「顧客消滅時代」のマーケティング
先日出版されて重版を重ねている「顧客消滅時代のマーケティング 小阪 裕司 著 PHPビジネス新書」は全ての業界に適用可能な良書だと思います。
例えば緊急事態宣言下で多くの飲食店が赤字に陥る中、
・営業自粛でありながら前年比150%を達成したレストラン
・深夜営業NGでも売上を維持したバー
など、注目に値する事例が同書の中で紹介されています。
同書の中でも述べられていますが、
まず前提として「コロナによって何かが変わった」のではなく、「コロナは起こるべき未来を前倒し加速させた」ということです。
つまり今、「コロナのせいで商売が厳しくなった」と言っている会社あるいはお店というのは、
遅かれ早かれ苦境に見舞われる可能性が高い、ということなのです。
それでは、前述の営業自粛でありながら前年比150%を達成したレストランや、
深夜営業NGでも売上を維持したバーが取組んでいたこととは、どんなことだったのでしょうか?
こうしたお店の共通点は次のただ1つです。
それは、「優良固定客を持っていた」ということなのです。
前述の「営業自粛でありながら前年比150%を達成したレストラン」とは、
名古屋にあるコース料理専門の完全予約制レストラン「ばんどう」というお店のことだそうです。
同店の場合、もともとコロナ前からデジタルに力を入れており、フェイスブックを通して多くの顧客と接点を持ち続けていました。
そして2020年の緊急事態宣言のさなか、
同店のオーナーは「お客様もおいしいものが食べたいのに外食ができないフラストレーションがあるはず」と考え、
「3000円ののり弁当」と「8000円の高級弁当」の開発を宣言。
その開発過程や調理過程をフェイスブックに公開したところ評判が評判をよび、
緊急事態宣言下の4月の売上はなんと前年比150%を達成したそうです。
ここでのポイントは2つです。
まず1つ目のポイントは「顧客リストを有していた」ということです。
通常、飲食店というのは“日銭(ひぜに)”という言葉もあるくらいで、顧客リストを有していないお店が大半です。
しかし顧客リストがなければ、何かあった時にこちらから顧客に対して働きかけをすることができません。
前述の「ばんどう」というお店の場合はフェイスブックを介して、
顧客リストを有していたから緊急事態宣言の中でも顧客に働きかけを行うことができたのです。
2つ目のポイントは「3000円ののり弁当が買える様な富裕層を固定客として有していた」ということです。
コロナ禍の中で大半の人が所得を落とす中で、株式など金融資産を有する富裕層は逆に所得を増やすという現象が世の中的に起きています。
「中小企業の業績は取引先で決まる」という鉄則がここでもみられます。
ちなみに、「深夜営業NGでも売上を維持したバー」が行ったこともほぼ同じです。
今回のコロナ禍で全世界の上場会社のうち、75%は業績を落とし、25%は逆に業績を伸ばしたそうです。
我々は、今こそこの業績を伸ばした25%に学び、同じ取組みをしていく必要があると思います。
前述のコロナでも業績を落とさなかったレストランやバーも、この25%に入るモデル事例であるといえるでしょう。
大不況でも業績を落とさない鉄則
ちなみに、今という時代を俯瞰する上で興味深いもう1冊の本が
「アフターバブル 近代資本主義は延命できるか 小幡 績 著 東洋経済新報社」という本です。
本書の著者は財務省のキャリア官僚を経て現在は慶応義塾大学の准教授ですが、同書によると、
・バブルの本質は常にバブル・アフターバブルであり、バブルが来てバブルが崩壊すると、それを救済するために新たにバブルがつくられる。
・そして、コロナ後にくるのは不況ではなくバブルである。
・ただし、バブルをつくる為の資金が完全に枯渇するため、今回のバブルにはもう後がない。
とのことです。
製造業あるいは生産財業界は今年2月くらいから
「半導体」「5G」「CASE(次世代自動車)」「脱炭素」がらみの追い風が吹いていますが、
同書を読むまでもなく現在の状況は間違いなくバブルだと見ておいた方が良いでしょう。
ここで、前述のコロナ禍でも業績を落とさなかったレストランやバーがコロナ前から取組んでいた
2つのポイントについて改めて述べたいと思います。
①顧客リストを有していること
②優良リピート顧客を有していること
この2つはいわば、大不況でも業績を落とさない鉄則であるといえます。
まず「顧客リストを有していること」についてですが、
例えば製造業や商社・販売店の場合、まだまだ大半の会社が名刺は営業担当者個人持ちの状態で、
名刺情報の統合管理がなされている会社は実は少数派です。
「ウチは名刺情報の管理はしていないけど、顧客情報は販売管理システムの中に入っている」と思われている方もいるかもしれませんが、
販売管理システムで管理されている顧客情報は「事業所の住所・電話番号・経理担当者」くらいの情報にすぎず、
この情報ではスグに顧客への働きかけを行うことは不可能です。
前述のレストランの場合は“フェイスブック”で顧客とつながっていましたが、
製造業や商社・販売店などBtoBビジネスの場合は“メール”で顧客とつながるのが一番で、
すなわち“メールマガジン”がスグに顧客に働きかけを行える手段であるといえます。
例えばエイト等の名刺管理システムであれば、月額数百円とかそんなレベルで名刺の全社管理が可能になります。
会社の資産である名刺情報を営業担当者が個人持ちにしている状態は、すぐに解消すべき課題であるといえるでしょう。
次に「優良リピート顧客を有していること」ですが、
これはBtoBビジネス向けにさらに深掘りをすると次の3要素に分解されます。
①グローバル展開している様な勝ち組の中堅・大手企業と付き合うこと
②かつ、設計・開発・あるいは生産技術といった価格競争になりにくい川上部門と付き合うこと
③さらに、特定顧客・特定業界に依存しないこと
特に、製造業や商社・販売店の場合は③を強く意識する必要があります。
なぜなら、我々の手では何ともコントロールできない国際的な産業構造の変化によって、
忙しかったはずの仕事が一夜にして無くなる可能性を常に秘めているからです。
例えば原子力。
かつてはオバマ大統領がグリーン・ニューディール計画をぶちあげ、米国では原子力発電所を200基建設される計画が発表されました。
当時、原子力発電所の圧力容器をつくれる会社は日本製鋼所 室蘭事業所のみと言われ、同事業所は100年分以上の仕事がある、と言われました。
ところが東日本大震災によりこうした原子力バブルは吹き飛び、原子力関連の新設の仕事はほぼなくなりました。
直近でいえば三菱航空機のMRJです。
これも自動車産業に次ぐ大型プロジェクトとして国の肝いりでスタートしましたが、
米国での型式認証が取れず停滞しているところにコロナで航空需要が激減し、プロジェクトとしては頓挫した状態です。
MRJの需要を見込んで多額の設備投資をした部品加工業というのは数多くあります。
もっといえばかつてのBRICs。
これは今後成長が見込まれる新興国である、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカに投資をしよう、
と投資銀行であるゴールドマン・サックスがぶちあげたブームで、当時は「ブラジル視察」や「ロシア視察」などが流行りましたが、
現在このブームは完全に終焉していて今やBRICsを口にする人は皆無です。
もっというと、本当に経済成長したのは中国のみで、いまから思えばあのブームは何だったのか、という話です。
冷静に考えれば、ESGや脱炭素というキーワードも、産業における実需から生まれたキーワードではなく、
投資銀行など金融業界が生み出したキーワードであることには注意をしておく必要があります。
つまり、現時点ではEVや水素というのは「約束された未来」の様にも見えますが、それでも過去の経験から考えると不確定要素が高い。
成長分野であることは間違いありませんが、リソースの100%をそこに懸けるというのはやはりリスクです。
ちなみに、経営の一般論として特定顧客への依存度は売上の15%以内が理想。
どんなに依存していたとしても30%以内に抑えなければならない、というのが鉄則です。
御社の場合はいかがでしょうか。
コロナ禍に過去最高の売上を達成した事例をご紹介!
そうした意味で、参考になるのが次の3つの無料動画です。
いずれも7分ほどの動画ですが、まさに前述の2つの鉄則、
①顧客リストを有する
②さらにメルマガ等でスグに顧客に働きかける手段を有する
これら2つの手段を有していた結果、前述のレストランやバーと同じく、
コロナ禍でありながら過去最高の売上を達成するなどした事例の無料動画です。
各7分くらいの動画ですので、ぜひご覧いただければと思います。
【コロナ禍の2020年12月に過去最高の売上を達成した機械加工業「社長」の取組み】
【コロナ禍でも「会わずに売る」営業体制で売上をキープしたセットメーカー「社長」の取組み】
【2年間で12億円の新規商談を創出、1億円超の受注を実現した部品加工業「社長」の取組み】
先ほどご紹介した書籍「アフターバブル」の話に戻りますが、
「バブルの中にいる人は、自分がバブルの中にいることに気が付かない」のだそうです。
多少なりとも追い風が吹く今だからこそ、上記3動画のモデル企業の様な取組みを推進するべきでしょう。
また、船井総合研究所ものづくり支援室では、中堅・中小製造業の経営者様向けにオンラインセミナーを開催しております。
是非、ご参加をご検討いただければと思います。