である
3)消耗品なので定期的に買い替えがおこなわれる(リピートする)
上記1)の「単価が高い」というのは重要なことです。
例えば私の関係先のプレス加工会社(従業員40名)は、10年前は営業利益率3%くらいでしたが、現在は営業利益率が20%近くになっています。自己資本比率も5%くらいだったのが現在では40%を超えています。
その理由は、この10年間で「付き合うお客の業種」が変わったからです。
10年前、同社のメイン顧客は某家電メーカーでした。家電は平均単価5~10万円くらい、高くても30万円ほどではないでしょうか。
ところが現在、同社のメイン顧客は自動車産業のティア1。自動車だと平均単価は安くても100万円くらい。普通は200~300万円くらいはします。
プレス加工会社は部品をつくっている以上、最終製品の単価で部品の単価も決まります。
つまり家電であれば、家電の価格よりも高い部品というのはないわけです。10万円の家電であれば、その中に入る部品はどんなに高くても1万円を超えることはないでしょう。
しかし最終製品が自動車であれば単価は100万円を超えます。ということは1万円を超える部品というのも当然たくさんあるわけで、何がいいたいのかというと組み込まれる相手の製品の平均単価によって、事業の収益性が大きく変わってくる、ということです。
しかも「移動」をつかさどる自動車は必需品であり、一家に1台はほぼ必ずあります。地方にいけば一人に1台という例も珍しくはありません。必需品なので広く売れる。
しかも内燃機関にせよ、EVにせよ、回転体で駆動させる以上は必ず消耗して定期的に買い替えを行う必要があります。つまりリピート性も高い。
そう考えるといかに「自動車産業が魅力的な産業」であるかが、よくわかります。
今年早々にソニーがEVへの参入を発表したことも、こうしたことが背景です。
ソニーだけではありません。スマートフォンのメーカーであるアップル、ECを手掛けるアマゾン、検索エンジンNo1のグーグル。さらに中国のシャオミやアリババ、ファーフェイなど、全世界の「ビッグテック」と呼ばれるIT企業がEVへの参入を発表、あるいは具体的に検討しています。
これが前述の、自動車産業が3倍近くに膨れ上がる要因です。
つまり製造業マーケットは、「市場が縮小」するのではなく、逆に「市場が拡大」する。ただしプレーヤーが入れ替わる可能性が高いので、特に中小企業はアンテナを高くして情報を集める必要がある、ということです。
具体的に、内燃機関からEVにシフトすると「エンジン」をつくれなくても完成車メーカーになれます。従来は「エンジン」の開発コストが膨大にかかるため、誰もが完成車メーカーになれなかったわけです。
そうすると従来は自動車産業の主導権を取っていたのは「完成車メーカー」だったわけですが、EVにシフトすると主導権を取るのはキーコンポーネントをつくる「部品メーカー」が取って代わる可能性が高いです。
例えばドイツでいうとボッシュやコンチネンタルなど、ワンストップでEVのキーコンポーネントを提供できる会社が既に主導権を取りつつあります。
総括すると、自動車産業においては従来と全く異なるサプライチェーンが形成される可能性が高く、今からそのサプライチェーンに、どう食い込んでいくかを考えておく必要がある、ということです。
部品加工業であれば車載部品そのものかもしれませんし、あるいはEV生産を支える設備の部品かもしれません。設備メーカーであれば、このEVサプライチェーンにどう設備を供給していくのか、ということです。
サプライチェーンが再編されるとプレーヤーも変わる
EVシフト同様に、製造業のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすのは「脱炭素」関連ビジネスの進展です。
例えば、以前のレポートにも書きましたが、私のある関西の関係先の生産財商社では昨年に何と30億円もの工作機械の商談を受注しました。
1台あたり1億円近くする5軸加工機を30台導入するという商談があり、30億円もの受注に至ったわけです。
ではこの30億円の買い物をした会社がどんな仕事で5軸加工機を使うのかというと、同社のメイン取引先が某大手重工メーカーであり、発電タービンのブレードを加工する仕事だといいます。
石炭やLPGのガスタービンは逆風ですが、この某大手重工メーカーがこれから手掛けるガスタービンは「水素対応」のガスタービンとのことで、まさに「脱炭素」案件であるといえます。
ちなみに、この某大手重工メーカーは“水素”でないにせよ、ずっと昔からタービンをつくってきているわけで、ブレードの加工の仕事を以前は北関東の下請け企業にだしていました。ブレードの加工の仕事はリピートがある分、値引き要請も厳しく、この北関東の下請け企業では償却しきった古い設備を武器に、失礼ながら取り立てて提案活動を行うこともなく、御用聞き的に仕事をこなしていた様です。
その結果、“水素”対応のタービンを開発する、となった時に相談がいった会社は北関東の下請け企業ではなく、前述の関西の会社だったのだと私は推察しています。
これも「脱炭素」に伴うサプライチェーン再編の話です。
では、なぜ、この“水素”に伴う大型案件が関西の会社にながれてしまったのか。
前述の北関東の下請け企業は「営業」とは名ばかりの「納品」をメインで行っている様なクラスの担当者に近い管理職が某大手重工メーカーの窓口をしていた様です。
逆に大型案件を獲得した関西の会社の場合は、営業窓口は経営者でした。つまり経営者自ら情報収集・営業活動を行っていたわけです。
やはり従来のLPGあるいは石炭から、燃料が水素に切り替わるとなると全く新しいブレードの形状、あるいは材質での試作が必要です。そしてその過程で、あるいはその結果として新たな設備投資が求められるケースもあります。こうした相談ができそうな会社には仕事がながれ、相談しても対応してくれなさそうな会社には仕事がながれない、今、あらゆる業界で同様の傾向が見られるということです。
「EV関連」「脱炭素関連」のビジネスを、ものにする方法
こうした「EVシフト」「脱炭素」一連の流れは、私の見方では大きなチャンスだと思います。
なぜなら、
- 従来よりも市場規模が大ききなる
- サプライチェーンがほぼ0から組みなおされるので、「EV」「脱炭素」関連の新たなマーケットに対して新規参入のチャンスが大きくなる
からです。
こうした話をすると次の様な意見をされる社員の方がいます。
「いや、既に既存の取引業者がいるから、簡単に新しい会社に声なんてかからないですよ」
本当にそうでしょうか?
例えば前述のタービンブレードの会社の場合、北関東の下請け会社の場合は「儲かる」リピート品を安くこなす、というビジネスモデルでずっときていたので、新しい試作ニーズに対応できませんでした。
ですから関東の部品加工業に声がかかったのです。
また、何より今、大手企業ではグループ再編が行われています。
例えば従来はタービン事業を関東の事業所メインでおこなっていたのに、グループ再編の影響で関西エリアの事業所がそれを手掛けることになる、ということは十分にあり得ます。そうすると近場の業者に声がかかるわけで、その時点でチャンスが生まれます。
例えば私の関係先のセットメーカーの場合、某大手ロボットメーカーから声がかかる様になり、現在ではこのセットメーカーの売り上げの2割以上をこの新規開拓した某大手ロボットメーカーから獲得しています。
この某大手ロボットメーカーのメイン本社工場は山梨県です。ところが茨城県に新工場をつくることになり、茨城県でサプライヤーを探す、となった時にこのセットメーカーに声がかかったのです。
もっというと、大企業というのはほぼ必ず社内で権力闘争があります。例えば購買部門が再編されると、前の購買部門のキーマンが仲良くしていたサプライヤーではなく、新たな購買部門のキーマンが、色のついていない、自身に対して協力的な新しいサプライヤーを探したい、というのは非常によくある話です。
実際、京都府に本社工場を置く、機械加工業の城陽富士工業様(従業員24名)では、かねてからデジタルマーケティングに取組んできていますが、ここ半年間くらいは「EV関連」「脱炭素」関連の案件が数多く入ってくる様になりました。
先日も誰もが名前を知っている様な大手重工系メーカー(東証一部上場)から引合いが入り、わずか2週間ほどで新規口座を開設してもらいました。
城陽富士工業様は、この大手重工系メーカーとは全く取引もありませんでしたし、接点もありませんでした。
しかも、この大手重工系メーカーは一度も城陽富士工業様の工場見学もしていません。
城陽富士工業の江森社長が「新規口座をつくってくれるのはありがたいのですが、工場見学とかしなくて大丈夫なのですか?」と聞いたところ、この大手重工系メーカーの担当者は「いえ、御社の技術情報サイトやYoutubeチャンネルも拝見しましたが、あと、最低限の調査もさせていただきましたが、安心してお仕事を任せられる会社だと判断しました」と、いうことでした。
ちなみに、この大手重工系メーカーではEVのタイヤを製造するための産業機械をつくっています。
実はガソリン車のタイヤと、EVのタイヤは、外見が同じでも内容が全く違うそうです。
現在のEVシフトに対応する為、とにかく急いで対応ができるサプライヤーを用意したかった、というのがこの大手重工系メーカーのニーズでした。
特に部品加工業は今、大きなチャンスです。
なぜなら今、大手企業では「国内回帰ブーム」「サプライチェーン再編ブーム」だからです。
前述の大手重工系メーカーも、もともとは中国の会社に部品加工を依頼していました。
しかしグループ再編で担当者が変わった上に、会社の方針として「国内調達への切り替え」が打ち出された為、前述の様な話になったのです。
部品加工業の新規開拓にとっては追い風です。
実際、前述の城陽富士工業様では、さらに別の大手建材メーカーからも引合いが入り、新規口座を締結するに至りました。その大手建材メーカーではビルの建材を製造しているのですが、空調の効率をあげて省エネを推進するためのヒートポンプの機能を内蔵した外壁材の試作を行うため、同社に声をかけてきたのです。
試作といっても、ビルの建材となれば膨大な量が見込まれます。やはり工場見学無しで2週間ほどで新規口座開設にいたりました。
こうした城陽富士工業様が取組んでいるデジタルマーケティングそのものは、それほど大きな投資が必要なものではありません。例えばソリューションサイト開設に必要な費用はせいぜい80~120万円ほどで、小型のコンプレッサーほどの費用で開設することができます。
Youtubeチャンネルの開設に至っては無料です。
前述の様に1社でもよいので大手リピート顧客が獲得できれば瞬時に元が取れます。
いずれにせよ、この2022年の重大テーマは、
いかに「EV関連市場」あるいは「脱炭素市場」から、仕事を獲得するか、リピート顧客をつくるか、
ということではないでしょうか。
そこで、船井総合研究所ものづくりグループでは次の様な経営セミナーを企画いたしました。
後者の経営セミナーは、前述の城陽富士工業 江森社長様も特別ゲスト講師として登壇されます。
詳細は下記URLをご覧いただきたいと思います。
自動車部品メーカー向け:内燃機関からEVシフトに備える新規開拓・新規顧客開拓セミナー
https://www.funaisoken.co.jp/seminar/081781
部品加工業向け:EV・半導体・脱炭素マーケット攻略セミナー
https://www.funaisoken.co.jp/seminar/082260
2022年も現場の最新情報を反映させて、部品加工業・セットメーカー・生産財メーカー・生産財商社の経営者の皆様に、業績アップにつながる情報発信を積極的に行っていきたいと考えております。
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